
日本のエネルギー。脱・海外依存への道
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2026年10月19日
日本の最大の問題がエネルギー。原油高騰が続く中、日本はどうすれば海外依存度を下げられるのか?モルガン・スタンレーMUFG証券のロバート・フェルドマン氏に聞いた。 <ゲストプロフィール> ロバート・A・フェルドマン|モルガン・スタンレーMUFG証券 シニア・アドバイザー マサチューセッツ工科大経済学...
資源高騰の構造的危機と日本の活路——電化推進・自前調達・フィジカルAIが拓くエネルギー安全保障
世界的な資源価格の高騰と地政学リスクの連鎖は、もはや一過性のショックにとどまらない構造的転換を迫っている。
人工知能の急速な普及に伴って莫大な電力需要が見込まれる中、エネルギーの安定供給と脱炭素の両立は国家の命運を左右する最重要課題となった。
過去数十年にわたり世界屈指の省エネ実績を誇ってきた日本だが、もはや節約偏重の対症療法だけでは産業競争力を維持できない。
本稿では、モルガン・スタンレーMUFG証券シニアアドバイザーのロバート・フェルドマン氏の精緻なデータ分析をもとに、資源危機の本質、日本の電化の優位性、そして次世代技術が切り拓く安全保障のロードマップを解き明かす。

Q. 世界的なエネルギー資源の高騰はなぜ長期化し、食料インフレにまで波及しているのか?
原油価格の高騰は一服したように見えるが、油断は到底できない。

水面下では中東情勢や対ロシア制裁といった政治的要因に加え、製油所の精製設備能力の逼迫という根深いボトルネックが存在する。
特に軽油は世界的に設備余力が限界に達しており、これ以上の増産が容易ではない。
さらに農業部門が消費するエネルギーの約8割を石油製品、なかでも軽油が占めている点が事態を深刻化させている。
燃料高騰のコストはタイムラグを伴って農産物の生産原価を押し上げ、世界規模の食料インフレへと確実に波及しつつある。
物流ネットワークの機能不全も資源価格を高止まりさせる大きな要因である。
紅海周辺の紛争によるスエズ運河の回避、干ばつによるパナマ運河の通航制限、温暖化による欧州ライン川の水位低下など、輸送のチョークポイントが各地で機能不全に陥っている。
大型タンカーの輸送運賃や船舶保険料が跳ね上がり、欧米の天然ガス在庫も払底しているため、資源価格がかつての低水準に戻る可能性は極めて低い。
Q. 日本のエネルギー戦略において、なぜ従来の「節約・省エネ」から「自前調達」へ舵を切る必要があるのか?
過去20年間の日本経済データを精査すると、驚くべき構造変化が浮き彫りになる。
2000年代半ばまではGDPの成長に伴ってエネルギー総消費量が増加する正の相関を示していたが、直近の20年間はGDPが増加してもエネルギー利用量が減少傾向を維持している。
製造業の海外移転という背景もあるが、官民を挙げた徹底的な省エネルギー努力によって、日本のエネルギー利用効率は極めて高い水準に到達した。
しかし、この効率化努力もすでに物理的な限界点に近づきつつある。
AIデータセンターの増設や電気自動車の普及などにより、今後は国内の電力消費が再び増加に転じる局面に入る。
したがって、少ないエネルギーでしのぐ「節約の時代」は終わりを告げ、いかに安価で安定した電力を自前で確保するかという「調達と安全保障の時代」へと戦略の主軸を根本から転換しなければならない。
日本のエネルギー消費における電力比率は約28パーセントに達しており、欧州の21パーセントを大きく凌駕している。
日本はすでに高度な電化基盤を備えており、発電側の自給率を高めることこそが次なる勝負どころとなる。
Q. 2030年に海外依存度を引き下げるための電源構成改革と国産エネルギーの勝算はどこにあるのか?
現在84パーセントに達している日本のエネルギー海外依存度は、現状維持のペースでは2030年時点でも81%程度にしか下がらない。
しかし、最終需要における電力比率を高めつつ、電源構成の脱炭素化を果敢に進めるシナリオを実行すれば、依存度を76%まで劇的に圧縮できる。
脱炭素とエネルギー安全保障は相反するものではなく、自国電源の比率を高めることで同時に達成可能な補完関係にある。
既設原発の安全な再稼働は移行期の不可欠な柱だが、原発のみに依存し切ることは極めて危険である。

世界のウラン濃縮設備の約5割をロシアが握っているという地政学的制約が存在するためである。
そこで鍵を握るのが、日本固有の地理的利点を活かした純国産再生可能エネルギーの開発である。
国際エネルギー機関の試算によれば、日本の領海および排他的経済水域における洋上風力の賦存量は、国内の年間消費電力の9倍に達する。
天候変動に左右されやすい太陽光を補完する浮体式洋上風力や、米国の巨大テック企業がデータセンターの主電源として着目する豊富な地熱資源の開発に集中投資すべきである。
Q. なぜ単年度会計を脱却した複数年度予算による大型投資と供給サイド支援が不可欠なのか?
大型エネルギー基盤の開発には、数年から十数年に及ぶ莫大なリードタイムと巨額の投融資が伴う。
従来の単年度会計制度では毎年予算獲得の不確実性に晒されるため、民間企業は回収期間の長い革新的プロジェクトに腰を据えて取り組めなかった。
国家が複数年度にわたる長期確約予算を措置することは、産業界の予見可能性を劇的に高め、大型イノベーション投資を呼び込む強力な起爆剤となる。
公的資金の投入先については、需要喚起ではなく供給サイドの技術開発とインフラ整備に厳格に集中させなければならない。
供給余力がないまま需要だけを補助金で刺激すれば、電力価格の高騰を招くだけである。
新技術の普及を決定づけるのは化石燃料に対する相対価格の優位性である。
例えば水素をガソリンに対抗させるには、製造コストを現在の5ドルから1ドル程度へと従来の4分の1に引き下げるブレークスルーが必要となる。
勝ち筋を単一技術に決め打ちせず、水素、蓄電池、EV、合成燃料などを網羅するマルチパスウェイ戦略を採り、安価なエネルギーを創出する基盤技術に予算を振り向けることが肝要である。
Q. 重工業の電化障壁や高止まりする電気料金を克服するために、どのようなアプローチが有効なのか?
産業部門の電化進展度合いには著しい格差が存在する。
オール電化が進んだ一般家庭や商業セクターが電化を牽引する一方で、鉄鋼やセメントなどの重化学工業は極めて高い技術障壁に直面している。
鉄鉱石を高熱で還元して粗鋼を製造する工程には天文学的な熱量が必要であり、電炉によるスクラップ再生とは難易度の次元が異なる。
また、セメントから排出されるCO2の約6割は燃料燃焼ではなく原料の化学反応そのものに起因する。

ここでは水素還元製鉄の実用化や、炭素排出を極限まで抑えた革新的な代替素材の開発といった、日本の素材科学の強みを結集した製造プロセスの抜本改革が欠かせない。
産業全体の電化を促すには、欧米比で2倍から3倍に達する割高な国内電気料金を引き下げなければならない。
大手電力会社の設備投資回収に配慮しつつも、市場の寡占構造を打破して新規参入と競争を促す制度改革が急務である。
その模範となるのが、かつて深刻な公害問題を乗り越えた福岡県北九州市の協働モデルである。
市民、労働組合、企業、自治体が対立を超えて一体となり、産業活動と環境改善を両立させた歴史的知恵こそ、現代の地域分散型エネルギー構築において再評価されるべきアプローチである。
Q. AIの急激な普及による電力消費増は逆説的に省エネを生むのか、また日本の競争力にどう直結するのか?
AIの爆発的普及はデータセンターの電力消費を急増させるが、それ自体が社会全体の省エネルギーを達成する最強の最適化エンジンとして機能する。
サプライチェーンの非効率や物流のボトルネックをAIで瞬時に解析・解消すれば、AI自身が消費する電力量を上回る莫大なエネルギーロスを社会全体から削減できる。
ネットで見ればエネルギー総需要を抑制する効果すら期待できる。
さらに、医療事務の自動化やAI創薬によって年間数十兆円規模に膨らむ社会保障関連費を圧縮できれば、浮いた国家予算をエネルギー技術の研究開発へ再配分する好循環も創出できる。
技術の社会実装を加速させるためには、規格の標準化とフィジカルAIの融合が不可欠である。
かつてタイプライターのキーボード配置がQWERTY配列に統一されたことで教育コストが劇的に下がり、タイピストの需要爆発と賃金上昇が起きたのと同様、AI操作や通信規格の標準化が生産性向上の命運を握る。
そして日本の最大の勝機は、現実世界を物理的に動かすフィジカルAIとロボティクスの領域にある。
国内の製造業や機械メーカーが蓄積してきた膨大かつ高精度な現場の動作・計測データは、他国が決して模倣できない至宝の資産である。
このリアルデータを自律型ロボットに組み込み、省エネ技術と高度に連動させることこそ、日本が再び世界の産業競争力を牽引するための決定打となる。