PIVOT TALK BUSINESS
日本人初の米国ユニコーン、アルパカ創業者が語る「金融取引の未来」
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2026年10月16日

日本人で初めて米国でユニコーン創業者となったアルパカの横山毅CEO。事業を手がける金融インフラ分野で、今後どんな変化があるのか?どんな成長戦略を描いているのか?来日中の横川氏に聞いた。 ▼ゲスト 横川 毅|アルパカ社共同創業者兼CEO 慶應義塾大学総合政策学部卒業。 05年にリーマン・ブラザーズ、...
日本人初・米国ユニコーン創業者が語る金融インフラの未来と世界生存戦略
日本人として初めて米国でユニコーン企業を創出したAlpaca(アルパカ)創業者兼CEOの横川毅氏。

同社は世界各国のフィンテックや金融機関に対し、APIを介して米国株などの取引・決済を可能にする証券インフラを提供している。
華々しい成功の裏には、リーマン・ブラザーズ退職後のデイトレード挫折や相次ぐ事業ピボットといった泥臭い試行錯誤があった。
自らの弱さを受け入れて強みに転換する独自のリーダーシップと、350兆ドル規模の巨大市場を見据える冷徹な勝算に迫る。
Q. デイトレードの挫折や起業初期の失敗から、リーダーとしてどのような教訓を得たのか?
リーマン・ブラザーズ破綻を機に退職した横川氏は、実家に戻り2年間にわたってデイトレードに没頭した。
しかし結果は振るわず、そこで痛感したのは「ルールを策定すること」と「感情を排してそれを実行し続けること」の決定的な乖離だった。
自らを律しきれない甘さを認識したことで、プレイヤーとして自力でやり切る限界を悟った。

その後、大学の仲間と起業したものの、当初は受託開発やスタートアップの本質さえ理解していなかった。
一連の失敗から導き出した横川氏の強みは、自身の不得意領域を率直に受け入れる姿勢である。
万能な専門性を誇示するのではなく、「自分にはできない」と割り切る。
そして、自分より遥かに優秀な専門家を惹きつけて権限を委ねるスタイルを確立した。
弱さを認める受容力こそが、強力なチームビルディングと柔軟な組織運営の源泉となっている。
Q. 画像認識AIからピボットし、金融インフラ事業「Alpaca」を立ち上げた原動力は何だったのか?
創業初期に手掛けた画像認識AIサービス「Labellio」は京セラへの売却に成功したものの、横川氏自身の心には違和感が残っていた。
「なぜ自分がこの事業をやっているのか」という根本的な問いに対し、内なる情熱が合致しなくなったのである。

頭で組み立てた論理だけでは事業を継続できず、燃え尽きてしまう。
生き残るためのプロダクトマーケットフィットを経て組織拡大に向かう過程で、自身の感情に素直に聞き直す必要があった。
そこで浮上したのが、日米を行き来する中で抱き続けた「不公平さへの強烈な苛立ち」だった。
米国ではRobinhoodなどを使い洗練されたUIで手軽に株式投資ができる一方、日本を含む国外からは法規制やインフラの壁により利用すらできない。
金融サービスにおける圧倒的な地域格差や参入障壁を解消し、世界中の誰もが金融市場にアクセスできる仕組みを作りたいという憤りこそが、事業の揺るぎない原動力となった。
Q. なぜ派手なBtoCアプリではなく、参入障壁の高い証券クリアリングインフラに注力したのか?
Robinhoodの成功以降、世界各国で類似のコンシューマー向け投資アプリが乱立した。
しかし、各国の文化や商習慣に依存するBtoCプロダクトは、グローバルな水平展開が極めて困難である。
そこで横川氏は、各国の起業家が自国版の投資サービスを開発できるように取引機能を抽象化し、APIとして提供するBtoBtoC基盤の構築に舵を切った。
証券の清算・保管を担うクリアリング証券の立ち上げには、膨大な資金と5〜10年単位の許認可取得プロセスを要する。
コロナ禍のゼロ金利時代、同社は調達資金を派手な顧客獲得広告には投じず、参入障壁となる金融ライセンス取得と基幹システムの自社開発に集中投下した。
表舞台で目立つことへの虚栄心を捨て、見えない裏側で市場を牛耳るインフラを独占する戦略が、競合の追随を許さない強固な堀を形成している。
Q. 金融取引の未来において、AIの台頭以上に「オンチェーン化」が本質的な地殻変動とされるのはなぜか?
現在注目を集める生成AIは、投資判断や情報収集のインターフェースを劇的に進化させる。
しかし資本市場の根底にある「恐怖と強欲」という人間の本質的欲望は不変であり、取引行動の構造そのものを根底から変えるわけではない。
高度なアルゴリズム取引自体は、大手ヘッジファンドが以前から自社開発して運用してきた延長線上の技術に過ぎない。
金融取引における真の非連続な進化は、決済・清算を担うバックエンドの「オンチェーン化(トークン化)」にある。

紙の株券から電子記帳へと移行した歴史と同様に、ブロックチェーン上にデータベースを移行することで、約定から受渡までのタイムラグは極小化され即時決済が実現する。
法規制や投資家保護の調整には数十年の歳月を要する大事業となるが、不可逆な潮流であり、この基盤を制した者が次世代の金融市場をリードする。
Q. 内需が縮小する日本企業が世界市場で生き残るために必要な戦略とマインドセットとは何か?
国内市場の漸減に直面する日本企業にとって、グローバル進出は単なる選択肢ではなく絶対的な生存条件である。
焦土から外需獲得のみを頼りに急成長した戦後復興期のソニーやトヨタのように、内需の縮小というマクロの現実を冷徹に受け止め、必然の行動を起こさなければならない。
現状の快適さに安住して危機感を先送りすることは、緩慢な衰退を招くだけである。
海外展開においては、自国の文化的独自性を過度に押し出さず、世界共通のプラットフォームに徹する「アイデンティティレス」な姿勢が鍵を握る。
特に金融領域では、国ごとに嗜好が分かれるリテールBtoCを避け、世界共通のニーズを持つBtoBインフラや富裕層市場に的を絞ることが極めて現実的な勝ち筋となる。
Q. 350兆ドルの巨大市場を開拓する組織において、リーダーが最も重視する価値観とは何か?
世界中で信託されている証券資産は350兆ドルに達するが、Alpacaの市場占有率は現時点で1%にも満たない。
受託資産残高(AUC)の拡大が収益の最大要因となる中、大手カストディアンが君臨する世界トップ10の座に食い込むことが中長期の目標である。
膨大な市場リスクやコンプライアンスリスクを抱える金融事業では、経営者単独での完全な統制は不可能であり、優秀な人材の自律的配置が不可欠となる。
同社が求めるコアバリューは、言行一致でやり遂げる責任感(Be Accountable)、未知の環境を面白がる知的好奇心(Stay Curious)、そして多様な背景を尊重する共感力(Have Empathy)の3点に集約される。
リーダー自身が無理なストイックさで心身を疲弊させるのではなく、弱さや甘さを素直に認めることで、持続可能な組織と飛躍的な成長基盤が構築される。