PIVOT TALK BUSINESS
世界のAI覇権争い。中国人vs 中国人
(40)
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2026年10月15日

米中のAI競争の本質とは何か?米中は経済ではすでに握っているのか?ガラバゴス日本の国、企業、個人が生きる道とは何か?田村耕太郎氏に聞いた。 ▼ゲスト 田村耕太郎|シンガポール国立大学 リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授 早大卒、慶大MBA、イェール大院等修了。山一證券、大阪日日新聞社長を経て参...
米中テック相互依存の真実とガラパゴス日本の生存戦略
世界を二分する対立が喧伝される米中関係だが、その実態は外交上のポーズとは大きく異なっている。
最先端のAI開発やバイオテック領域において、米国は中国のトップ人材や原料供給に深く依存しており、両国は切っても切れない関係にある。
こうした現実を見落としたまま米国の後ろ盾に寄りかかり続ければ、日本はある日突然、頭越しに米中が妥協する冷徹な現実に直面しかねない。
人口減少と少子高齢化に直面する日本がこの激動期を生き残る鍵は、ガラパゴスと揶揄されてきた国内市場で独自に磨かれた現場力とフィジカルな産業力にある。
地政学の深層から、個人が世界市場で確実に外貨を稼ぎ抜くための泥臭いキャリア論、そして学びを嫌いにさせない教育法まで、日本が進むべき針路を解き明かす。
Q. 表面的に対立しているように見える米中両国は、テクノロジー領域でどのような相互依存関係を結んでいるのか?
米中関係を巡っては地政学的な対立ばかりが強調されがちだが、テクノロジーの深層では強固な相互依存関係が成立している。
とりわけ最先端のAI開発現場において、米国は中国本土出身の研究人材に全面的に依存しているのが実情である。
米国のフロンティアAI企業や研究ラボを牽引している研究者の3分の1以上は、中国で生まれ育ち現地の学部教育を終えた中国籍の人材である。

現地のラボ運営者自身が、中国人研究者がいなくなれば米国のAI開発は即座に成り立たなくなると認めているほどである。
さらに創薬やバイオテックの領域でも、中国の臨床件数とスピードは米国を凌駕し、世界最高水準のがん治療や新薬開発が中国で進んでいる。
米国政府は安全保障上の懸念から中国企業を排除する法案を推進しているが、現実にはインドなどを経由した迂回調達が増加しているに過ぎない。
中間財や原薬の多くは依然として中国製であり、ラベルを貼り替えただけで依存構造そのものは断ち切れていないのである。
両国の最高峰AIモデルの性能差はわずか3ヶ月程度にまで縮小しており、米国にいる優秀な研究者が本国へ戻れば勢力図は一変する可能性がある。
Q. 米中対立という言説の裏で、日本が頭越しに梯子を外されるリスクに対してどう備えるべきなのか?
歴史的に覇権国と新興国の間で衝突が起きる「ツキジデスの罠」が指摘されるが、現在の米中両国には正面衝突を回避したい明確な動機がある。
中国は深刻な少子高齢化と社会保障の危機を抱えており、対外的な領土拡張よりも「中進国の罠」をいかに回避するかに全力を注いでいる。
軍の主力兵士の多くが一人っ子であるため戦死者を出すリスクを取れず、軍事衝突を望む合理的な理由はない。

一方の米国も、国家安全保障戦略文書において西半球を最重要視し、中国を倒すべき敵ではなく対等な競争相手と位置付ける姿勢を示している。
米軍の元高官らも勝つことではなく負けないこと、すなわち戦わない現状維持を最優先の目標に掲げている。
米国は建国以来の大半の歴史において孤立主義的なモンロー主義を基本としており、アジアへの過度な介入から手を引く本音を持っている。
過去のニクソン・ショックのように、米中首脳が自国の国益を優先して日本の頭越しに妥協するシナリオは十分に想定される。
日本は日米同盟を基軸にしつつも、米国への全面依存というお花畑の思考を捨て、自前の外交カードと防衛基盤を構築しなければならない。
Q. ガラパゴスと揶揄されてきた日本の独自市場や文化は、なぜ今になって世界市場で評価されているのか?
日本は長年ガラパゴスと批判されてきたが、孤立した環境で変化が止まっていたわけではない。
巨大で厚みのある国内市場において、世界で最も要求水準が高い消費者に鍛え抜かれることで、独自の洗練を遂げてきたのである。
AIによる高精度な翻訳技術の普及によって言語の障壁が消失した結果、世界が日本の特異な価値を自発的に発見し始めている。
例えば国内市場だけを見据えて制作された独特な日本のバラエティ番組が、Netflixを通じて海外で熱狂的に支持されている。
初めから世界基準に合わせてマーケティングを行う韓国型の成功手法とは異なり、日本は自国市場に特化して極限まで磨いた結果として世界を魅了している。
訪日外国人客が好む旅館文化やスナック、あるいは複合レジャー施設なども、欧米には存在しない魅力的な体験ビジネスとして海外進出の好機を迎えている。

閉ざされた島で独自に進化した固有種だからこそ、外来種に駆逐されることなく、むしろ世界市場で唯一無二の競争力を発揮できるのである。
Q. AIが急速に進化する時代において、個人や企業が確実に生き残り高収入を得られる領域はどこにあるのか?
AIやソフトウェアの世界で米国企業の真似事をしても、巨大な資本と優秀な頭脳が集中する環境で勝ち抜くことは極めて困難である。
日本人が勝負すべき主戦場は、AIやヒューマノイドが容易に入り込めない泥臭い物理的なフィジカルビジネスである。
米国のエリート層の間でも、ホワイトカラー業務から離れて配管工や電気技師、コインランドリー経営などに進出する動きが加速している。
日本の電気工事業、住宅内装業、害虫駆除業などが持つ現場技術の正確さと細やかさは、世界的に見て圧倒的な水準にある。
人手不足が深刻化する米国などの先進国では、熟練した現場職人が日本国内とは桁違いの高単価で迎えられている。

電力需要の爆発に伴う発電所建設やインフラ補修など、人間が現場で手を動かさなければ成立しない需要は将来にわたって確定している。
需要が不透明な新規AIビジネスを追いかけるよりも、すでに検証済みの物理ビジネスに最新の経営手法を掛け合わせて海外展開する方が勝率は高い。
Q. 国や社会に貢献したい志を持つ人材は、これからの時代にどのようなキャリアパスを歩むべきなのか?
公のために働きたいと考える人材ほど、新卒で官僚や政治家を目指すのではなく、まずは民間市場で生き抜く個人の技量を磨くべきである。
外部で通用するスキルや経済的基盤を持たないまま公職に就くと、失業や落選を恐れるあまり保身と机上の空論に陥ってしまうからである。
多様な世界を経験し、自分一人でも食っていける自信を持った人材が後から公共領域に参画する「リボルビングドア型」のキャリアが理想的である。
政治家を志すのであれば、国政の抽象的な議論から始めるのではなく、具体的な現場課題の解決が求められる市長から挑むのが合理的である。
一方、知的好奇心を追求して先端研究に挑みたいのであれば、国家の研究機関や大学よりも民間のビッグテックが主舞台になりつつある。
潤沢な資本力を持つ巨大テック企業は大学以上の待遇を用意し、数十年先を見据えた基礎研究に巨額の資金を投じている。
研究者が自らの学術知見を害虫駆除などの現場ビジネスに応用するように、知の最前線と物理的な現場を横断できる人材こそが高い市場価値を生み出せる。
Q. 激変する世界を生き抜く子どもたちに対して、大人はどのような教育環境と学習機会を提供するべきなのか?
教育において最も避けるべき事態は、子どもが勉強そのものを嫌いになってしまうことである。
日本の学校教育に根強く残る間違い探しのような減点方式テストは、採点者の都合を優先した仕組みであり、子どもの向学心を奪う最大の原因となっている。
正解か不正解かだけで知能を評価される環境では、子どもは失敗を過度に恐れ、自発的な探求意欲を失ってしまう。
特に数学や語学の教育においては、それが実社会でどのように役立つ道具であるかを実感させることが不可欠である。
英語学習においても文法の間違いを指摘するのではなく、不完全であっても対話を通じて意思を伝える試行回数を重ねることが上達への近道である。
大人が果たすべき役割は、画一的な基準で子どもを評価することではなく、一人ひとりの到達度に根気強く向き合うことである。
生涯にわたって知的好奇心を失わず、自ら学び続ける姿勢を育むことこそが、予測不能な時代を生き抜く最大のお守りとなるのである。