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情報漏洩は「まだ序の口」
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2026年10月10日

チームみらいの安野貴博氏は、情報漏洩は氷山の一角に過ぎないと語る 「AI対AI」の迎撃体制に移行すべき 企業がすべきAI対策とは 政府のAI対策・フランスとどう違うのか? AI主権における日本の現在地を聞いた <ゲスト> 安野貴博|AIエンジニア/起業家/参議院議員 1990年、東京都生まれ。開...
米中AI二極化に立ち向かう「第3の道」と日本の生存戦略――サイバー激甚化とトークン赤字の処方箋
生成AIの急激な進化に伴い、サイバー空間では企業や公的機関からの深刻な情報漏洩が相次いでいる。
攻撃側が高度なAI兵器を手に入れた現在、従来の防御策は音を立てて崩れ去りつつある。
さらに巨額の資本力で先端モデルを独占する米国と中国の狭間で、自前の基盤モデルを持たない日本のような中堅国はいかに自律性を保つべきかという重い課題に直面している。
海外サービス依存によるデータ流出やアクセス遮断リスク、そして国富を奪う「トークン赤字」という難題に対し、中堅国フランスの現実主義的な舵取りは大いなる示唆を与えている。
AI主権の本質を解剖し、日本が選ぶべき独自の勝ち筋と三正面作戦の全貌を明らかにする。

Q. なぜ近年サイバー攻撃や情報漏洩が急増し、従来のセキュリティ対策が通用しなくなったのか?
近年相次いでいる個人情報の大量流出事案は、水面下に潜む脅威の氷山の一角に過ぎない。
その最大の要因は、攻撃側のAI能力が飛躍的に増強されたことにある。
2026年4月に登場したClaude Mythosは、従来のスキャン技術では検知不能だった未知の脆弱性を大量に発見して世界に衝撃を与えた。
さらに中国製のオープンウェイトモデルGLM-5.3がそれに匹敵する性能を公開したことで、かつては高度に訓練された専門家しか行えなかったサイバー攻撃が、今や誰でも低コストで実行可能になった。
この環境下において、多くの日本企業が踏襲してきた旧来型の防衛手法は完全に無力化している。

年に1回の定期的な脆弱性診断を行い、公開されたパッチを順番に適用していく静的な運用では、数ヶ月単位で未知の攻撃経路を開拓するAIの速度に到底追いつけない。
攻撃側がAIを駆使して侵入を試みる以上、守る側も同等以上のAIを常時稼働させ、自社システムへ連続的に疑似攻撃を仕掛けて弱点を洗い出す「AI対AI」の迎撃体制へ移行しなければ対抗できない。
そのためには、AIセキュリティを担う専門人材と、防御を支える十分な計算資源の確保が急務である。
Q. 米中の巨大資本に対抗する上で、中堅国が確保すべき「AI主権」とは具体的に何を指すのか?
「AI主権(ソブリンティ)」という言葉は、しばしば国産AIモデルをゼロから開発することと短絡的に捉えられがちである。
しかし、巨額の資金と計算資源を注ぎ込む米中のフロンティア企業に対抗し、一国で単独の最先端モデルを維持し続けることは現実的ではない。
真のAI主権とは、自国の意思決定と安全保障を海外の特定プラットフォームに握られない状態を指し、具体的には4つの重要要素に分解して捉える必要がある。
データの主権:自国内の機密情報や個人データを国外企業に渡さず、自国の管轄下で完全に管理・統制できる権利
計算資源の主権:先端半導体(GPU)や国内データセンターを確保し、国外の都合で処理が停止しない自律的インフラ基盤
モデルの主権:特定国家の輸出規制や方針変更に左右されず、自国の価値観に合わせて自前環境で稼働・調整できるモデルの選択肢
人材の主権:AI基盤を理解し、自律的な実装、検証、ファインチューニングを遂行できる高度技術人材の保有
米国のクローズドAPIに過度に依存すれば、米政府の令状によるデータ開示リスクや、輸出管理規制による突然の利用遮断リスクに晒される。
主権を担保する核心は、自前のインフラ上で自律的に動かせるオープンウェイトモデルの確保にある。
Q. なぜ技術に慎重なフランス政府が、中国製のオープンウェイトモデルを実務に採用しているのか?
フランスは新技術に対して極めて慎重であり、人間の尊厳や安全性を巡る徹底した議論を重ねる国柄である。
そのフランス政府が行政基盤として最も活用しているAIが、中国製のオープンウェイトモデル「DeepSeek」であるという事実は極めて興味深い。
この背景には、中堅国としての高度な現実的実利主義と冷徹なリスク計算が存在する。
行政実務の大半において、法外なコストを要する最新のフロンティア性能は必ずしも必須ではなく、型落ちでも自国で完全管理できるモデルの方が有用であるという合理的な割り切りである。
米国製APIサービスは、地政学的対立や政策変更によって一夜にしてアクセスを遮断されるリスクを孕む。

対して、中身の重みデータが公開されたオープンウェイトモデルであれば、国内の自前クラウドサーバーに落とし込んで完結稼働させることができる。
電力が供給されている限り利用は停止せず、行政データが外部の海外サーバーへ漏出することも完全に防げる。
懸念されるバックドアや悪意ある振る舞いに対しては、フランス国立計量試験所(LNE)のような公的専門機関がモデルの挙動を常時継続的に安全検証する仕組みを整えている。
感情的な排除を退け、安全監視体制を敷いた上で安価で高性能なモデルを使い倒す姿勢は、日本が大いに学ぶべき点である。
Q. AI利用の拡大に伴い爆発する「トークン赤字」に対し、組織はどのように予算を設計すべきか?
AIの導入が進む組織において今最も深刻な経営課題となりつつあるのが、API利用料の爆発的な増加、すなわち「トークン赤字」の問題である。
AIは使えば使うほど業務生産性を向上させる反面、従量課金コストが跳ね上がり、放置すれば数ヶ月で利用料が数十倍に膨らみかねない。
国全体で見ても、高額な海外サービスへの支出が巨額の資金の海外流出を招くリスクを孕んでいる。
この問題に対処するためには、あらゆる作業に最先端モデルを投じる無駄を排し、日常的な定型業務には安価なオープンウェイトモデルを割り当てるROI管理の徹底が求められる。
さらに根本的な対策として、組織におけるAI費用の位置づけそのものを再定義しなければならない。
AI費用を従来の静的な「ITシステム保守費」の枠組みで処理しようとすると、必ず予算の枯渇を招く。
AI費用は、システム費用と人件費のちょうど中間的な性質を持つ新たな資源として捉えるべきである。
米Uber社のように「人件費の約5%」を目安として独立したAI予算枠を設定する手法は極めて示唆に富んでいる。
エンジニアやアナリストのようにAIによるレバレッジが高い職種には15%前後の手厚い枠を配分し、そうでない職種と傾斜をつけることで、人間とAI知能のベストミックスを追求することが肝要である。

Q. 米中二強の狭間で、日本が生き残るための「第三の道」と「三正面作戦」とは何か?
米中両国の巨額投資競争に単独で挑むことが不可能な日本にとって、模索すべきは中堅国連合による「第三の道」である。
欧州原子核研究機構(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器を複数国の共同出資で建造した歴史に倣い、日本、フランス、カナダ、ドイツ、韓国などのミドルパワー諸国が連合し、単独では賄えない超巨大データセンターを共同で設立・運用する構想は極めて有望である。
AI基盤モデルの訓練には分散した小規模インフラではなく一極集中型の巨大計算資源が不可欠であり、成果を参加国で公平に共有する国際協調こそが米中独占を打破する突破口となる。
この国際連携を軸としつつ、日本は国家戦略として以下の「三正面作戦」を同時に展開しなければならない。
米国との半導体交渉:熊本のTSMCやラピダス等による国内半導体製造力を梃子とし、基盤モデルで劣勢であってもハード供給面から米国に対して強力な交渉力を確保する
中国モデルの戦略的実利活用:AIセーフティ・インスティテュート(AISI)等の公的検証機関で安全性を担保した上で、高性能な中国製オープンモデルを低リスク領域で徹底活用する
中堅国連合の牽引:ミドルパワー諸国との共同計算基盤づくりを先導し、超大国に依存しない第三極のインフラ体制を確立する
ハードウェアの強みを外交カードに転換し、実利と主権を両立させる重層的な戦略を速やかに打ち出すことが、日本のデジタル主権を確立する唯一の活路である。