人生100年時代のキャリア

「やりたいこと」が見つからず、身動きが取れないビジネスパーソンは多い。なぜ私たちは正解を探し求めてしまうのか?偶然をキャリアにどう生かすべきか?AI時代に生き残るための「正解のない世界」への向き合い方とは。ベストセラーを連発してきた作家・プロデューサーの長倉顕太氏に聞いた。 <ゲスト> 長倉顕太|...
やりたいことがない人ほどうまくいく?AI時代を生き抜く「複数職」と「偶発性」のキャリア論
「将来やりたいことが見つからない」「今の仕事が本当に自分に向いているのか分からない」と頭を抱えるビジネスパーソンは少なくない。
しかし、ベストセラー編集者であり作家の長倉顕太氏は、明確な目的を持たない状態こそが、変化の激しい現代を生き抜く最大の強みになると提唱する。
人生100年時代を迎え、従来の「就社」という概念や終身雇用の前提は完全に崩壊しつつある。
テクノロジーの急激な進化によって既存の職業が次々と消滅する今、求められるのは単一の専門性に固執することではない。
人生に偶然を取り込み、複数のキャリアを柔軟に渡り歩くための実践的な思考法を紐解いていく。

Q. 「やりたいことがない」と悩む若者が多い中、なぜ明確な目的を持たない方が成功しやすいと言えるのか?
若者の8割から9割が「やりたいことが分からない」と悩んでいる現状は、決して異常ではなくむしろ健全な状態である。
スタンフォード大学のクランボルツ博士が提唱した「計画的偶発性理論」によれば、社会的に成功を収めた人々のキャリアの8割は、当初の計画ではなく予期せぬ偶然によって形成されている。
最初から狭い視野で特定の目的に縛られている人は、想定外のチャンスが目の前に現れても気付かずに見過ごしてしまう傾向が強い。
これに対して、確固たる目標を持たない人は状況の変化に柔軟に対応し、舞い込んできた偶然の好機に即座に飛び乗ることができる。
仕事の向き不向きは、実際に現場で手を動かしてみるまで誰にも判断がつかない。
頭の中だけで自己分析を繰り返して完璧な正解を探そうとする行為は、行動を先送りする言い訳に過ぎない。
1回目から成功を求めず、未知の環境に身を投じることで初めて、自分の潜在的な適性や天職と呼べる領域が明らかになる。
Q. 偶然のチャンスを呼び込み、キャリアのブレイクスルーを掴むためにはどのような行動が必要なのか?
人生に好機をもたらす偶然とは、ただ座して待っているだけで降ってくるものではない。
同じ自宅から同じ時間の電車に乗り、同じ会社の決まったメンバーと顔を合わせ、同じ帰宅ルートを辿るような固定化された日常からは、偶然は一切生まれない。
偶然との遭遇率を高めるためには、行動パターンを意図的に崩し、これまでの自分の行動範囲の外側へ足を伸ばす必要がある。
長倉氏自身も就職活動を一切行わず、28歳まで定職に就かずにアルバイトや海外留学を重ねる型破りな20代を過ごした。
その後拾われた小規模な出版社において、当時日本に進出したばかりのAmazonマーケティングへいち早く挑戦できたのは、業界の常識に縛られていなかったからである。
深く考えてリスクを測りすぎる人間ほど足がすくんで動けなくなるため、直感と勢いで未経験の環境へ飛び込む身軽さこそが偶発的な幸運を引き寄せる鍵となる。
Q. 人生100年時代において、なぜ一つの会社に留まらず「複数の職業経験」を前提にすべきなのか?

寿命が延伸し70歳や80歳まで働くことが当たり前になる時代において、企業の平均寿命は個人の労働期間よりも遥かに短くなっている。
現在の一社あたりの平均勤続年数は約12.7年であり、20代から70代までの約50年間の労働人生を逆算すれば、誰もが必然的に4社以上を経験する計算となる。
単一の会社に一生を捧げる「就社」の発想を維持することは、極めてリスクの高い賭けに等しい。
これからの時代は「会社に所属する」のではなく「会社を道具として利用する」というドライな視点が欠かせない。
本業を維持しながらリモートワークや副業を駆使し、週に数日は別のプロジェクトに関わったり、社外活動へ参加したりして複数の看板を持つべきである。
特に日本人は学校教育の影響で受動的になりがちであり、実社会の現実に直面して自発的に学び始める28歳前後こそが実質的な人生のスタート地点となる。
会社を足場にしながら次の職業の種を蒔き続ける姿勢が、長期的生存の必須条件である。
Q. 生成AIの台頭によって専門技術が消滅していく時代に、最後まで生き残る武器とは何か?
かつて印刷業界で不可欠とされた写植職人の技術が一瞬でDTPに淘汰されたように、どんな高度な技能も時代の波で容易に価値を失う。
近年でも、映像の自動編集や音声の文字起こしなど、従来の専門職が担っていた実務がAIによって瞬時に無価値化している。
単一のスキル習得だけに依存しているビジネスパーソンは、技術革新によって梯子を外される恐怖に怯え続けることになる。
知識や実務スキルの重要度が相対的に低下するAI時代において、最終的な差別化要因となるのは「誰と繋がっているか」という人間関係である。
予期せぬ仕事や新たなプロジェクトの機会を運んでくるのは、アルゴリズムではなく常に生身の人間である。
特定の一社に閉じこもるのではなく、多様なコミュニティにアンテナを張り巡らせ、信頼できる人的ネットワークを構築しておくことこそが最強の安全網となる。
Q. 職業ではなく「ライフスタイル」を軸に据える生き方とは、具体的にどのようなものか?

どの職業がいつ淘汰されるか予測できない以上、職業名を自己アイデンティティにするのは得策ではない。
最優先すべきは「どんな環境で、誰とどのような時間を過ごしたいか」というライフスタイルの決定である。
田舎で暮らしたいのであればリモート環境を整え、刺激的なクリエイターと協業したいのであればその界隈に身を置くなど、生活の理想像から逆算して働き方を適合させていく。
生活を設計する上で見落としてはならないのが、お金や健康の位置付けである。
お金や健康は人生を充実させるための単なる「手段」に過ぎず、貯蓄や健康法そのものを目的にすると生き方が歪んでしまう。
お金は使わなければ意味がないチケットと同じであり、特に20代や30代は将来の不安から蓄財に励むのではなく、人脈や未知の経験へと積極的に投資すべきである。
さらに、金銭的見返りを求めない社会貢献活動や、他人の評価から完全に切り離された「答えのない趣味」を生活に組み込むことが極めて有効である。
報酬や承認欲求だけを原動力にすると精神は摩耗するが、純粋な内発的動機に基づく活動は枯渇しない精神的活力を生み出してくれる。
Q. 人生の岐路で後悔しない選択をするためには、何を基準に決断を下すべきなのか?

多くの人が行動を起こせない根本的な原因は、決断の瞬間に「絶対に失敗しない最善の選択」を当てようとすることにある。
しかし人生はテストではないため、選ぶ前の段階でどれが正解かを判別することは原理的に不可能である。
肝要なのは「最善の選択肢を探すこと」ではなく、「自分が選んだ道を事後的に最善にしていく覚悟」を持つことである。
二者択一で頭を抱えて悩む程度の差であれば、客観的な条件はどちらも大差がない。
悩んで時間を浪費するくらいならサイコロを振ってでも即断即決し、選んだ環境を全力で正解に仕立て上げればよい。
万が一それが明らかな誤りだと分かったなら、その時点で速やかに次の選択肢へと軌道修正すれば済む話である。
他人に相談して引き止められる甘えを捨て、過去の狭い好き嫌いにとらわれず、能動的に人生の駒を進め続ける姿勢こそが道を拓く。