ビジネス虎の巻
すい臓がんの危険サイン5選/5年生存率10%の最凶がん
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2026年9月20日

「ビジネス虎の巻」、今回のテーマは「すい臓がん&皮膚がん」。前編では、予防医学chで人気の内科医・森勇磨がすい臓がんの危険サインなどを解説。 <ゲスト> 森勇磨|日本デジタル診療協会代表理事・内科医 藤田医科大学病院の救命救急病棟での勤務などを経て現職。自身が運営するYouTubeチャンネル 「予...
沈黙の臓器に潜む凶悪ながん、すい臓がんのサインと対策
胃の裏側にひっそりと隠れ、「沈黙の臓器」として知られる膵臓。この小さな臓器に発生する膵臓がんは、発見の難しさゆえに5年生存率が全がんの中で最も低い11.8%という過酷な現実がある。その凶悪な病理の全貌、そして体からのわずかなSOSの受け止め方について掘り下げる。

Q. 膵臓とはどのような臓器なのか?
膵臓は、胃の裏側、背中側に位置する「後腹膜臓器」と呼ばれる。オタマジャクシのような形をしたこの臓器は、二つの重要な役割を担う。一つは食物の消化を助ける消化酵素を分泌すること。もう一つは血糖値を調整するインスリンというホルモンを生成し、血糖値の急激な上昇を抑制する血糖値を下げる唯一のホルモンとして機能する。
このように、消化と代謝に不可欠な機能を持ちながら、その存在は体の奥深くに隠されている。
Q. 膵臓がんはなぜ発見が難しく、生存率が低いのか?

膵臓がんの早期発見が極めて困難なのは、他の消化器系のがんと異なり、体外へ繋がる管を持たないためだ。例えば、胃がんや大腸がんでは出血などの兆候が表れやすいが、膵臓がんでは目立った自覚症状が出にくい。
症状が出た頃にはすでにがんが進行し、転移している場合が少なくない。そのため、手術が困難になることも多く、治療の選択肢が限られてしまう。こうした理由から、膵臓がんの5年生存率は全がん種の中で最低レベルの11.8%とされ、非常に厳しい予後を示す。進行すると手遅れになるケースが多い沈黙の臓器のがんは、その早期発見の難しさが最も脅威であると言える。
Q. 膵臓がんに特有のサインや見逃してはいけない体からのSOSとはどのようなものか?
膵臓がんに限らず、がん全般に共通する初期サインの一つは、「半年間で体重の5%以上の原因不明の減少」である。食生活を変えていないのに、体重が急激に減る場合はがんが体内の筋肉や脂肪を分解している可能性がある。健康的に体重を落としたのか、あるいは何か病気が隠れているのか、しっかりと見極めることが重要だ。
お腹や背中の持続的な痛み
糖尿病の発症や悪化
黄疸(目・尿・便の色に注意)
膵臓がんに特有のサインとしては、これらが挙げられる。まず、「お腹や背中の持続的な痛み」だ。膵臓が背中側に位置するため、鈍くじわじわと続く痛みが背中を中心に現れることがある。これは通常の腰痛や胃もたれと誤認されやすく、自己判断が難しい。しかし、痛みが一週間以上続く場合は注意が必要だ。
次に、「糖尿病の突然の発症や悪化」がある。これは膵臓がインスリンを作る「工場」としての役割を持つためだ。バランスの取れた生活を送っているにも関わらず、健康診断で血糖値やHbA1cが急激に上昇した場合、がんによって膵臓のインスリン工場が破壊されている可能性も視野に入れる必要がある。
さらに、「黄疸」は膵臓がんの重大なサインである。がんが膵臓の頭部に発生し、胆汁の通り道を塞ぐと、黄色い色素であるビリルビンが全身に逆流し、体中の皮膚が黄ばんでしまう。特に「白目」の黄染は分かりやすく、その他にもビリルビンが尿に排出されるため尿の色が濃くなり、便の茶色い成分がなくなることで便が白っぽくなることもある。これらの変化が同時に見られる場合、早急な医療機関の受診を推奨する。
稀にではあるが、マニアックなサインとして「片方の足のむくみ」も挙げられる。膵臓周囲のリンパ管が詰まることで生じる現象だ。両足ではなく、片方の足が急にむくみ出した場合は、他の病気も考えられるが異常のサインとして記憶しておくべきだ。
Q. 膵臓がんのリスクを高める要因には何があるか?

喫煙
多量の飲酒
肥満
家族歴
糖尿病
多くの人々が既に知っているであろう喫煙は、膵臓がんに限らずあらゆるがんのリスクを大幅に上昇させる。そして、特に膵臓がんにおいて「多量の飲酒」と「肥満」は注意が必要なリスクファクターだ。これらの要因は膵臓の炎症である膵炎を誘発する可能性があり、その慢性的な炎症が膵臓がんの発症リスクを高める「連鎖」を生み出す。つまり、飲酒や肥満は膵臓がんへの直接的な引き金となるだけでなく、膵炎を経由してさらにリスクを加速させる要因となるのだ。
さらに、「家族歴」も無視できない要素だ。血縁者に膵臓がんの患者がいる場合、遺伝的要因から発症リスクは上昇する。第一度近親者(親や兄弟)に一人がいれば4.5倍、二人がいれば6.4倍、三人がいればなんと32倍にもリスクが跳ね上がるとされている。家族に膵臓がんの経験者がいる場合、より一層の注意を払い、定期的な健康チェックを怠らない姿勢が求められる。
Q. 膵臓がんはどのようにして発見されるのか?
多くの人ががん検診で胃がんや大腸がんの検査を受ける一方で、膵臓がんには全国的に推奨されるような一般的な検診は存在しない。これは、現行の検診方法では膵臓がんによる死亡率減少への有効性が証明されていないためだ。
例えば、腫瘍マーカー(CA19-9)による血液検査は、異常値が出たとしても実際に膵臓がんが見つかるのはごく少数というデータがあり、偽陽性による不要な精密検査や体への負担が懸念される。また、内視鏡による膵臓の精密検査などは体への負荷が大きく、膵炎などの合併症リスクも伴うことから、症状がない人に一律に推奨するのには適さない。このような背景から、現在の科学的見地では、膵臓がんの早期発見を目的とした大規模な集団検診は有効とは考えられていないのが実情である。
しかし、異常が疑われるサインが現れた場合には、精密な検査が不可欠となる。造影剤を投与して膵臓の状態を詳しく見る「造影CT検査」や、ゼリーを塗って行う「腹部超音波(エコー)検査」がその主要な方法だ。エコー検査では、腫瘍の有無や膵管の拡張など、膵臓の変化を確認する。そして興味深い研究として、「午後の紅茶 ミルクティー」を飲んでエコー検査を行うと、乳脂肪分が胃の中の空気の邪魔を取り除き、膵臓を鮮明に描出できることで検出精度が向上するという報告もあるが、これはまだ広く推奨される診断法ではない。このような先進的なアプローチが今後の検診の形を変える可能性も秘めている。
Q. 膵臓がんの画期的な新治療薬「ダラキソンラシブ」とはどのようなものか?

絶望的なイメージが先行しがちな膵臓がんに対し、近年、画期的な新治療薬が登場し、希望の光が見え始めている。「ダラキソンラシブ」と呼ばれるこの経口薬は、特定のKRAS遺伝子変異を標的とする世界初の治療薬である。KRAS遺伝子変異は膵臓がんを含む全体のがんの約30%に関与するとされ、これまで標的とする治療法が確立されていなかった。
しかし、この新薬は、KRAS遺伝子変異を持つ膵臓がん患者において、従来の化学療法と比較して生存期間を約2倍に延ばすという目覚ましい成果を挙げた。飲み薬であり、副作用も従来の抗がん剤よりはマシとされているが、長期的な評価はまだこれからだ。現在は米国での実用化が見込まれている段階だが、日本での承認にはまだ数年を要する見込みである。
「ダラキソンラシブ」は、全ての膵臓がん患者に適用されるわけではないものの、特定の遺伝子変異を持つ症例に特化して大きな効果を発揮する。これにより、これまで治療が極めて困難だった膵臓がんの新たな治療の道を切り開く可能性を示している。これは、絶望的な状況下にあった患者にとって、計り知れない希望となるだろう。
Q. 最後に、改めてがん予防への向き合い方は?
膵臓がんにおいては、その特殊性から予防や早期発見の「勝ち筋」が他の多くのがんと比較して見えにくい現実がある。しかし、その知見を踏まえつつ、別の側面から自身と向き合う必要がある。今回得た知識を基に、体重減少、持続する痛み、糖尿病の急変、黄疸といった体からのサインを真剣に受け止めることは極めて重要だ。少しでもおかしいと感じたら、「大丈夫だろう」という自己判断を避け、医療機関を受診するべきだ。糖尿病内科や一般内科を受診し、詳細な情報を医師に伝えることが早期の対応に繋がる可能性を高める。
そして、最も大切なメッセージは、膵臓がんだけでなく、胃がん、大腸がん、乳がんなど、検診によって予防や早期発見の有効性が確立されているがんに対しては、積極的に検診を受けるべきであるという点だ。沈黙の臓器が突きつける厳しい現実を受け止め、可能な限りの「勝ち筋」を見出し、自らの健康を守るための行動を今こそ起こすべきだ。