PIVOT TALK SPECIAL
日本車リブートのカギは水素と防衛?【松島憲之×井出真吾】
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2026年9月9日

リーマン・ショック前の利益率を今も超えられていないホンダと日産。超円安でも過去最高を更新できなかった2社は円高に振れたとき何が起きるのか? 松島憲之氏と井出真吾氏が日本の自動車産業が生き残るための「転身」シナリオを語る <ゲスト> 松島憲之|Alphaterra Advisory シニア・エグゼク...
自動車産業の生き残り戦略:新領域への挑戦と事業構造改革
現在の日本自動車メーカーはかつてない変革の波に直面している。長年の成功体験から抜け出せず、円安による見せかけの利益に依存する企業が多い状況である。しかし、このままでは激しいグローバル競争で生き残ることはできない。
本記事では、既存の「自動車」という枠組みを超え、新たな高収益領域へ進出する必要性、そしてその具体的な道筋について詳細に考察する。トヨタ、ホンダ、日産、マツダといった主要メーカーの現状分析から、未来の戦略まで、その実態と課題を掘り下げていく。


Q. ホンダや日産など、日本自動車メーカーが直面する現状とはどのようなものか?
ホンダと日産はリーマンショック前の営業利益率を回復できていない。トヨタは一時10%を超える利益率を達成したが、両社はその水準に達することなく長期にわたり低迷している。現在の見かけ上の利益は円安に大きく依存しており、為替が円高に振れれば直ちに業績悪化につながる脆弱な経営体質を露呈しているのだ。
日産の低迷はカルロス・ゴーン氏の長期政権に原因があるとされる。彼の初期のリバイバルプランによるコスト削減は成功したが、その後新たな成長戦略を生み出せず、収益性の低いEVへ過度に特化してしまった。一方、ホンダは独自の技術開発を怠り、自社の体力に合わないトヨタ型の規模拡大戦略を模倣した結果、マーケティング戦略に失敗。かつての「技術のホンダ」の面影は薄れ、画期的な技術が生まれていないのが現状である。
Q. 自動車メーカーは既存の「自動車」事業の枠組みからなぜ脱却すべきか?
現在の自動車製造に固執するだけでは生き残りが困難な時代が到来した。日本自動車メーカーは長年培ってきた高い技術力、すなわち「技術のDNA」を、自動車以外の高収益領域へ応用すべき時が来た。過去の成功体験にとらわれず、まるで富士フイルムが写真フィルム事業からヘルスケアや化粧品へと転身したように、大胆な事業構造改革とコングロマリット化が不可欠である。
トヨタの佐藤前社長が水素エンジン開発を推進し、その後近氏へバトンを渡したように、経営陣は外部環境の変化に柔軟に対応し、最適なリーダーへ役割を交代させる機動性が求められている。自社の持つ技術ポテンシャルを最大限に活用し、新しい産業領域へと積極的に進出することが、株主価値の向上にも直結する生存戦略となる。
Q. 水素技術は次世代モビリティとエネルギー市場をどのように変革するか?

水素はモビリティの未来を担う本命と目されるが、その普及にはインフラ整備が不可欠である。水素燃料電池はプラチナのような高価な希少金属を使用するためコスト高となる一方、水素を直接燃焼させる水素エンジンは技術的に容易であり、低コスト化が期待できる。
さらに注目すべきは、AI技術の普及によって深刻化する電力不足への解決策としての水素の可能性だ。データセンターが集中する地域では電力供給が逼迫しており、大規模な送電網整備には限界がある。そこで、自動車のエンジン技術を応用した小型の水素またはアンモニア発電機をデータセンターの近隣に設置し、自給自足の電源を確保するモデルが急速に広まるだろう。
これは原子力発電へのアレルギーが強い日本では特に有望な選択肢となる。将来の脱炭素モビリティの主役となるのは水素であるという見立ては、2030年代後半から2050年までの間に実現される本命シナリオである。
実は、マツダは20年前からロータリーエンジン技術を応用した水素ハイブリッド車の開発を手掛けており、トヨタに先駆けて独自の先進技術を温存している。こうした眠れる独自技術は、適切な戦略的宣言と市場への提示によって企業の評価と株価を大きく押し上げる可能性がある。
Q. 自動運転が促す「移動空間」の再定義と異業種参入の影響はどのようなものか?
自動車の技術的進化はサプライヤーの収益構造も変革させる。例えばブリヂストンは、EVの重量増に対応する高耐久タイヤや、自動運転で懸念されるパンクに対応するエアレスタイヤなど、高付加価値製品によって自動車メーカーへの価格交渉力を強め、現在の利益を倍増させるポテンシャルを持つ。一般車両のタイヤは利幅が薄いが、航空機や鉱山用タイヤは高収益であり、こうしたビジネスモデル転換の重要性を示唆する。
また、自動運転の普及は車内の時間を「可処分時間」に変え、その空間をエンターテイメント用途として再定義する。かつてウォークマンで「屋外で音楽を聴く」という体験を創出したソニーグループは、そのエンターテイメントのDNAとコンテンツ力を活用し、この新しい「移動空間」での価値創造を担う。ソニーはホンダとの提携に限定されず、全世界の自動車メーカーに対し車内エンターテイメントのシステムプロバイダーとして圧倒的な優位に立つ可能性がある。自動車本体ではなく、その内部空間が生み出す体験に付加価値が移行する未来はすぐそこまで来ている。
今後のEVはアンダーボディ(車台)の共通化と、アッパーボディ(上部空間)の着せ替え化が進むと予測される。これにより、自動車メーカーは下請けとして安価な車両を提供する側となり、高付加価値を生む上部構造にはソニーのような異業種が参入してくる。これは自動車産業のビジネスモデルがスマートフォンと同様のエコシステムへと変容する兆候であり、メーカーは他企業との連携を模索しなければ生き残れないことを意味する。
Q. 日本自動車メーカーは防衛産業で活路を見出すべきか?

日本の自動車メーカーが持つ大量生産のノウハウと高度なシステム・制御技術は、現在生産が追いつかない防衛ドローン分野と極めて高い親和性がある。戦前のルーツを辿れば、スバルは中島飛行機、三菱は零戦を開発した三菱重工、日産追浜工場は旧帝国海軍航空隊基地であったように、防衛産業への「先祖返り」は合理的な選択肢だ。
例えば、日産の追浜工場をドローン生産基地に転換すれば、不足する防衛装備の国産化に貢献できるだろう。一般的な乗用車が20年以上使用されるのに対し、ドローンは「発射すれば消滅する消耗品」である。そのため、防衛産業は持続的な高収益を生み出す「消耗品ビジネス」となり、日本メーカーにとって新たな勝ち筋となる可能性を秘めている。自力での参入が難しい場合でも、三菱重工や川崎重工との提携を通じて迅速に市場参入することは可能だ。
合併・提携の成功には「IPランドスケープ(特許俯瞰図)」による分析が不可欠である。経済産業省も推奨するこの手法は、重複を避け、技術的シナジーを生むパートナーシップを見つけるのに役立つ。安易な統合ではなく、知財分析に基づいた戦略的アライアンスこそが、自動車メーカーの未来を左右する。
Q. 激動の市場で日本自動車メーカーが生き残るための道筋は何か?
円安という追い風がなくなったとき、多くの日本自動車メーカーが赤字に転落する可能性がある。そのため、現在の「自動車販売頼み」のビジネスモデルから脱却し、事業ポートフォリオを破壊的に組み替えることが急務である。国内の8社もの完成車メーカー体制は維持しがたく、今後淘汰や再編が避けられない。工場閉鎖や人員整理を進める日産はその象徴的な存在である。
日産の復活の一手として、同社が出資する三菱自動車が持つ「パジェロ」ブランドをアジア・アフリカ市場で再展開し、収益性の高いSUV市場を共同で開拓する戦略が挙げられる。失われつつあるブランド価値を再評価し、ニッチな市場で高い利益率を確保することは有効な戦略となりうる。
一方、トヨタは「すり合わせ技術」を核とした従来の垂直統合モデルから脱却し、持株会社体制への移行を進めている。奥田元社長が提唱した、豊田自動織機の上場廃止やトヨタ不動産を活用したコングロマリット構想は、まさに自動車という単一事業に依存しない多様な収益源を確保するための壮大な計画である。自動車メーカーがピラミッドの頂点に君臨する時代は終わり、欧州のボッシュのようなシステムサプライヤーが支配する時代へと移り変わっているのだ。
今後、企業が生き残るためには、スズキのように独自の強みを生かした「特化戦略」(例えばインド市場での成功)や、大胆な新事業への進出が求められる。これは、何十万人もの雇用を守るためにも不可欠な経営判断である。日本企業は「技術で勝って経営で負ける」という悪癖を断ち切り、技術力を活かした大胆なコングロマリット化を進めるリーダーシップが求められている。