PIVOT TALK MONEY
米国の圧力で円安は止まるのか?円高・ドル安の4つの理由
(648)
1.1万回視聴
2026年9月5日

ベッセント財務長官の発言の影響などにより、揺れ動くドル円相場。トレンドの転換はあるのか?為替ストラテジストの佐々木融氏に聞いた。 <ゲスト> 佐々木 融|ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト 1992年上智大卒、日銀入行。国際局為替課で介入実務を担い、NY駐在時は米連銀との情報交...
ドル円急落の深層:日銀とFRBの政策動向、そして政治圧力の行方
為替市場は再び急変動の嵐に見舞われた。ドル円レートは2024年9月初旬のわずか2日間で160円台前半から155円台前半へと大幅に急落し、市場に衝撃を与えた。この動きはゴールデンウィーク期間の円高時を彷彿とさせる規模であり、円は対主要通貨に対して一時的な独歩高の状態を示した。この変動の背後には何があり、今後のドル円相場の行方はどうなるのだろうか。
本稿では、日米金融政策当局の思惑、海外からの政治的圧力、そして市場参加者の動向を専門家の見解に基づき分析する。近年の急速な円安傾向から一転、なぜここまで急激な円高に振れたのか。その原因を深掘りし、さらに今後の相場を左右するであろう重要な要因を探る。

Q. ドル円が急落し「円の独歩高」となった背景には何があるのか?
最近のドル円相場の急落、つまり円の独歩高を招いた要因は大きく四つあると考えられる。第一に、日本銀行の利上げ期待が急激に高まった点である。これは日本の金融政策が転換期を迎えるとの市場の認識を反映している。
第二に、米国連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待が後退したことである。これにより、日米間の金利差が縮小するとの見方が強まり、円高ドル安に拍車をかけた。
第三に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がポートフォリオを変更する、具体的には外債を売却し日本国債を買い入れる可能性があるとの思惑が浮上したことである。これがもし実現すれば、数兆円規模の円買いが発生し、為替市場に大きな影響を与えるだろう。
そして第四の要因として、輸入企業のドル買い(実需)の不在が挙げられる。以前に円安が155円近辺まで進んだ際には、割安感から輸入企業がドルを買い入れたが、今回の下落局面ではその動きが鈍く、下値を支える買い圧力が不足した。これらの複合的な要因が重なり、短期間での大幅なドル円の急落、すなわち「円の独歩高」を誘発したと考えられる。

Q. 米財務長官からの圧力は日銀の政策にどう影響を与えるのか?
日本銀行の利上げ期待を高める大きな要因の一つとして、米国ベッセント財務長官からの強い政治的圧力が挙げられる。財務長官は以前から日本に対しリフレ政策の中止や円の過小評価への対処を求める発言を繰り返してきた。
報道によれば、財務長官は5月の訪日時に日本の閣僚との夕食会で、2時間以上にわたり高市首相の経済顧問が円安の利点ばかり説く点や、日銀の独立性について厳しく問い詰めたとされている。このようなやり取りがこのタイミングで報じられたことは、米国が日本の金融政策、特に円安是正に向けた日銀の早期利上げを強く促している意図的な政治的プレッシャーである可能性が高い。
米国は過去に日本と協調介入を行い、円の買い支えに協力した実績がある。その視点からすれば、円安を招く政策を日本が維持することに対し、政策是正を求めることは当然の要求と見なし、より強い態度で臨んでいると考えられる。介入費用が実質的な損失となる事態を避けるためにも、日本への圧力は今後も継続するであろう。

Q. FRBの利下げ期待はどのように変化し、ドル円相場に影響を与えたのか?
FRBの利下げ期待は最近、市場の参加者の間で大きく揺れ動いている。ジャクソンホール会合では、ウォール議長がインフレに対してタカ派的な発言を行い、早期の利下げ観測を後退させた。
しかし、その後にFRBのウォラー理事やウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁から、インフレの改善に対する比較的楽観的な発言があったことで、市場の過度な利下げ期待は一時的に後退した。この変動がドル売りへと繋がり、ドル円相場の動向にも影響を与えたと考えられる。
9月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ確率は、一時は6割程度まで高まったが、ウォラー理事の発言を受けて5割程度まで後退した。年内の利下げ回数に関する市場の織り込みも、1.5回程度から1.3回へとわずかに減少している。
FRB高官らは雇用市場が健全であることを認識しており、政策決定において最も重視されるのはやはりインフレ動向である。今後、雇用統計の発表も注目されるが、市場の真の関心は、来週発表される生産者物価指数(PPI)や消費者物価指数(CPI)といったインフレ指標に移っている。これらの指標が9月のFOMCにおける利下げ判断に大きく影響を及ぼすことになるだろう。
Q. 今後のドル円相場はどのような展開が予想されるか?
これまでのドル円相場は、介入後の一時期こそ相関関係が崩れたものの、日米間の2年金利差(将来の金融政策見通しを反映する)に沿った動きに回帰しつつある。この傾向が続くのであれば、今後のドル円相場は、日銀とFRBの金利政策に関する思惑によって大きく左右されることになるだろう。
一方、投機筋の動向を見ると、一時期積み上がっていた円のショートポジション(円売り持ち)は急速に巻き戻された。この巻き戻しがある程度完了した今、新たに大規模な円のロングポジション(円買い持ち)が構築されない限り、これ以上の急激な円高進行は限定的となる可能性が高い。つまり、投機筋による一方的な方向への押し上げ要因は薄れたと言える。
現在の状況を総合的に判断すると、ドル円相場はしばらくの間、155円から163円程度のボックス圏内で推移する可能性が高い。為替介入後は155円が事実上の下限として意識される一方で、160円を超えると政府・日銀による介入への警戒感が高まるためである。このレンジ相場を打破するには、日銀が真に利上げを推進できるかどうかが焦点となるだろう。
Q. 日銀の利上げを阻む政治的要因は存在するのか?
市場は日銀が今後1年間で最大4回の利上げを行うこと、政策金利を2%台に、さらには最終的に2.5%まで引き上げることを既に織り込んでいる。しかし、この期待通りに日銀が利上げを実行できるかどうかには、政治的な側面からの疑問符が残る。
現在の高市政権は、金利上昇が長期金利や経済活動に与える悪影響を懸念し、金融緩和維持を求める圧力をかけ続ける可能性が高い。市場は短期金利を上げれば長期金利は落ち着くと考えるが、政府関係者の間には異なる見方もあるようだ。
さらに、日銀の金融政策決定会合を構成する審議委員の人事も利上げの障壁となり得る。来年7月にはタカ派とされる高田・田村両審議委員の任期が切れ、再来年4月には総裁、副総裁を含む日銀政策委員会の9名中7名が高市政権によって任命されることになる。時間が経つにつれて、日銀の政策決定において利上げ派が減り、緩和維持の姿勢が強まる可能性があり、これは市場が織り込む利上げシナリオからの剥離、ひいては円安を招くリスクを孕んでいる。
もし高市首相が「利上げは不要である」というメッセージを市場に発信すれば、これまでの利上げ期待が一気に後退し、円安に逆戻りする可能性があるだろう。加えて、アメリカからの強い圧力がかかっているにもかかわらず、日本がそれに応えないとなれば、日米関係の軋轢に繋がる懸念もある。この金融政策と政治の間の緊張関係が、今後の円相場を読み解く上で極めて重要となる。
Q. 利上げを先延ばしにすることは日本経済にどのような長期リスクをもたらすのか?
日銀が市場の利上げ期待に反し、金融緩和策を維持したまま、政府が積極財政を拡大し続ければ、日本経済は長期的なリスクに直面する可能性がある。その最たるものが、期待インフレ率の更なる上昇と、それに伴う超長期金利の高騰である。
日銀の独立性が損なわれ、金融政策が財政政策に従属するような事態になれば、市場の信任が失われ、長期金利はさらに上昇するだろう。現状の長期金利の水準は、インフレ率を考慮すれば決して高すぎるとは言えない。インフレ率が2~3%で推移する中で10年金利が3%台になることはおかしいことではない。
しかし、金利が上昇すれば、政府が抱える巨額の財政赤字に対する利払い費が飛躍的に増大し、財政を圧迫することになる。これは積極財政の継続を困難にさせるだけでなく、最終的には国民の負担を増やす結果に繋がるだろう。この点が、政権が利上げを避けたいと考える主要な理由の一つであると考えられる。
目先の財政負担や経済への影響を考慮して利上げを拒み続けることは、「利上げのジレンマ」を引き起こす。つまり、短期的には金利上昇を回避できても、結果としてインフレを制御できなくなり、数年後には現在の市場の織り込みを遥かに超える、急激かつ大規模な利上げをせざるを得なくなる可能性が高い。これは日本経済にとってより大きな混乱とリスクをもたらすこととなる。
