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南海トラフ大地震の発生確率
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2026年8月12日

日本を襲う未曾有の危機、南海トラフ巨大地震は必ず起こる。なぜ2030年代発生と言われるのか? 周期予測から導き出される最悪のシナリオとは何か?被害総額が国家予算を超える中、企業はどう備えるべきか。専門家の酒井慎一氏に、完全なる防災対策を徹底解説してもらった。 <ゲスト> 酒井慎一|東京大学大学院情...
来るべき大規模地震に備える: 地震予測の現状と個人ができる防災術
日本列島は地震大国であり、いつどこで大規模な地震が発生してもおかしくない状況が常に存在している。特に南海トラフ地震や首都直下地震は、その甚大な被害想定から多くの人々の関心を集めている。しかし、科学的な予測はどこまで可能で、私たちはどのように備えるべきか。
本稿では、地震学の最前線に立つ専門家の見解に基づき、巨大地震のメカニズム、予測の難しさ、そして私たち一人ひとりが今すぐにできる実践的な防災術について深く掘り下げる。

Q. 大規模地震の発生確率はどのように理解すれば良いか?
地震学の観点から見ると、南海トラフ地震や首都直下地震の発生確率は「いつかは必ず起こる」という意味では100%である。いつこの瞬間に揺れが来ても、地震学者は不思議だとは感じないだろう。数十年といった具体的な期間で示される発生確率は、あくまで統計的な指標や特定のモデルに基づいたものであり、絶対的な予測値ではない。
たとえば、国の機関が公表する「30年以内に80%」といった南海トラフ地震の発生確率は、過去の地震履歴と周期性に加え、高知県室戸岬の地盤隆起・沈降データというユニークな地質学的情報を組み合わせて算出される。室戸港の検潮記録によれば、地震によって隆起した地盤が徐々に沈み、次の地震までに歪みが蓄積されるというサイクルが存在する。この沈降速度から次の地震までの期間を推測すると、前回の1946年の地震から約90年後、すなわち2030年代が有力な時期と見なされている。しかし、これらは全て仮定に基づいた計算であり、確定的な予知ではないことを理解する必要がある。
Q. 過去の巨大地震の発生パターンと現在の関連性について、どのようなことが分かっているか?
南海トラフ地震の発生間隔は、宝永(1707年)、安政(1854年)、昭和(1940年代)と様々で、90年から147年といった大きなばらつきが見られる。このため、南海トラフ地震には厳密な周期性があるとは言えず、単なる統計的な予測には限界がある。また、これらの地震は同時に、あるいは数日、数年のタイムラグを置いて連動して発生する傾向も過去の記録から明らかになっている。

関東地震についても、大正関東地震(1923年)と元禄関東地震(1703年)の発生が確認されているが、それ以前の記録は不明瞭で、どのようなタイプが繰り返されてきたのか詳細は解明されていない。元禄関東地震は大規模な津波を引き起こすなど、大正関東地震とは異なる顔を持っていた可能性も指摘される。東京は世界でも稀に見る「フィリピン海プレート」と「太平洋プレート」という二つのプレートが多層的に沈み込む特異な地殻構造を持ち、そのため古文書の記述だけでは地震の種類を特定すること自体が困難である。これらの複雑な要因が、関東の地震史をより一層不透明なものにしているのだ。
Q. 現代の科学をもってしても地震予知が難しいのはなぜか?
地震は地下深くの断層面で発生する現象だが、その深さは20〜30キロメートルにも及ぶ。人類が掘削できる最も深い穴でも12〜13キロメートル程度であり、地震の震源域まで直接アクセスし、断層の現状を詳細に観測することは不可能だ。プレートの歪みエネルギー蓄積は地震発生の基本的なメカニズムであるが、断層面がどのように破壊されるかは多様である。急速に壊れるのか、あるいはゆっくりと滑るのか、あるいは部分的にしか破壊されないのか、といった複雑な挙動はまだ解明されていない。
天気予報が可能なのは、空気中の水蒸気量や気圧など、大気の状態を広範囲で測定できるからである。これに対し、地下深くの断層面はブラックボックスであり、そこに何が起きているかを知るための直接的な計測ができないことが、地震予測の大きな障壁となっている。地震予知の精度を飛躍的に向上させるには、地下深部の断層の状態をリアルタイムで監視できる画期的な掘削技術の開発とセンサー設置が不可欠であると考えられている。
Q. 国が公表する巨大地震の「最悪のシナリオ」にはどのように向き合うべきか?
南海トラフ地震で最大30万人という国が示す死者数の想定は、最悪の季節・時間帯に、すべての断層が連動し、全ての被害要素が最悪の形で発生した場合という極端なシナリオに基づいている。この数字は、人々にいたずらに恐怖を与えるためではなく、「万全の対策を取らなければ、このような悲劇が起こりうる」という注意喚起と、事前の準備を促すためのベンチマークとして受け止めるべきだ。決して諦めるためのものではない。

東京のような過密都市圏で地震が起きた場合、マンションやビルに住む多数の人々が、インフラ寸断により住居を失う可能性がある。既存の避難所の収容キャパシティは圧倒的に不足するため、もしそれらの人々が一斉に避難所を目指せば、現場はパンク状態となる。このような事態を回避するためにも、国の示す「最悪のシナリオ」を他人事ではなく、自身の生活圏で何が起こりうるかという「自分ごと」として捉え、具体的な備えを進める姿勢が求められる。
Q. 究極の防災対策である「避難しなくて良い家」とは何か?個人ができる備えは?
災害時において最も重要なことは、自らが負傷せずに要救助者にならないことである。自分が元気であれば、他者の救助に回ることもできる。この大前提のためには、日頃から「今ここで揺れたらどうなるか」というシミュレーションを重ねることが有効だ。自宅だけでなく、電車内、職場、コンサート会場など、あらゆる場所での具体的な行動を想定することで、いざという時に冷静な判断ができるようになる。
都市部では避難所の収容能力不足が深刻なため、被災後も自宅で生活を続けられる「避難しなくて良い家」を築くことが究極の防災と言える。

具体的には、まず危険な土地(崖の下、川沿い、海沿いなど)を避けて住居を選ぶことだ。建物自体も、最も安全なのは平屋であり、それが難しい場合は鉄骨や鉄筋コンクリート造を選択する。また、家の一部屋だけでも耐震性を高め、災害シェルターとして活用することも効果的な選択肢となる。また、子を持つ親世代などライフステージの変化に応じて、安全性の高い土地への住み替えも検討するべきだろう。
備蓄においては、水や食料に加えて、電力と通信手段の確保が現代社会においては不可欠である。ポータブル電源の備蓄と定期的な充電は、安否確認や情報収集の生命線となる。電力や通信のインフラが回復するまでの期間は、当然ながら整備する技術者自身も被災者となるため、迅速な復旧には期待せず、自力で何とかする意識を持つ必要がある。また、防災バッグには、乾パンのような非常食はもちろん、瓦礫処理用の手袋、清潔を保つための下着や靴下など、衛生面にも配慮した品々を定期的に見直し、補充しておくことが推奨される。
Q. 防災情報を「自分ごと」として受け止め、行動へ繋げるには何が必要か?
災害リスクに関する専門知識は、往々にして難解で、一般の人々にとっては遠い存在になりがちである。そこで重要となるのが、難解な科学的知見を平易な言葉で、かつ人々の具体的な行動へと結びつけるよう「翻訳」する災害リスクコミュニケーターのような存在だ。被災地で得られた生々しい教訓を、まだ災害を経験していない「未災地」の人々に伝えることで、机上の空論ではない、より実践的な備えを促すことができる。阪神淡路大震災や東日本大震災の教訓を次の災害に生かす上で、このような情報の架け橋の役割は不可欠だ。
災害の記憶や社会の関心は時間とともに薄れやすい。熊本や能登の地震がメディアを賑わせた時でさえ、数ヶ月もすればその話題は減少していく。人々に「もうわかっているよ」と言われるほど繰り返し、粘り強く防災情報を発信し続けることが、社会全体の防災意識を持続させ、いざという時の被害を最小限に食い止める上で非常に重要となる。専門家と市民、被災地と未災地を繋ぐ多角的なアプローチを通じて、個人の「自分ごと」化を推進し、レジリエントな社会を築き上げていくことが求められている。