PIVOT TALK BUSINESS
【速報解説】トヨタ決算と注目の新人事
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2026年8月7日

第一四半期の決算を発表したトヨタとホンダ。そこから見えてくる変化は何か?注目の新人事と合わせて、経済ジャーナリストの井上久男氏に速報解説してもらった。 <ゲスト> 井上久男|ジャーナリスト 九州大卒。大手電機メーカーを経て92年朝日新聞社入社。経済記者として自動車や電機産業を担当。04年退社。05...
トヨタとホンダ決算が示す日本産業の光と影
激動する世界経済の中、日本の自動車産業を牽引するトヨタとホンダが最新の決算を発表した。
本稿では、両社の決算から浮き彫りになる円安の恩恵と構造的な課題、そして未来に向けた戦略の現在地を深く掘り下げる。
為替変動の影響、徹底したコスト改革、そして中国市場での明暗に焦点を当て、日本産業全体の展望を考察する。

Q. トヨタの最新決算では、どのような要因が利益に寄与したか?
トヨタの第1四半期決算は、売上高が向上したものの、営業利益は前年同期比で若干マイナスだった。
しかし、為替の恩恵が非常に大きかった。想定レート145円に対し、実際には160円と15円の円安で推移し、これにより約3450億円もの為替効果が発生したのである。
この大幅な円安が、償却費増加などのマイナス要因を十分にカバーしたと言える。
また、主力市場であるアメリカは比較的好調を維持しただけでなく、日本の販売も堅調であった点が収益を支えた。
特にトヨタの強みであるハイブリッド車はアメリカで非常に人気が高く、高価格帯でありながら顧客からの高い需要を獲得している。
この好調を背景に、トヨタはハイブリッド関連のバッテリー生産能力拡大を打ち出しており、今後の収益維持の柱となる見通しを示した。
Q. 自動車メーカーは過度な円安をどのように捉えているか?

トヨタのように、輸出比率の高い企業にとって円安は一般的に利益増につながる要因である。トヨタは1円の円安で年間約500億円の営業利益増加を見込むが、現在の1ドル160円という水準は決して手放しで喜べる状況ではない。
なぜなら、自動車メーカーは多くの原材料を海外から調達しているからだ。石油由来の部品や鉄鋼などがこれに該当し、円安が進めばこれらの輸入コストが急激に上昇する。
そのため、自動車メーカーの見方では、1ドル120円から130円程度が適正な為替水準だとされている。現在の160円は行き過ぎであり、居心地のよい水準ではないというのが本音だろう。
識者は、政策金利の調整だけでは収まらない現在の円安傾向は、単なる金利差に起因するものではなく、日本の基礎的な国力(ファンダメンタルズ)の低下を象徴していると指摘する。
これは個人のレベルでも海外での購買力の低下として実感されており、実際に中国では過去と比較して円の価値が大きく目減りしている事実がある。
Q. トヨタが「アドミ改革グループ」を設立した狙いとは何か?
トヨタは2024年8月1日付で「アドミ改革グループ」を新設した。これは、本社の固定費上昇に対する強い危機感に基づいた動きである。特に管理部門の費用増加は、損益分岐点の上昇につながるため、経営課題として認識されていた。
同グループの名称には「BR(ビジネスリフォーム)」という冠が付けられているが、これは1980年代後半から90年代初頭の急激な円高局面でトヨタが営業赤字の危機に直面した際、「BR収益管理室」を立ち上げて収益力を回復させた経験に由来する。
BRは、経理、総務、人事、広報など各部門から優秀な人材を集めて課題解決に当たるプロジェクトチーム形式を指し、課題が解決されれば解散するという特性を持つ。今回も、管理部門の徹底的な改革を目的としている。
この改革の背景には、今年4月に就任した経理部門出身の新社長の強いリーダーシップも指摘されている。
製造現場では厳格なコスト管理が行われる一方で、ホワイトカラー部門においてはコスト意識が甘かったとの見方もある。トヨタは、関連子会社へのS級社員の配置や機能移管を通じて、本社のスリム化と効率化を図っているのだ。
究極的な狙いは「稼ぐ力」の強化にある。自動車業界は次世代技術革新に向け、膨大な研究開発投資が必要不可欠だ。
かつて年間1兆円から1兆2千億円だった研究開発投資は、今年度1兆6千億円規模にまで拡大している。
トヨタは外部に依存せず、自社の稼ぎ出す収益の中からこの莫大な開発費を賄うべく、あらゆる無駄を排除し、徹底的に効率化を進める体制構築を急いでいるのである。
Q. ホンダの最近の決算で、特に目立った事業は何ですか?

ホンダも為替効果により通期見通しを1500億円上方修正するなど、決算自体は改善基調にあると言える。
しかし、これは四輪事業が単独で劇的に回復したわけではない。その主要因は、想定よりも好調なアメリカ市場での販売と、やはり為替の影響によるものである。
ホンダの収益を大きく牽引したのは、引き続き圧倒的な競争力を持つ二輪事業と、堅調な自動車ローンなどの金融サービスである。
特に二輪事業は四半期ベースで過去最高益を記録するなど、ホンダ全体の稼ぎ頭としての役割を強固なものにしている。
この構図は数年前から変わっておらず、四輪事業が苦戦する中でも、これら二つの柱がホンダの業績を支える状況が続いているのだ。
Q. ホンダの二輪事業が持つ驚異的な収益力の背景には何があるか?
ホンダの二輪事業は、インドやブラジルを中心に販売台数を大きく伸ばし、営業利益率は約20%という極めて高い水準に達している。
その高収益の背景には、四輪事業とは対照的な「徹底したコスト意識」が存在すると指摘されている。
二輪の開発拠点を訪れた四輪部門の従業員は、設備投資や備品一つから徹底的にコスト削減が行われている状況に驚くという。
わずか数円の部品の設計変更にも慎重な姿勢を見せ、コスト増を徹底的に嫌う文化が根付いている。冷房の節約といった日々の運用から、製品設計に至るまで、細部まで無駄を排除する企業体質が、高い利益率を実現しているのである。
過去の経験も現在の強さに影響を与えている。1990年代半ば、ホンダは中国のコピーメーカーによる激しい追い上げを受けた際、知的財産権侵害で訴えるのではなく、逆にあえて合弁事業を組んだことがある。
これにより、中国企業が安価に製品を製造するノウハウをホンダ側が学習し、それを自社のコスト構造改革に活かした。「したたかな」戦略が、現在の圧倒的な競争力の礎となっているのだ。
Q. ホンダの四輪事業、特に中国市場での課題は何ですか?

好調な二輪とは裏腹に、ホンダの四輪事業、特に世界最大の自動車市場である中国では深刻な苦戦を強いられている。
第1四半期において、中国での販売は前年同期比で実に47%も減少しており、これは市場全体の落ち込みを大きく上回る数字だ。
この不振の主たる原因は、「商品力の劣化」にあると指摘される。中国市場で求められる電動化やスマートコックピットなど、現地消費者のニーズに応える魅力的な次世代車を投入できていない現状が、顧客離れを引き起こしている。
日本の自動車メーカー全般が中国で苦戦しているものの、ホンダの落ち込みは特に目立つ。世界最大市場での劣勢は、今後の四輪事業の成長戦略における喫緊の課題と言えよう。
Q. トヨタとホンダが共通して直面する今後の課題は何だろうか?
トヨタとホンダ、両社に共通する最重要課題は、やはり中国市場での競争力維持と再構築にある。
中国の新興EVメーカーの台頭は目覚ましく、単なる内燃機関車の提供だけでは生き残れない。いかに現地の需要を捉え、魅力的かつ競争力のある商品を生み出せるかが、今後の成長を左右する。
また、電動化、自動運転、コネクテッド技術といった次世代技術への巨額な研究開発投資も共通の重荷となる。
両社は、自社内で効率的にキャッシュを創出し、この激しい投資競争を勝ち抜くための構造改革と「稼ぐ力」の強化が求められている。
表面的な数値だけでなく、組織文化やコスト構造にまで踏み込んだ改革を通じて、持続的な成長を実現できるかどうかが問われているのだ。