PIVOT TALK BUSINESS
中国フィジカルAI:日本企業の導入も
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2026年8月6日

2025年のヒューマノイドロボット出荷台数で世界シェア約90%を占める中国。テスラなどの欧米勢を凌駕する圧倒的な社会実装スピードの背景と、その実力を現地動画で検証。さらに完全無人ロボタクシーの最新動向も。中国テックに詳しい田中年一氏が、日本のビジネスパーソンが取るべき戦略を考察する。 <ゲスト> ...
中国フィジカルAIの現在地:圧倒的シェアと社会実装を牽引する力
世界の産業構造に大きな変化をもたらすフィジカルAI、特に人型ロボットの開発競争が激化している。その中で、中国は出荷台数と社会実装のスピードにおいて、他国を圧倒する存在感を示している。
本稿では、中国テックの動向に詳しい専門家へのインタビューに基づき、中国フィジカルAIの最前線を徹底解説し、日本企業が取るべき戦略的スタンスを探求する。

Q. フィジカルAIの現状と中国の圧倒的なシェアはどの程度か?
フィジカルAI、特にヒューマノイドロボット市場において、中国企業の存在感が突出している。2025年の出荷台数予測では、中国企業が全体の90%近くを占めると見られる。具体的な出荷台数では、米国勢のテスラ「Optimus」やFigure AIも注目を集めるが、現状の量産規模では中国のUnitreeが1,500台、香港上場のUBTECHが4桁の台数を実現しており、圧倒的なスピードで市場をリードしている状況だ。
この市場のリーダーシップは、必ずしも技術的な優位性のみに由来するものではない。むしろ、開発された技術を量産し、迅速に社会に実装していく中国特有のスピード感が、この圧倒的なシェアを生み出している最大の要因と言えるだろう。
Q. 中国がロボットの社会実装を急速に進める背景は何か?

中国のロボット産業が急速に社会実装を進める背景には、「社会実装型イノベーション」と呼ばれる中国独特のアプローチがある。これは、まず製品やサービスを現場に導入し、そこから得られるデータやフィードバックをもとに改善を重ねていく手法である。不完全な状態であっても躊躇なく実用化を進める姿勢が、迅速な進化を促している。
加えて、中国政府はヒューマノイドロボットを国家の重要産業に指定し、積極的な支援を行っている。これにより、企業の研究開発部門や大学での購入が加速し、国内市場での大口需要が先行して形成された。例えば、中国のGalbot社は、ドラッグストアで無人での注文品ピッキングやコーヒー提供を実現している。このような政府の後押しと国内の旺盛な需要が、社会実装をさらに加速させる強力な原動力となっている。
Q. 物流現場における人型ロボットの具体的な応用事例とは?

物流現場では、中国製の人型ロボットが具体的な実用段階に入りつつある。例えば、物流ロボット大手のギークプラスは、物流倉庫のデモにおいて、従来の自動棚搬送ロボット(AGV)だけでは困難だった「ピッキング」作業を人型ロボットで代替する姿を公開した。これにより、倉庫の完全自動化が視野に入ると見られている。
また、上海のAGI Pod社が開発したロボットは、宅急便のような不規則な形状の荷物のバーコードをカメラで識別し、ベルトコンベア上で適切な向きに整列させる高度な処理を、実用レベルの速度で実行する。日本の物流企業もこの性能を高く評価しており、まずは中国の物流拠点で導入し、成功すれば日本国内への展開も検討する動きがあるという。こうした具体的なユースケースの創出と現場への導入が、中国における人型ロボットの社会実装を着実に進めている。
Q. 人型ロボットを導入する経営的メリットと得意領域は何か?
人型ロボット導入の経営的メリットは多岐にわたる。最も明確なのは稼働時間で、人間が1日8時間稼働するのに対し、ロボットは24時間365日休まずに働き続けられる。充電も自動または遠隔で可能であり、実質的に人間が1日でこなす量の3倍以上の業務遂行が可能となる。さらに、離職リスクがないため、一度蓄積された企業のノウハウが失われることなく、経営の安定化と効率化に貢献する。これは特に人手不足が深刻な現代社会において、企業にとって大きな利点となる。
人型ロボットが得意とする領域は、「ある程度定型化されたプロセスでありながら、毎回個別の差異がある作業」の中間地帯である。完全に繰り返し可能な作業は工業用ロボットアームが優位であり、毎回完全に異なる状況に対応するのは依然として人間の方が得意だ。しかし、物流における荷物の整列作業、紙製品の製本工程、形状が毎回異なる食肉加工(鶏肉のカットなど)といった領域では、人型ロボットが本領を発揮し、作業の効率化と自動化を大きく進められると期待されている。
Q. 配膳ロボットなどの非人型ロボットが人型に進化するトレンドは?
現在普及している配膳ロボットや清掃ロボットなどの非人型サービスロボットの開発企業が、人型ロボットの開発へとシフトするトレンドが明確だ。日本のファミリーレストランなどで見かける「猫型配膳ロボット」を開発した中国新興企業Pudu Roboticsも、すでに人型(エンボディードAI)ロボットの開発に着手している。これらの企業は、これまで配膳や清掃、工場内配送といった特定の産業現場でロボットを稼働させ、顧客接点やノウハウを蓄積してきた。そして、「それでも人間に頼らざるを得ない最後のピース」を埋めるために、人型ロボットへの発展を見込んでいる。
この動きは、中国が過去にスマートフォンやEVの分野で見せた「他国の既存需要を追いかける」戦略とは一線を画す。人型ロボット市場は、まだ世界的に未開拓な部分が多く、中国が自ら用途と市場を創出し、世界を牽引しようという新たな挑戦である。既存の特定分野に強みを持つ企業が人型ロボットに参入することで、特定の用途に最適化された実用的な人型ロボットが生まれる可能性が高まるだろう。
Q. ロボタクシーの現状と、海外展開の戦略はどうなっているのか?

フィジカルAIの応用は人型ロボットに留まらず、自動運転タクシー「ロボタクシー」の分野でも中国は世界をリードしている。深センや上海の特定のエリアでは、運転手不在の「完全無人」ロボタクシーが一般公道を日常的に走行しており、遠隔監視の下でサービスを提供している。駐車車両を避けるための複数回の切り返しを要するUターンなども自動で行い、非常に複雑な市街地の交通状況にも対応している実例が報告されている。このような難易度の高い環境での実走行データ蓄積が、中国の自動運転技術の優位性を支えていると言える。
海外展開においては、Pony.ai(トヨタも出資)、WeRide、そして百度が提供するApolloの主要3社が、一帯一路政策という政府の強力な後押しを受け、積極的に進めている。国内で培った技術は、中東諸国やヨーロッパのスイスといった海外市場へと輸出され始めている。これは単なる技術の販売にとどまらず、ハードウェアとソフトウェアをパッケージ化したサービスとして戦略的に提供することで、中国は経済支援と同時に、地政学的な関係強化も目指している側面があると見られる。
Q. 日本企業は中国テックの急速な発展とどう向き合うべきか?
中国テックに対する日本企業の向き合い方には、二つの大きなリスクが存在する。一つは、地政学的リスクや先入観から中国テックを検討対象から完全に排除する「無視」のリスクである。もう一つは、過度な安易さで中国テックに深く依存しすぎる「依存」のリスクである。いずれの極端な姿勢も、日本企業にとって競争力喪失や予期せぬトラブルにつながる可能性がある。
重要なのは、まず中国の技術発展や社会実装の「リアルな現在地」を冷徹かつ客観的に把握することだ。その上で、自社のビジネス競争力を高める手段として、中国テックが持つ要素をリスクヘッジをしながら戦略的に活用するスタンスが求められる。全面的な依存は避けつつも、特定の技術やサプライチェーンを巧みに利用し、日本独自の強みと組み合わせることで、中国テックの恩恵を享受しつつもリスクを最小限に抑える、賢明な戦略的アプローチが日本企業には不可欠である。