
AI×半導体の次世代技術:光電融合のポテンシャル
AIが駆動する未来社会の基盤技術:知られざる「光電融合」の衝撃
近年のAI技術の急速な進化は、我々の生活や産業に大きな変革をもたらしている。ChatGPTのような生成AIの登場により、データ処理量は飛躍的に増大し、それを支える半導体技術には、かつてない高性能化と省電力化が求められている。
このような背景から、今、電気と光の特性を融合させる「光電融合」という革新的な技術が注目を集めている。
これは単なる省エネ技術にとどまらず、次世代のAI社会を構築するための基幹技術となる可能性を秘めているのだ。
Q. 光電融合とはどのような技術なのだろうか?
光電融合とは、電気信号を光信号に変換し、データ伝送や処理を行う技術だ。
従来の電気信号と比べて、光信号ははるかに高速であり、低消費電力で動作し、発熱量も少ない特性を持つ。データが扱う領域全体で、電気信号の割合を減らし、光信号の割合を増やすことが、この技術の基本的なコンセプトと言える。
長年にわたり研究されてきたが、ここ数年で、半導体チップの極めて近い場所まで光の技術を導入する動きが加速し、実用化の道筋が見えてきた。NTTが推進する次世代通信基盤「IOWN」や、シリコン基板上に光回路を形成する「シリコンフォトニクス」なども、光電融合を実現するための中核技術や構想に含まれている。

Q. 今、光電融合がなぜここまで注目を集めているのか?
最大の理由は、AIデータセンターにおける膨大なデータ量と消費電力の増大問題にある。生成AIや将来的に自律的な意思決定を行う「AIエージェント」が本格普及すると、現在の生成AI処理に比べて100倍以上のデータ処理電力が要求されると試算されている。
現状の電気ベースのデータセンターでは、この需要を満たすことが物理的・コスト的に困難になり、電力問題に行き詰まる可能性が高い。
光電融合は、このAIデータセンターの電力消費を劇的に削減し、データ転送速度を飛躍的に向上させる切り札として期待されている。日本国内のデータセンターでは、2030年までに総電力を約1割削減できるとの具体的な試算もあり、そのインパクトは計り知れない。
Q. 光電融合における最先端技術CPO(Co-Packaged Optics)とは何だろうか?
CPOは、Co-Packaged Opticsの略で、半導体チップ(GPUやCPU)の非常に近い位置に、光信号変換を行う部品を直接統合配置する技術を指す。これは、データ伝送における電気信号の経路を最小限に抑えることを目的としている。

従来の方式では、サーバーラックの端面に差し込む「プラガブル光トランシーバー」が使われていた。しかし、この方式では、半導体チップと光信号変換部との間を電気信号が伝送されるため、その区間で電力損失と信号劣化が発生していたのだ。
CPOでは、光信号への変換をチップのすぐ隣で行うため、電気信号で伝送する距離が数十センチからミリメートル単位へと劇的に短縮される。これにより、信号の劣化を補正するためのDSP(デジタルシグナルプロセッサー)チップが不要となり、その分の電力を最大7割も削減できる。電力効率の最大化を実現する、まさに究極の進化形だと言えるだろう。
Q. CPOを開発する主要プレイヤーと日本のNTTグループの立ち位置はどうなっているのか?
CPO製品化の最前線を走るのは、GPU大手のNVIDIAと通信半導体大手のBroadcomという米国の巨大企業だ。彼らは、台湾TSMCが開発した光実装技術「CoUP」を活用し、先行して製品開発と量産体制を確立している。
一方、NTTグループは他社に先駆け、2020年前後から「IOWN構想」の一環として、光電融合の綿密なロードマップを掲げてきた。NTTの計画自体は順調に進行しているものの、半導体設計技術のノウハウと莫大な研究開発資金を持つ米国大手2社に、市場実装のスピードでは先行された形になっている。
NTTグループは、設計から製造まで自社グループ内で一貫して行う垂直統合型のビジネスモデルを特徴とする。これに対し、NVIDIAやBroadcomは工場を持たず、製造はTSMCなどの外部ファウンドリーに委託するファブレスモデルだ。

日本政府は、この重要な分野における競争力強化のため、最先端半導体の製造を目指すラピダスとNTTグループの緊密な連携を強く推進している。
Q. 光電融合の部素材・製造装置分野で日本企業が強いのはなぜか?
光電融合デバイス、特にCPOを構成する多岐にわたる部素材において、日本企業は世界的に圧倒的な強みを持っている。光ファイバー(藤倉、住友電工、古河電工)、外部光源レーザー(住友電工、古河電工、三菱電機)、精密パッケージ基板(AGC、凸版、イビデン、京セラ、新光電気、DNP)、そして高精度な光コネクタ(先行アドバンストコンポーネンツ)など、各分野で高いシェアを誇る企業が多数存在している。
日本のこれらの企業は、長年培ってきた半導体関連部素材や精密製造装置に関する高度な技術とノウハウを、そのまま光電融合に応用できることが強みとなっている。特に、ミクロン単位の誤差も許されない光ファイバーと光回路の超高精度な接続技術や、高耐熱性を持つパッケージング技術は、日本の精密プロセス技術が世界をリードする分野だ。

実は、光電融合は2010年前後にも一度ブームを迎えた経緯があり、当時の「プラガブル光トランシーバー」の普及を通じて、日本の部品メーカーは基礎研究と開発を地道に継続してきた。この長年の技術蓄積と改善が、今日のCPO時代の需要に対して最高の技術を提供できる競争優位性につながっていると言える。一方で、中国も独自のサプライチェーンを構築し、猛烈なスピードで開発を進めており、日本の油断は禁物だ。