PIVOT TALK BUSINESS
新規事業の本気度が大企業を救う?
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2026年8月5日

ホンダ、キリン、京セラ、JR東日本など、大企業による新規事業の最新事例を深掘りする。上司を味方につけ、リスクを最小化する「20%承認ルール」や、カーブアウト手法の実態を解説。大企業ならではの圧倒的な資本と技術を活用し、社会課題を解決しながら生き残りを図るための本気度に迫る。 <ゲスト> 守屋実|新...
大企業の新規事業を加速させる「20%承認」戦略とは?事例から学ぶ挑戦の本質
現代社会において、大企業は新規事業創出に強く迫られている。しかし、長年の企業文化や複雑な承認プロセスが、挑戦を阻む大きな壁となるケースは少なくない。
この課題を乗り越え、企業として新たな価値を生み出し続けるためには、どのようなアプローチが求められるのか。
本稿では、「20%承認」というユニークな制度と、それを活用して変革を遂げる日本企業の実例を通じて、大企業の新規事業開発における突破口を探る。

Q. 大企業が新規事業を生み出す上で障壁となるものは何か?
大企業における新規事業の承認プロセスは、多くの場合、徹底的なリスク回避を目的とする。
これは「100%承認」と称されることがあるが、全てのステークホルダーがリスクを負う体制となるため、承認する側には完璧な計画と確実な成功が求められるのだ。
結果として、「本当に儲かるのか」「絶対失敗しないでほしい」といった心理が働き、企画は精査の名の下に骨抜きにされたり、時間ばかりが過ぎたりする事態に陥りやすい。財務や法務など多様な部署からの詳細な検討を求める声が上がり、根回しに多大な労力がかかる現状が大企業の「阻む力」となり、せっかくの芽を摘んでしまう。
このような状況では、特に革新的なアイデアほど理解を得ることが難しく、多くの挑戦が本格始動する前に立ち消えるのが実情である。
Q. ホンダの新規事業であるアフリカ道路プロジェクトはどのようなものか?

ホンダがカーブアウトによって立ち上げた新規事業は、アフリカのインフラ課題を抜本的に解決する画期的な道路建設プロジェクトだ。
アフリカの多くの国では、年間数百億円規模の予算を投じて道路建設が行われているにもかかわらず、低品質な材料の使用が原因で完成からわずか数年で道路が劣化し、補修が繰り返されるのが現状である。
劣悪な道路状況は、深刻な交通事故や高額な物流コストを招き、経済発展の足かせとなっている。
この問題に対し、ホンダが開発したのは、なんと砂漠の砂に熱と圧力を加えることで、良質なアスファルト舗装の主要骨材となる人工川砂を生み出す独自技術であった。
天然の川砂が持つゴツゴツとした形状とサイズを人工的に再現することで、通常よりも格段に強靭な道路を製造可能としたのだ。この新技術で製造された骨材は、日本の一般的な骨材と比較して約2.5倍の耐荷重を実現し、道路の寿命を従来の約10年から20年へと延長させる見込みがある。
これにより、インフラのライフサイクルコストを6割削減する可能性も秘め、持続可能な発展に大きく貢献するプロジェクトと言えるだろう。
Q. ホンダが採用する「20%承認」制度とは具体的にどのような仕組みなのか?
ホンダの「20%承認」制度は、大企業特有の「阻む力」を逆手に取った画期的な新規事業創出メカニズムである。
社内では事業に必要な資金のうち20%程度の少額承認を、新規事業の「仮免許」として与える。この仮免許を獲得した起業家は、残りの80%の資金を外部のベンチャーキャピタルなどから自力で調達しなければならない。
社内で全額を承認する「100%承認」では、承認者である上司が事業失敗のリスクを全て負うことになり、厳しい審査と遅延が生じる。一方、「20%承認」であれば、上司は「背中を押す」立場に留まり、社外の資本家が残りのリスクを評価し出資判断を下す。
これにより、上司は仮免許を与えて部下を応援するスタンスを取ることができ、万一事業が失敗しても、その責任を直接問われることが少なくなるのだ。
これは承認者にとってのリスクを大幅に低減するため、新規事業への承認のハードルを大きく下げる効果がある。
同時に、事業を担当する社員には、限られた社内承認で得たリソースを元手に、社外の厳しい目を持つ投資家を説得するという、より実戦的な経営手腕が求められる仕組みとなっている。
Q. 「20%承認」制度は社員をどのように「経営者」へと成長させるのか?
ホンダの技術者であった伊賀氏の事例は、「20%承認」制度がいかに社員を真の経営者に覚醒させるかを示す。
伊賀氏は社内から20%の承認を得た後、残りの80%を調達するため、1年間で約50社の外部ベンチャーキャピタルを訪れた。
当初は技術者思考が強かった彼も、数十回の連敗を経験し、投資家からの鋭い質問とフィードバックを受ける中で、事業の市場性や蓋然性を客観的に捉え直し、プレゼンテーションを磨き上げた。
この厳しい「修羅場」を乗り越える過程で、彼は資金調達の困難さ、ビジネスモデルの妥当性、事業の社会的意義などを深く追求し、一介の従業員から、財務感覚と事業洞察力を備えた「経営者」としての視座を急速に確立していった。
20%承認制度は、会社にとっては少額のリスクで事業可能性を探り、成功すれば外部資金を呼び込み成長させる機会を提供する。
また、担当者にとっては社外の市場で直接評価を受けることで、真の事業家精神とスキルを磨く実践的な学びの場となるのだ。
この両面におけるメリットが、この制度の最大の特徴と言える。
Q. 他社の革新的な新規事業からは何を学べるか?

ホンダ以外にも、多くの日本企業がユニークな発想で新規事業に挑み、その成功は既存の枠にとらわれない柔軟な思考を示している。
キリンの「人生を共に生きるウイスキー」事業はその代表例だ。マクアケでの発売直後、わずか4分で1億円を突破し、1日で2.7億円を売り上げて完売する記録を達成した。これは単なる「物」としてのウイスキー販売ではなく、「20年という時間をかけて、子どもの成長と共に熟成していくウイスキー」という物語と体験を売ることに成功した結果である。
購入層の約6割が普段ウイスキーを飲まない人々であったことから、顧客の新たなニーズを掘り起こす「コト売り」から「イミ売り」への転換が見事に成功した事例と言える。
また、セラミックメーカーである京セラが取り組む、アレルギーを持つ子ども向けのパーソナライズ型食事提供事業も注目すべきだ。アレルギーの多様性に合わせて、卵、乳、小麦などを個別に除去した食事を工場で生産することは、メーカーとしては非常に非効率であると見られがちだ。しかし京セラは、工場が持つ1個流し生産のノウハウを転用することで、社会課題解決と事業性の両立を図っている。これは本業の専門性を広義に解釈し、既存のリソースを転用する柔軟な発想の現れである。
JR東日本は、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の「JR東日本スタートアップ」を通じて、わずか12人の専任チームで7年間で66もの事業化に成功した実績を持つ。
これはスタートアップ企業から見ても驚異的な数字であり、大企業が持つ巨大な信用、資金、人材といったリソースが本気で動き出した際の影響力の大きさを示唆している。個人の起業家では実現困難なケニア政府との基本合意なども、大企業のブランド力があるからこそ可能となることがある。
Q. 変化の激しい現代において、なぜ大企業は新規事業に取り組むべきなのか?

今日の企業は、AIをはじめとする技術の進化により、顧客ニーズや市場環境が急速に変化する時代に直面している。
現状維持だけでは企業として存続することさえ難しくなるため、大企業も本業の変革と新規事業創出に本気で取り組む必要があり、これはもはや避けて通れない命題である。
新規事業の立ち上げは、十中八九が困難や失敗に直面する。顧客に断られたり、期待が裏切られたりする中で、諦めずに前に進むためには、事業を成し遂げたいという「燃えるような熱い思い」が不可欠となる。
大企業のリソースと組織力があれば、その困難な道を歩み続ければ、スタートアップ企業よりも高い確率で「十中一二」の成功をつかみ取ることができる。
加えて、企業内で挑戦する先駆者の存在は、周囲の社員に大きな影響を与える。ホンダの伊賀氏、キリンの小島氏、京セラの谷氏のような挑戦者たちは、「人は人に影響を受ける」という原則を体現している。
彼らの熱量に触発され、自らも行動を起こす「挑戦の連鎖」が企業全体、ひいては国全体の活力を高めるのだ。
大企業がこのようなチャレンジを続けることは、自身の変革だけでなく、社会全体のイノベーション推進にも貢献すると言えよう。