PIVOT TALK MONEY
世界の3つの戦争と、原油価格の行方
(524)
5,744回視聴
2026年7月28日

中東・東欧・極東の3つの戦場で今後何が起きるのか?日本の円安を止めるには何が必要なのか?欧州在住のヘッジファンド・マネージャーである塚田直史氏に聞いた。 <ゲスト> 塚口直史|ファンドマネージャー 1997年早稲田大学政治経済学部卒業後、都銀系投資顧問会社、米シティバンクを経て、米ブラックロックに...
塚口直史氏が読み解く「世界大激動」:中東から極東へ広がる地政学リスクの現実
世界を股にかけるファンドマネージャーであるVプラスプラスの塚口直史氏は、今年すでに20カ国以上を訪問し、世界の最前線で肌感覚を持って情勢を観察している。欧州連合の投資顧問業者としての顔も持つ氏は、特に中東、東欧、南欧といったEMEA地域での不動産投資を積極的に行ってきた。

本記事では、この国際的な投資家が見る中東の膠着状態、ウクライナ戦争の行方、そして極東に忍び寄る影、さらにはシリコンサイクルの変調と日本経済の現状まで、複雑に絡み合う「世界大激動」の現在地を、Q&A形式で深く掘り下げる。
Q. ドバイの視点から見た中東情勢の現状はどうなっているのか?
中東では表面上は平穏な日常生活が営まれている。ドバイ滞在中も人々はショッピングを楽しみ、通常の活動が見受けられた。しかし、その裏では戦争の影が確実に忍び寄っているのが実態である。例えば、ミサイル攻撃やドローン攻撃を防ぐためのジャミングによってGPSに不具合が生じていたり、物価が高騰しており、過去3ヶ月で20%近
く生活動向に関する価格が上昇していると塚口氏は指摘する。
中東紛争に関しては、年初から様々なシナリオが想定されてきた。早期終結を示唆するアルファシナリオの可能性は既に消滅したと言える。現在最も有力視されているのは、低規模から中規模の紛争がだらだらと1年程度継続するベータシナリオであり、この確率を8割程度と見積もっている。一方で、紛争が地域全体に拡大するガンマシナリオの可能性も、決してゼロではないと警告する。実際、ウクライナのキーウでは今もミサイルアラートが頻繁に発令されており、想定を超える事態が発生する可能性は常に警戒すべきであると彼は述べている。
Q. 中東情勢の膠着は原油価格にどのような影響を及ぼしているか?
中東の紛争は、原油価格を高止まりさせる大きな要因となっている。ドバイにおいては一見平静が続いているように見えるが、実際には戦時下において平時が溶け込むような状況が生まれている。

アラブ首長国連邦(UAE)などの産油国は、原油価格の高騰によって大きな恩恵を受けている。ホルムズ海峡の状況が注目される一方で、代替港であるフジャイラ港からの石油輸出量は増加しており、戦前と比べて総輸出量が拡大している。加えて、UAEはOPECを脱退したため、増産に関する制約を受けず、高い原油価格の恩恵を最大限に享受できる状況にある。これにより、産油国側には紛争を急いで解決させるインセンティブが薄れており、妥協への焦りもほとんど見られないという。
一方で、原油価格高騰のコストは日本のような消費国が実質的に負担している状況である。米国も産油国であるため、日本ほど切迫感は持っておらず、これが紛争の膠着を長期化させる一因となっている。塚口氏は、原油価格が大幅に低下する可能性は現状では低く、仮に下がるとしてもウクライナ戦争の停戦によってロシア産原油が放出されるなど、別の要因によるとの見方を示した。
Q. ウクライナ戦争の最新の情勢と今後の見通しはどうなっているのか?
ウクライナ戦争の情勢も大きく変化しつつある。昨年まで劣勢だったウクライナは、ドローン攻撃を強化することでロシアへの揺さぶりをかけている。しかし、両国ともにこれ以上、戦争を長期化させる財政的な余裕はなく、どこかで「決着」をつけざるを得ない段階に差し掛かっているようだ。太平洋戦争が「決戦」を繰り返した後に終結したように、ウクライナも停戦の前に一時的に戦況が激しくなり、熱度が上がる可能性があると塚口氏は見ている。
ウクライナ国内では、防衛戦略を巡る対立が顕在化している。新しいドローンやロボットを用いた戦術を推進する勢力と、従来の大砲を用いた戦術を重んじる軍上層部との意見の食い違いが内部混乱を招いている。ただし、この対立は戦争をより効率的に進めるための戦術論に終始するものであり、大規模な分断につながるとは考えられていない。

戦場の様子も変化している。ウクライナには「泥濘期」と呼ばれる泥が柔らかい時期があり、かつてはこの期間には大規模な機動戦略が難しかった。しかし、今はドローンによってリアルタイムで戦況に対応し、穴が開けば即座に埋めるようなオンデマンドな戦闘が行われている。前線近くにドローン工場を設置し、状況に応じて日々改良を重ねているという新たな現代戦の姿がそこにはある。
両国の財政状況は大きく異なる。ロシアは国民福祉基金を1/3も使い込み、海外での起債が困難なため、金や外貨を売却して戦費を賄っている。これは持続可能ではないとの見方がある。一方、ウクライナは欧州から今年、900億ユーロ相当の戦費を調達することに成功しており、財政面での優位性を固めつつある。
Q. 中東・ウクライナの戦況が極東の地政学リスク、特に台湾有事にどう波及しているか?
中東と東欧の紛争は、極東にも影響を及ぼしつつある。直近では、ロシアのプーチン政権が北朝鮮に3万人の兵士の派遣を要請したという情報がある。これによって、北朝鮮の兵士が現代戦の知見やロケット・ミサイル製造運用の新技術をロシアから学ぶことは、北朝鮮の軍事力を大幅に向上させる危険性がある。
さらに、中東での紛争長期化は、米国のパトリオットミサイルなどの防空システムのリソース枯渇を招き、これが結果として中国にとっての挑発コストを低下させている。米国が他地域に力を割かれることで、中国は台湾有事などの「境界を試す」行動を起こしやすくなっていると言える。

このような状況は、かつて10%以下と見積もられていた極東有事、特に台湾有事の発生確率を確実に押し上げている。中東や東欧の紛争が長期化するほど、グローバルな連鎖反応を通じて極東の地政学リスクが高まるというのが塚口氏の認識である。フィリピンへの挑発など、中国の行動も活発化しており、これは警戒すべき兆候だと言える。
Q. 世界経済に大きな影響を与えるシリコンサイクルは現在どのような段階にあるのか?
世界の株式市場を大きく動かす半導体の「シリコンサイクル」は、今年夏に既にピークを迎えたという見方が強い。塚口氏らは約半年前からそのピークを予測しており、現在は予測通り下降局面に転じつつあると考えている。シリコンサイクルは概ね4年周期で動くため、今後2〜3年は下降期が続くと推測している。
今回のピークアウトの背景には、新しい技術、特に生成AIのような技術に対する過剰な期待とそれに基づく過剰投資があった。過去に経験のないほど、新たな技術への熱狂が市場を動かし、短期間で急激な上昇をもたらした。その反動として、今は調整局面に入ったと彼は分析する。
Q. これらの世界情勢の中で日本は現在どのような経済状況にあると評価できるか?
世界の激動が続く中、日本経済は非常に複雑な状況に置かれている。一部では株価上昇を背景に「日本イズバック」という言説が聞かれるものの、実態はその裏で、インフレや急激な円安が進行し、国民の実質賃金はなかなか上がらない状況が続いている。特に、中東情勢による原油価格の高騰は、輸入国である日本にダイレクトな負担として降りかかっている。
塚口氏は、表面的な経済指標だけでは見えない、インフレと賃金停滞のギャップによって人々の生活が圧迫されているという構造的な問題が存在すると指摘する。世界中で地政学リスクが高まる中で、日本が置かれている状況は決して楽観視できるものではないという。