
デジタル通貨の時代到来?
決済代行会社「全東信」破綻から考える日本経済のデジタル変革と未来
クレジットカード決済代行会社「全東信」の突然の破綻は、日本の経済界に大きな波紋を広げた。
馴染みの薄い業界の倒産と受け止められがちだが、その影響は取引先である飲食店から地域金融機関、さらには国の決済インフラの構造的な課題まで浮き彫りにしている。
本稿では、全倒信の事例を起点に、複雑な日本の決済システムの現状と、デジタル変革によって切り開かれる未来について、金融アナリスト大槻奈那氏の見解を基に深掘りする。

Q. クレジットカード決済代行会社「全東信」とはどのようなビジネスモデルであったか?
決済代行業者は、顧客がクレジットカードで支払いを行ってから、カード会社から店舗へ実際に入金されるまでのタイムラグを埋める役割を担っていた。通常のクレジットカード決済では、カード利用者がカード会社へ支払うのはおよそ1カ月後であり、店舗がカード会社から売上を受け取るまでにも時間がかかる。この期間、決済代行業者が手数料を徴収しつつ、店舗に対し代金を立て替えて早期に支払うことで、店舗の資金繰りを支援していたのだ。

Q. 今回の破綻が、特に飲食店や地域金融機関に大きな影響を与えたのはなぜか?
飲食店が多数被害を受けた背景には、日々の食材仕入れや人件費などで常に現金が必要となる業態の特性がある。本来、審査の厳しいカード会社の代わりに全東信は比較的緩い審査で多くの飲食店を顧客にしていたとされ、店舗側は資金繰りにおいて全倒信への依存度が高かった。さらに、全倒信には多数の地方金融機関が融資を行っていたことが判明。これらの地域金融機関は巨額の債権が回収困難となり、一部では年間の利益に匹敵する損失を計上する見込みで、地元の貸し出し縮小など経済への波及影響が懸念されている。
Q. 信用力の喪失はなぜ決済代行業者の破綻に直結するのか?
決済代行業は、莫大な顧客の売上を一時的に立て替えるため、常に潤沢な「プール金」が必要となるビジネスである。このプール金の原資は、主に銀行などの金融機関からの融資に依っていた。しかし、全倒信には粉飾決算の疑惑が浮上し、その噂だけでも信用力が決定的に失われたと指摘されている。金融機関からの追加融資や既存融資のロールオーバー(借り換え)が困難になった結果、支払サイクルのバランスが崩壊し、急速な資金ショート、そして破綻へと至ったのだ。金融業界において、信用は最も重要な資産であり、その喪失は致命的な結果を招くことを如実に示した事例である。

Q. 日本政府は今回の全東信の破綻に対し、どのような異例の迅速な対応を見せたのか?
全東信の破綻が報じられた直後、飲食店団体「食団連」などが影響の実態を調査し政府へ報告した。これを受け、経済産業省はわずか4日後に、被害を受けた中小企業向けの支援策を発表した。具体的には、特別相談窓口の設置や、融資条件の緩和、債務返済条件の緩和などが含まれる。これは過去の震災時やコロナ禍における中小企業の連鎖倒産を防ぐ経験とノウハウの蓄積があったためで、政府による異例のスピード感と判断だった。国の支援が素早く表明されたことで、金融機関も杓子定規な与信審査を避け、被害店舗に対する柔軟な資金繰り対応が可能となったと言える。
Q. 「〇〇ペイ」が乱立する日本のキャッシュレス決済の現状と、クレジットカード後払いの魅力は何であるか?
日本では、「PayPay」に代表されるQRコード決済や電子マネーなど、数多くの「〇〇ペイ」が乱立し、その種類は世界的に見ても非常に多い。かつて強固であった日本人の「現金信仰」も、PayPayの大規模なポイント還元キャンペーンをきっかけに大きく変化した。しかし、デビットカードのような即時決済の利便性がある一方で、クレジットカードが持つ「後払い機能」は消費者にとって大きな魅力として残存する。利用から約1カ月、場合によってはそれ以上の期間、金利なしで支払いを猶予できるメリットは、個人の購買力を高め、消費の活性化に貢献している。韓国がクレジットカード利用を促進した結果、消費が飛躍的に伸びた事例もこの後払いの経済効果を裏付けるものだ。
Q. 日本の未来の決済システムを牽引すると期待される「トークン化預金」や「ステーブルコイン」とはどのようなものか?
日本の決済システムの未来においては、「トークン化預金」や「ステーブルコイン」といった概念が注目されている。トークン化預金とは、銀行預金をブロックチェーン上で発行されるデジタル権利証(トークン)に変換し、送金や決済に利用できるようにする仕組みである。一方、ステーブルコインは、ビットコインなどの一般的な暗号資産と異なり、米ドルや円などの法定通貨に価格が固定されるよう設計された暗号資産を指す。これらの技術により、煩雑な中間手続きを省き、ブロックチェーン上で取引を即時にかつ低コストで完結させることが可能になる。海外ではすでに加盟店手数料1%未満という事例もあり、決済コストの大幅な削減が見込まれている。

Q. これらの新たなデジタル決済システムは、企業への融資や社会システムにどのような変化をもたらすのか?
ブロックチェーンを基盤とする決済システムが浸透すると、取引が全てデジタル上で記録・可視化される。これにより、中小企業が抱える融資の課題が解決される可能性がある。従来の融資では、年に一度しか提出されない決算書や、節税対策によって実態よりも悪く見られがちな財務状況のため、銀行は企業の正確な信用力を測りにくかった。しかし、「商流の見える化」が実現すれば、銀行は企業の売上や資金の出入りをリアルタイムで把握でき、より迅速かつ的確な与信判断が可能となる。これは、土地担保や経営者保証に依存しない「企業価値担保融資」を後押しし、中小企業の資金調達環境を大きく改善させるだろう。また、中国のコロナ禍におけるプッシュ型支援のように、有事の際にも政府が困窮企業を迅速に特定し、手厚い支援をタイムラグなく実行する体制が構築され得る。

Q. 決済システムのデジタル化を進める上で、どのような課題が存在するか?
デジタル決済システムの推進には複数の課題がある。まず、決済データや商流データの一元化を進めるためには、個人の「マイナンバーカード」と銀行口座の紐付けが不可欠となる。マイナンバーカードの普及は進む一方だが、政府が個人の資産状況や送金履歴を詳細に把握することへの抵抗感は国民の中に根強く存在する。将来的な資産課税への懸念など、情報が政府に管理されることへの拒否感が、デジタル化の推進を妨げる大きな壁となっている。このような抵抗感を払拭し、デジタル化による効率化と透明性向上というメリットを国民に理解してもらうことが、今後の大きな課題である。情報の開示による利点とプライバシー保護のバランスをいかに取るか、社会全体の議論が求められる。