PIVOT TALK BUSINESS
ブランドと成長戦略。ブランド構築の6要素
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2026年7月31日

ブランドとは何か?ブランドをいかにして成長に繋げることができるのか?ブランドに起きる4つのシフトと合わせて、ブランド構築の本質について、クリエイティブ・ディレクターのレイイナモト氏に聞いた。 <ゲスト> レイ・イナモト|クリエイティブ・ディレクター 米Creativity誌「世界で最も影響力のある...
現代ビジネスの羅針盤: 「信頼」を軸としたブランド構築の新常識
現代のビジネス環境において、企業ブランドの構築は大きな転換期を迎えている。かつてのように一方的な情報発信で顧客を惹きつける時代は終わり、顧客との対話を通じた関係性、そして揺るぎない信頼がブランドの生命線となった。激変する市場で持続的な成長を遂げるブランドをいかにして築き上げるべきか。本稿では、この「ブランド・シフト」の全貌を紐解き、企業が直面する本質的な課題と、その解決策について深掘りする。
Q. 現代において、企業ブランドのあり方はどのように変化したか?

現代のブランド構築は、企業から顧客への一方的な情報発信から、顧客との体験を循環させながらブランドを構築する「連鎖反応型」へと劇的にシフトした。この新しいモデルでは、再現性があり持続可能な活動を繰り返すことがブランドに対する長期的な信頼を獲得する絶対条件となる。
一過性のバズを追い求めるのではなく、継続的に価値を提供し続ける仕組みが不可欠な時代に突入している。ブランドとは、企業が一方的に作り上げて消費者に提示するものではなく、顧客との相互作用の中で自然と構築されていく循環の成果なのである。
Q. 現代の消費者がブランドを選ぶ上で「ストーリー」よりも重視するものは何か?
情報技術の急速な進歩に伴い、企業が吹聴する独自のストーリーや美辞麗句よりも、購入者の客観的なレビューやリアルな体験、すなわち「証拠」に基づいた「信頼」が選ばれるための最優先事項となった。人間は太古の昔からストーリーによって時空を超えた繋がりを築いてきたが、現代においてはその物語単体での差別化は困難である。
ストーリー自体が無意味になったわけではなく、実態のない過剰なストーリーテリングを避け、顧客体験の満足度を高めることで得られる「証拠(信頼)」と相互補完させることが重要となる。企業の主張だけでなく、第三者のリアルな声が信頼の根拠として求められているのだ。
Q. 従来のファネル型マーケティングはなぜ時代遅れとなったのか?その代替となる新しいモデルとは何か?

従来のファネル型マーケティングは、顧客を認知から購入まで誘導するといった一方通行のアプローチであり、「売りっぱなし」に陥りやすかった。しかし現代においては、購入後の素晴らしい体験や推奨行動が、次の新規顧客を呼び込む強力なトリガーとなる。この循環を促す新しいモデルが「フライホイール(はずみ車)」である。
フライホイールモデルでは、会社が生み出すプロダクトが顧客を魅了し、魅了された顧客がブランドを信頼し、その信頼によって会社が差別化されるという一連の好循環を生み出す。たとえ少数の顧客であっても、彼らが熱狂し、周囲にレコメンドすることで、弾み車のように回転スピードと規模が自然と加速する持続的な成長サイクルを確立するのだ。
Q. 企業が持続的に顧客の心を掴むためには、一過性の「表現」と「再現性」のどちらを重視すべきか?
現代のブランド戦略においては、毎回異なる斬新な「表現」を追求するよりも、一貫した世界観を伝え、顧客の生活の中に習慣として定着させる「再現性のある仕組み」を築くことがはるかに重要だ。広告業界の世界的な祭典であるカンヌライオンズでさえ、「表現の芸術」から「テクノロジーによるビジネス効率化や契約の場」へとシフトしており、単なるクリエイティブ表現よりも、ビジネスとしての一貫した再現性が重視されている実態がある。
情報流通のスピードが圧倒的に速い現代において、一貫性を保ちながらコンテンツを継続的に発信し続けるには、毎回ゼロから企画を創造するのではなく、視覚的・構造的な「再現性の仕組み」が必須となる。常に同じデザインや服装といった視覚的シグナルを提供し続けることで、顧客は瞬時で本能的にブランドを識別し、それが習慣化を促進する効果も期待できるのだ。
Q. 「一瞬の注目」と「一生の関係」では、どちらがブランドにとって重要か?その実現のために企業は何をすべきか?

一過性の「アテンション(一瞬の注目)」を追い求める過激な施策は、ブランドの寿命を縮めかねない。盛り上がっては消えていくような現象に依存するのではなく、顧客の生活にとって「必要不可欠な存在(バイタル)」となる「一生の関係」構築に注力すべきである。顧客が「なぜこのブランドでなければならないのか」という本質的な問いに対し、揺るぎない答えを提供できるブランドだけが、長期的な信頼を獲得し続けられるのだ。
上場による急激な事業拡大や四半期ごとの売上増加の圧力に直面しても、本来の理念や顧客との「一生の関係性」を損なう方向へ過度な拡張を走らせてはならない。一部のカリスマだけでなく、現場の一般社員まで自社の存在意義を正しく意識させる「社員育成(インナーブランディング)」が、一貫したブランド価値を守り、顧客とのバイタルな関係を築くための最大の処方箋となるだろう。
Q. 強いブランドを築くための「6つの要素」とは何か?また、日本企業の「パーパス」における課題とは?
強いブランドを構築するためには、「ミッション(なぜ存在するか)」「ビジョン(どうありたいか)」「コンセプト(提供する価値)」「プロダクト(価値の可視化)」「オーディエンス(顧客定義)」「メッセージ(企業独自の視点)」という6つの要素を完全に整合させることが必須だ。特にオーディエンスの定義は重要であり、ナイキが「体さえあれば誰もがアスリート」と定義した顧客像を見失い、広く大衆に売ろうとした結果迷走した例は教訓となる。定義したコアな顧客像を徹底的に狙い撃ちし続ける姿勢が求められる。
多くの日本企業がパーパスを掲げ始めたが、「社会を幸せにする」といった抽象的で曖昧な表現に終始し、その定義が曖昧なために形骸化しているケースが多い。これにより、本当に自社が果たすべき社会的使命が社員や顧客に明確に伝わらず、差別化の要素となりえていない。策定したパーパスが社員に腹落ちし、実際のプロダクト、現場の意思決定、投資や採用といった日々の実行プロセスにまで具体的に落とし込まれて初めて、ブランドとしての真の価値を発揮するだろう。
Q. 創業者はブランド構築においてどのような役割を担うべきか?また、ブランドの「信頼」をどのように測定するべきか?

創業者がすべての実務に直接関与し続ける「ファウンダーモード」は、初期には有効でも最終的には組織を属人化させ、不健全な状態を招くリスクがある。カリスマ的な創業者は「仕組みと文化の構築」へと一歩引くべきだ。例えば、AI開発のアンスロピック社のCEOは、直接管理する部下を少数に絞り込み、残りのリソースの半分を「いかに一貫した仕組みと文化を全社で創り上げるか」に注ぐことで、持続可能で強い組織を構築している。創業者は「自分の判断なしで機能する仕組み」と言語を次世代に引き継ぐ責任があるのだ。
ブランドの「信頼」は定性的な側面も持つが、最も客観的なKPIの一つは、一度きりの購入や「バズ」ではなく、「どれだけの顧客が能動的にブランドを選び続け、リピーターとなり続けているか」という継続性のデータだ。また、強いブランドは、単なる競合企業ではなく、社会的な使命として自社が解決すべき「倫理的・本質的な敵(例えば、トヨタ自動車の「幸せの量産」に対する「人々の不幸せ」)」を明確に定義し、その哲学に基づいて全ての決断を行っている。数値化しにくい「哲学」や「信頼」こそ、日々の明確な行動と一貫した品質によって示し続けることで、他社が模倣不可能な究極の差別化要素となる。