PIVOT TALK BUSINESS
ブランドとは何か?信頼による差別化だ
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2026年7月30日

ブランドとは何か?ブランドをいかにして成長に繋げることができるのか?ブランドに起きる4つのシフトと合わせて、ブランド構築の本質について、クリエイティブ・ディレクターのレイイナモト氏に聞いた。 <ゲスト> レイ・イナモト|クリエイティブ・ディレクター 米Creativity誌「世界で最も影響力のある...
「信頼による差別化」が築くこれからのブランド戦略
Q. ブランドの真の定義とは何と考えるか?
「ブランド」という言葉はビジネスシーンで頻繁に聞かれるが、その定義は依然として曖昧なままである。ストーリーテリングやイメージ戦略といった表面的な側面が強調されがちだが、これらはあくまできっかけに過ぎない。
真のブランドとは「信頼による差別化」であると、レイ・イナモト氏は語る。顧客が競合ではなくその企業、商品、サービスを「選び続ける必然的な動機」と「確固たる信頼」を、明確な差異性をもって提供することが、現代におけるブランドの核である。曖昧な言葉に終始せず、その本質を理解することが不可欠となる。

Q. 著者が『ブランド・シフト』を執筆した背景には何があるか?
本書執筆の背景には主に3つの要因がある。まず、企業経営者でさえブランドの解釈が曖昧である実態だ。ブランドを経営戦略の最優先事項ではなく、マーケティングや広報の担当者の仕事と誤解しているケースが日米問わず少なくない。
次に、グローバル市場、特に米国における日本企業の存在感の希薄化に対する強い危機感である。長らく海外に滞在する著者には、かつての日本の勢いが失われていることが明確に映る。
そして最後に、個人としての使命感がある。約17年前、友人の「Japan’s finished(日本は終わっている)」という言葉を聞いた時、日本人として日本の企業成長を支援し、ブランド価値を向上させることで社会に貢献したいとの思いが募った。これらの思いが集約され、『ブランド・シフト』という一冊の書物となったのである。
Q. グローバルで活躍するクリエイターであるイナモト氏のキャリアの原点にあるものは何か?

ミシガン大学で美術とコンピューターサイエンスを学び、左脳と右脳を融合させる能力を培ったイナモト氏だが、そのキャリアは順風満帆ではなかった。
社会人になりたての頃、プレゼンテーションの場で「この人の言っていることが分からない」と目の前でクライアントに言われ、自身の同僚から職務経歴書の提示を求められるという屈辱的な経験をしている。この体験から、表面的な英語力だけでなく、仕事で「きちんと物事を伝える」コミュニケーション能力の重要性を痛感したという。
大躍進の契機となったのは、26,7歳の頃、伝説的上司からNikeのグローバルデジタル案件の競合プレゼンリーダーを任されたことである。若くして大役を経験し、プレゼンの重要性を改めて認識した。しかし、ここでのプレゼンも単に「見せ方」に留まらず、その根底に流れる思想や本質が伴っていたからこそ、世界的なブランドとの信頼構築に成功したのである。
Q. 現代においてブランドはなぜ「信頼による差別化」を必須とするのか?
現代社会は情報伝達技術が圧倒的なスピードで進化を遂げており、ブランドの在り方を根本から変えた。インターネット、モバイル、そしてAIの普及により、誰もが情報を瞬時に発信・受信し、その本質を簡単に見極められるようになったからだ。かつてのように一方的な情報発信だけで顧客を繋ぎ止めることは難しい。
ストーリーテリングは顧客の興味を引くきっかけとなるが、それだけでは深い「信頼」には繋がらない。また、日本企業は長寿企業が多く「信頼」を積み上げることに長けているが、往々にして「差別化」という視点が欠けている。周囲との調和を重んじる文化が、「他との違いを際立たせる」ことを苦手とさせているのだ。信頼があることは前提として、その上で競合とは一線を画する「何か」を提供できなければ、消費者は他に流れてしまう。この情報社会においては、「信頼」と「差別化」が両立して初めてブランドとして確立されるのだ。
Q. ブランドが「〇〇ではない」とあえて明確にする理由と、その具体例は何か?
多くの人がブランドと誤認しがちな概念を「〇〇ではない」とあえて定義することで、ブランドの真の本質を浮き彫りにする。
世界観ではない
人気ではない
アテンションではない
高額ではない
時価総額ではない
例えば、「世界観」だけを頼りに成長したD2C企業のAllbirds、Away、Casperなどは、その演出に実体が伴わず短命に終わるケースが目立った。「世界観」という言葉自体、英語にはないハイコンテクストで曖昧な概念であり、その曖昧さがリスクとなることがある。
「人気」や「アテンション」を追いかけた結果、失敗した事例も数多い。Nikeは一時期、スニーカーコレクター以外の層への製品乱発により、本来支えるべきコアファンの離反を招き、売上が失速した。約25年前のラグジュアリーブランドであるバーバリーも同様に、一時的な人気を追いかけたことでブランドイメージが失墜し、コア顧客を失った。ブランドが最も重視すべきは、広範囲にわたる「人気」ではなく、自身の事業の根幹を支える「コアファンの揺るぎない信頼」であると氏は指摘する。
Q. 従来のブランド構築の方程式が通用しなくなった理由とは?

イナモト氏が著書で提示するブランド構築の古い方程式は「コンセプト × ストーリー × 組織・場所 × メディア」というもので、これはキリスト教のような歴史上最も成功したブランド(宗教)の拡大プロセスに見て取れる。イエス・キリストの教え(コンセプト)、聖書(ストーリー)、教会(組織・場所)、活版印刷(メディア)といった要素が相乗的に機能し、ブランドを広げていった。
しかし、この方程式は現代では通用しなくなっている。かつては情報の発信側が一方的にコントロールできたテレビなどのメディアも、インターネットの普及により双方向性が生まれた。2000年代以降、情報の流通形態は劇的に変化し、企業が実体の伴わないメッセージを発信しても、それは瞬時に見破られ、顧客からの信頼を失う時代になったからだ。メディア技術の進化の速度が加速度的に速まる現代において、固定観念にとらわれた古い方程式では、変化の激しい市場で生き残ることは困難である。
Q. 「ブランド構築」と「ブランディング」はどのように異なるのか、また経営者が取り組むべきはどちらか?

「ブランディング」と「ブランド構築」は混同されやすい言葉だが、明確に区別する必要がある。イナモト氏は、「ブランディング」「マーケティング」「広告」との違いを次のように定義している。
ブランド構築:企業やブランドの根幹にあるコンセプトを深く追求し、存在意義を確立すること。最も本質的な思想を設計する工程。
ブランディング:ブランド構築で定めたコンセプトに基づき、ロゴや色彩など視覚的なアイデンティティやコミュニケーションデザインを確立すること。
マーケティング:ブランドのコンセプトや価値を、ターゲット顧客に効率的に伝え、関係性を築くための戦略を立案・実行すること。
広告:マーケティング戦略の一環として、特定のメディアを通じてメッセージを具体的に発信すること。
多くの企業は「ブランディング」と称してロゴ刷新やSNS運用といった表面的な活動に注力しがちだ。しかし、これらは「ブランド構築」で定義された確固たる根幹があって初めて機能するもので、あくまで「手段」である。表面的なブランディングだけに終始すると、一過性の流行で終わってしまい、継続的な成長や信頼には繋がらない。そのため、経営者が優先して取り組むべきは、企業の本質や存在意義を明確にする「ブランド構築」である。
特に重要なのは、社外への華やかなアピールよりも、組織内で働く社員にブランドのパーパス(存在意義)を徹底的に浸透させることだ。なぜこの会社が存在するのか、何を顧客に提供するのかを社員一人ひとりが意識し、行動に移せる社内文化(インナーブランディング)を醸成することが、揺るぎないブランド構築の第一歩となるだろう。