
超低予算もハリウッドに負けない理由
YouTubeからハリウッドへ!低予算ヒット作『オブセッション』監督が語る「Z世代を惹きつける物語」の秘訣
製作費わずか数万ドルという超低予算ながら、アメリカの若者層を中心に大ブームを巻き起こし、製作費の100倍以上もの興行収入を記録する歴史的大ヒットを達成した映画『オブセッション』。メガホンを取ったのは、弱冠26歳の新鋭監督カリー・バーカーである。
彼は伝統的な映画業界の出身ではなく、YouTubeで独学で映像制作を学び、その才能を開花させた。なぜ彼の作品がこれほどまでにZ世代の心に深く響いたのか。そして、低予算という制約がいかに創造性を刺激し、作品を特別なものにしたのか。気鋭の映画監督に、成功の舞台裏と未来への展望を独占インタビューで訊いた。

Q. 映画『オブセッション』がZ世代を中心に大きな共感を呼んだのはなぜか?
本物のZ世代である監督自身が、マーケティング的な意図なく『自分自身の声』で、等身大の若者の人間関係や感情を脚本に投影したことが大きい。大人が若者文化を表面的に模倣して作った作品に冷めているZ世代に対し、バーカー監督は自身の世代ならではのリアリティと「本物の言葉」で語りかけ、それゆえに彼らとの間に偽りのない共鳴関係を築くことに成功したのである。

登場人物たちが織りなす生々しい友情や葛藤のすべてに観客はリアリティを感じ、深く自己投影することができた。例えば、60代のベテランクリエイターが若者向けのコンテンツを制作しようとすると、その作品は往々にして旧世代の価値観が透けて見えてしまうものだ。しかし、カリー・バーカー監督が手掛けた本作は、まさに若者が若者のために作った作品であり、その純粋さが支持を集める要因となった。
Q. YouTube出身の監督として、従来の映画制作とYouTubeコンテンツ制作の「YouTubeらしさ」の違いをどのように捉えているか?
YouTubeを含むインターネットコンテンツの典型的な映像は、視聴者の注目を維持するため極限までテンポを上げた高速編集と、原色を中心としたビビッドでポップな色彩設計にあると監督は分析する。だが、プロフェッショナルな照明機材の普及により、高品質な「シネマティック映像」を制作するYouTubeクリエイターは急増している。この傾向から、今後映画やテレビとネット映像の垣根は、視覚表現の点において事実上崩壊していくと監督は考えている。
映画『オブセッション』の制作において、監督は「YouTube映画」のような印象を与えることを避けたかった。それは当時、YouTube映像がしばしば安っぽさや未熟さと結びつけられていたからである。しかし、多くのクリエイターが「映画のような」映像を手掛けるようになるにつれて、テレビとYouTubeの間の視覚的な区別は薄れていくと予測する。YouTubeは、映画学校で専門的な知識を学んだ者に限らず、誰もが作品を発表できるプラットフォームであり、制作の目的や求める表現に合わせて、技術を自由に選択し組み合わせることが最大の魅力であるとバーカー監督は語る。
Q. ロサンゼルスの映画学校で演技を学んだ経験は、監督としてどのように活かされたのか?
監督はロサンゼルスの映画学校に通っていたものの、専門は演技プログラム(俳優コース)であり、映画制作における技術的なノウハウ、例えば撮影、照明、音響といった分野は正規の授業では学んでいない。これらの技術はすべてYouTubeの無料チュートリアルを視聴することで独学し、自らの失敗を通じて体得したという。映画学校は自身の演劇への関心を深めた一方で、実践的な映像制作スキルはインターネットを通じて身につけたのが実情だ。
若い頃からコメディユニット「Bad Idea」を結成しYouTubeでスケッチ(寸劇)動画を投稿してきた監督は、アメリカの人気コメディ番組『Key & Peele』のような、テレビ水準のプロ品質を目指して制作に励んだ。当初は横画面のみで撮影していたが、フォロワーが増えるにつれて、縦画面のショート動画の視聴回数を伸ばすパワーに気づき、高品質な映像美とインターネットのアルゴリズムに最適化した映像配信手法を両立させる道を模索し続けてきたと語る。
Q. 低予算での映画制作が『オブセッション』にどのような影響を与えたのか?

映画『オブセッション』は、ハリウッド映画としては破格の低予算で製作された。配給会社などが公表する総予算75万ドルという数字は、ポストプロダクションやクレジット作成費用を含んだものであり、実際の撮影に使用できる予算はわずか67万ドル、しかもそれを20日間の撮影期間で使い切らねばならなかった。この極限状態においては「どのような意図で映画を作るか」といった優雅な議論をする余裕はなく、日々の撮影で直面するトラブルをどう乗り越え、限られた時間内で全てのカットを収めるかという死闘であった。
この厳しい予算制約は、逆説的に監督の創造性を刺激した。例えば、カメラを素早くパン(水平方向の移動)させる高価なプロ用特製雲台(ギアヘッド)を用意できなかったため、現場ではカメラマンがゆっくり手動でパンさせ、その映像を編集段階で加速させて擬似的な「ホイップパン」を作り出した。また、公道での撮影許可を得る予算がなかったため、よく映画に見られる住宅の外観を映す「エスタブリッシング・ショット」は一切なく、常にシーンの内側から物語が進むという結果となった。この厳しい足枷があったからこそ、「最も核となるストーリーをいかにシンプルに伝えるか」という極めてクリエイティブなアイデアが生まれたと監督は確信する。
Q. ハリウッドが『オブセッション』の成功から学ぶべき真の教訓は何だと考えるか?
監督は、ハリウッドのスタジオが本作の成功から「安い低予算の映画を大量生産すれば大儲けできる」という誤った教訓を学ぶことを危惧する。本当に学ぶべきは、資金的な制約よりも「心が引き込まれる良質な物語の重要性」だという。本作が大成功を収めたのは、単に安価であったからではなく、登場人物に感情移入できるリアルさがあったからである。観客が彼らを心から応援し、スクリーンで起きる出来事に深く心を揺さぶられるような、キャラクター主導の説得力ある物語があったからだ。
どのような規模の制作予算であろうとも、観客が感動し、自発的に友人へ勧めたくなるようなムーブメントを起こす原動力は、派手な特殊効果や莫大な宣伝費ではない。感情を揺さぶる物語と、その登場人物への共感であると監督は断言する。また、脚本執筆から監督、編集までの全工程を自身が手掛けることで、出資者や関係者の意見によって本来のビジョンが歪められることなく、監督自身の「純粋な初期衝動」をそのまま作品として世に出せた点も、成功の要因の一つであると説明した。
Q. 監督自身の今後の作品制作における展望や、日本の観客へのメッセージはあるか?

かつてYouTubeから活動を開始したカリー・バーカー監督は、劇場映画の監督として世界的なブームを起こしている現状を「本当に子供の頃からの夢を生きている」と感じているという。そして次回作では、自らが主役の俳優を務める予定だ。今後の映像スタイルとして「主人公と同じ視野にカメラを置き、主人公が新しい真実を知るプロセスと観客がそれを知る驚きを完全に同期させるストーリーテリング」を追求していくと明かした。
バーカー監督は日本のホラー映画、特に黒沢清監督のSFホラー『回路』から計り知れないインスピレーションを受けているという。Jホラー特有の「日常の中に静かに忍び寄る非日常的な不気味さ(uncanniness)や独特のサスペンス緊張感」を愛し、それらを自身の作品にも投影している。機材の普及と発信機会の増加により、無名の才能が発掘される確率は過去最高に高まっている現代において、他の作品を安易に模倣するのではなく、自分自身の「本物の声」を信じ、真に表現したい核となる感情をストレートに出力することこそが、成功への道だと日本の観客へ語りかけた。