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日本サッカーの地政学:絶対的ストライカーを産む方法
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2026年7月19日

W杯から見えてくる、サッカーと地政学の関係。なぜ8カ国しか優勝経験国はないのか?なぜ米国や中国や中東はサッカー強国になれないのか?日本が真の強豪国になるにはどうすればいいのか?シンガポール国立大学兼任教授の田村耕太郎氏に解読してもらった。 <ゲスト> 田村耕太郎|シンガポール国立大学 リー・クアン...
日本サッカーが世界に勝つための変革:ビジネスに学ぶ「勝てる国」の条件とは
ワールドカップで日本代表は長らく「ベスト16の壁」に直面し続けてきた。その要因を単なる選手個人の能力や監督の戦術に求めるのは本質的ではない。強靭な規律と正確性を持つ一方、決定的な場面で違いを生み出す「強烈なストライカー」を欠く背景には、日本社会、そしてビジネス界にも通じる構造的な課題が存在する。
本稿では、日本サッカーが直面するこの「天井」を突き破り、さらなる高みを目指すために、社会や企業文化の変革がいかに不可欠であるかを深く掘り下げる。そして、その変革のヒントが、サッカーとビジネスの意外な共通点にあることを探求していく。

Q. 日本サッカーが世界で躍進できない本質的な課題は何だろうか?
日本サッカーは攻撃的ミッドフィルダーやウインガーなど、組織の中で規律正しく機能する優秀な選手を多く輩出する一方で、局面を打開する絶対的なストライカーの不在が指摘される。
W杯における強豪国との対戦では、エムバペ、メッシ、ケインといった「強烈なエゴイスティックなストライカー」が決定的な差を生み出す場面が多々見られる。
日本が誇る規律や正確性は、ある意味でリスクを避ける傾向に結びつく。ミスを恐れず自らシュートを狙う選手が少ない現状は、日本の育成方針と密接に関係しているのだ。
個が前に出て突破するよりも、周囲と調和しアシストするプレーが評価されやすい土壌が、結果的に絶対的な決定力を持つストライカーの誕生を阻んでいる可能性があると専門家は分析する。
Q. リスクテイクを伴う挑戦が生まれにくい背景には何があるだろうか?

ストライカーが生まれにくい構造的要因の一つに、日本特有の「トーナメント偏重文化」が挙げられる。甲子園や高校サッカー選手権など、負ければ終わりの一発勝負では、選手はリスクを避けて安全なプレーを選択しがちになる。パスを出す、ボールを戻す、遠くからシュートを打たないなど、個人が「わがまま」なプレーをすることでチームが敗退した場合、その責任は重いと考える風潮がある。
一方、欧州のリーグ戦は年間を通じて様々な挑戦と失敗が許容される。ドジャースがレギュラーシーズンで多くの試行錯誤をするように、負けても次に挽回できる環境が選手個人のリスクテイクを促すのだ。日本でもユース世代でリーグ戦が増えてきているが、未だメディアの注目はトーナメントに集中し、その文化的背景は根強い。この「挑戦を阻む」風土は、サッカー界のみならず、企業の新規事業開発にも当てはまる。
敗北=終わり、という固定観念
失敗が許されない文化が蔓延している
個人の突出した行動が抑制されやすい
「両利きの経営」でいう探求領域、つまり新規事業においては、従来の品質管理を重視するKPIとは全く異なる「どれだけ挑戦したか」「どれだけ早く多く失敗したか」を評価する新たな評価基準が必要となるだろう。
Q. ビジネス界がサッカーから学ぶべき点があるのはどういうことだろうか?
現代ビジネスの環境は、目まぐるしく変化し、何が正解か分からない時代である。こうした状況は、常に流動的で正解がないサッカーの試合と酷似している。
状況に応じて瞬時の判断が求められ、自身の選択したプレーを「正解」に変えるアドリブ力が不可欠だ。日本企業は、一球ごとに状況が停止し、正解がある程度存在する「野球的ビジネス」に長けていた。
しかし、金融危機や規制変更など予期せぬ事態が頻発する「サッカー的ビジネス」においては、従来のやり方では通用しない。ビジネスにおいても、計画通りの遂行能力だけでなく、突発的な事態に対応し、自らの判断で道を切り拓く力が求められるようになったのだ。
さらに、「失敗への寛容さ」の再設計も喫緊の課題である。
日本では、「失われた30年」やクールジャパンファンドのような、責任の所在が曖昧な大規模な失敗には寛大だが、個人がリスクを取って挑戦した結果の失敗には極めて不寛容という矛盾を抱える。
真に評価すべきは、組織のために主体的にリスクを取った挑戦者の失敗であり、そうした失敗を称賛し、学びとする文化を築く必要があるだろう。
Q. 才能ある選手を育成し、最大限に活躍させるために日本は何を変えるべきだろうか?

個人としての才能を磨くには、若い年代から海外リーグのようなプレッシャーがかかり、真剣勝負を数多く経験できる環境が不可欠だ。
欧州のトップレベルで揉まれることで、本質的な「強さ」を身につけることができる。そのための「実戦回路」として、日本企業が積極的に海外の中堅クラブを買収し、優秀な若手を送り出す仕組みを作るべきという提言もある。
イーロン・マスクやピーター・ティールのように、最高のチームとカルチャーを持つ「土台」でこそ天才は進化できる。個人の才能に頼るだけでなく、才能が開花するための「城」のような環境整備が重要である。この「土台」には、指導者の評価体系改革も含まれる。
目先の勝利だけでなく、世界で通用するストライカーを何人輩出したかという長期的視点で評価されることで、真のリスクテイカーが育つ可能性が高まるのだ。
また、帰国したベテラン選手や優秀な人材に対する優遇措置も欠かせない。例えば、本田圭佑選手のような海外で経験を積んだスター選手が監督ライセンス制度に阻まれる現状は、制度が人材育成の妨げになっていると捉えられる。特例を認め、「特別な経験」を持つ人材を最大限に活かす柔軟な姿勢が必要だろう。
Q. 日本サッカーとビジネスの成長を促進するためにはどのような施策が考えられるだろうか?

具体的な施策として、真剣なリーグ戦を重視し、メディアの報道もトーナメント一辺倒からリーグ戦で挑戦した選手を称える方向にシフトする。指導者の評価は「勝ち負け」ではなく「ストライカー輩出数」を基準とする。そして、有望な若手選手を早い段階で海外に送り出し、その移籍に伴う利益(セルオン条項など)が国内に還流する仕組みを欧州と共同で作り上げることが必要だ。日本の企業が海外の中堅クラブを買収し、日本人選手育成の「ゲートウェイ」を自ら作り出すことも有効である。
さらに、引退後のセカンドキャリア支援はアスリートだけでなく、企業における優秀な離職者にも通じる。サッカー選手の短いキャリアを終えた後のビジネススキル習得をサポートし、再チャレンジを後押しする社会システムの構築が重要だ。
シンガポール政府が、奨学金で学んだ起業家に対し、投資に形を変えて支援した事例のように、退職者を「許さない」閉鎖的な村社会の価値観を脱し、辞めた人との「回収型ネットワーク」を築く発想が、日本全体の競争力強化につながる。
また、スポーツベッティングの導入は、リーグの収益化に大きく貢献し、強化資金やセカンドキャリア支援に充てられる可能性がある。世界中で巨大な市場を持つスポーツベッティングをうまく活用すれば、日本のスポーツ界全体の経済基盤を強化し、間接的に国力向上にも繋がるだろう。
サッカーを国力の象徴と捉え、その強さの背景にある構造的課題を改善することが、日本のビジネスや社会変革の大きな一歩となるのだ。