PIVOT TALK BUSINESS
渋沢栄一に学ぶ、倫理の軸の育て方。何のために生きるのか?
(671)
1.3万回視聴
2026年7月14日

乱世のど真ん中にあった明治時代の実業家から、現代のビジネスパーソンが学べる教訓とは何か?『明治実業家の知識・見識・胆識』の著者である作家の守屋淳氏に聞いた。 <ゲスト> 守屋 淳|作家 1965年東京生まれ、早稲田大学第一文学部卒業。中国古典の戦術戦略をビジネスの現場に活かすべく、講演活動を行う新...
明治の偉人に学ぶ!激動の時代を生き抜く「三識」の教え
現代はまさに激動の時代であり、私たちはかつての明治時代と似た転換期に立たされている。そんな中で、自身の羅針盤となる「倫理の軸」をいかに確立し、しなやかなビジネスパーソンとして生き抜くかは重要な課題である。本稿では、渋沢栄一や岩崎弥太郎といった明治の偉人たちが、困難な時代を乗り越えるために何を思考し、いかに行動したのかを紐解く。彼らの持つ「知識」「見識」「胆識」という三つの要素を深掘りし、現代に通用する教訓を探求しよう。
偉人たちの生きた証から、激変する社会を自律的に生きるための普遍的な知恵と行動原理を抽出する。ビジネスパーソンにとって必須の自己変革へのヒントがここに提示されるだろう。
Q. 「倫理の軸」とは何か、現代の私たちはどのようにこれを育成すべきか?
個人の倫理の軸とは、「何のために生き、何を優先して判断を行うか」を定める自身の指針を指す。これは中国古典の思想、「修身斉家治国平天下」が示す通り、段階的に育てていくものと捉えるべきである。まずは自分を律し(修身)、次に家族を整え(斉家)、地域や組織に貢献し(治国)、最終的には天下や世界全体へと影響を広げる(平天下)。
このアプローチは、いきなり大きな理想を掲げる西洋的思想とは異なり、身近な行動から始めることを推奨する。その点で、日本人の情緒にも合い、無理なく実践しやすい考え方と言える。現に渋沢栄一も実業界で貢献し、引退後は日中・日米関係の改善に尽力した。このステップは、SNSで地方の成功事例が容易に世界へ展開できる現代において、一層実現しやすい道である。大手企業が幹部研修で中国古典を導入するのも、こうした実践的な判断軸と胆力を養うためだ。
Q. 歴史的な成功者の健康習慣に学ぶべき点は何か?
明治の実業家たちの健康法、特に睡眠習慣は驚くほど多様である。浅野総一郎は「4時間以上寝るとバカになる」と言い放ち、82歳まで2、3時間睡眠で活動を続けた猛者だ。一方で、大倉喜八郎は毎日7時間、安田善次郎は8時間睡眠を確保していたという。



この事例は、一律の成功法則は存在せず、自身の体質や最適なルーティンを見極めることの重要性を示唆する。全員がショートスリーパーを真似る必要はない。むしろ、自分にとっての最適な睡眠時間や休息方法を把握し、実践することこそが、長期的にパフォーマンスを維持する秘訣と言える。また、彼らの多くが好んだ「朝風呂」は、現代のサウナのように心身をリフレッシュし、激務に備えるための効果的な習慣だった可能性もある。
Q. 現代の財閥企業における創業者の思想は今も息づいているのか?また、その役割とは?
三菱、三井、住友といった現代の財閥企業において、創業者の思想は研修などで語り継がれてはいる。例えば住友グループでは、中興の祖とされる伊庭貞剛の教えを学ぶために、別子銅山跡を訪れることもある。しかし、残念ながらその思想が現代のビジネスや企業文化にまで深く根付いているかといえば、疑問が残る状況だ。

高潔な人格者による創業者の思想も、数代のうちに風化し、バブル期には「向こう傷を恐れるな」といった刹那的な判断に流されるケースも少なくなかった。しかし、その創業の理念は完全に消え去るわけではない。むしろ、企業が経営危機に陥ったり、事業が斜陽化したりした際に、組織を立て直すための強力な「原点回帰」の指針として機能することが多い。ピンチの時にこそ、その思想が本来の力を発揮し、変革への説得力ある大義名分となるだろう。
Q. 福沢諭吉は日本の実業界にどのような影響を与えたか?彼の功績は現代の誰に比肩し得るか?
福沢諭吉は日本の近代化を説き、実業の本質を国民に教え、次世代のビジネスリーダーを多数育成した点で、まさしく実業界の大恩人と言える。彼の功績は、現代において社会生態学者として社会の変容とマネジメントの法則を解き明かしたピーター・ドラッカーに匹敵する。

慶應義塾や一橋大学が多くの実業家を輩出したのは偶然ではない。当時の東京帝国大学は、欧米の学問や法律の輸入に注力し、「金儲けは卑しい」という価値観から商業教育を軽視した。そのため、簿記や会計といった実学を教える民間の教育機関として、慶應や一橋が財閥の優秀な人材供給源となったのだ。福沢諭吉は、いち早く実学の重要性を見抜き、実践的なビジネス教育を通じて日本の近代化を強力に牽引した先見の明を持つ人物であった。
Q. もし渋沢栄一や岩崎弥太郎が現代にいたら、彼らは何をするだろうか?
近代日本の社会インフラを築いた渋沢栄一が現代に生きていたならば、彼は間違いなくITインフラやデジタルの基盤構築に注力しただろう。そして、単に技術を作るだけでなく、日本の独自のコンテンツ(例えばアニメやゲーム)を世界に流通させ、効率的にマネタイズできるグローバルな「集金システム」を、孫 正義氏のようなスケールで実現しようと試みたに違いない。
一方、現実主義者で突破力に富んだ岩崎弥太郎は、今の「日本のレアアース」、すなわち部材や半導体材料など、日本が圧倒的な強みを持つキーテクノロジーを正確に見極めるだろう。そして、持ち前の統率力と営業力で海外市場へ打って出て、世界を席巻する巨大企業を築いたはずだ。また、岩崎は「高学歴者は商売に向かない」という当時の常識を打ち破り、東大出身者などエリートを高給で雇い成果を出させたことで、ビジネスにおける採用の常識をも塗り替えた先駆者である。現代でも彼ならば、最高峰の人材をかき集め、革新的な事業を世界で展開したことだろう。
Q. 現代の起業家が持つべき「知識」「見識」「胆識」とは具体的に何か?
現代の起業家が持つべき「三識」は、競争の激しい時代を生き抜く上で不可欠な要素である。
第一に、「知識」である。AIによって誰もが簡単に情報にアクセスできる時代だからこそ、「人と違う独創的なインプット」が重要となる。デジタル化されていない古い雑誌のバックナンバーを読み込んだり、専門書を深く読み解いたりするなど、泥臭く非効率に思える方法が、差別化されたアウトプットの源泉となるのだ。
第二に、「見識」である。これは、優しさ厳しさ、前進と撤退といった相反する対極的な視点を自分の中で高次元に両立させ、大局的に物事を見極める能力を指す。その局面で最も適切な「最善解」を導き出すバランス感覚とセンスこそが、真の見識と言えよう。
第三に、「胆識」である。知識と見識を実行に移すための決断力と実践力であり、これは自らの人生を賭けて成し遂げたい「志」と、事業そのものに対する「心からの楽しさ」から湧き出てくる。苦労さえも楽しさの一部と感じられる情熱が、困難を乗り越える最大の推進力となる。この三識を磨き、高い志を持って社会貢献に挑む姿勢が、現代において真に尊敬される起業家像へとつながる道だろう。
Q. なぜ日本社会で起業家は十分に尊敬されていないのか?また、今後の社会情勢はどう変化する見込みか?
日本社会において起業家が十分に尊敬されているとは言えない現状がある。これは、起業が一部の人々の選択肢であり、社会全体にとって身近なものではなかった点に起因する。親が子どもにベンチャー企業への就職より大企業を選ぶことを推奨する傾向が依然として根強く残るためだ。しかし、この風潮は大きく変化せざるを得ないだろう。
大企業による終身雇用の維持が困難になった現代において、個人は自身のキャリアを自律的に築く必要性が高まっている。一時的なフリーランス増加と課題はあるものの、「乱世」においては起業や自立を選ぶ人が必然的に増えるだろう。アメリカでは大企業に属さずに働く若者の比率がすでに非常に高い。この流れは遅れて日本にも確実に到来すると見られる。そうなれば、社会にとって起業はより身近なものとなり、尊敬されるべき志高き起業家像が社会の中で一般的になる可能性を秘めている。
こうした自立と変化の時代において、先に述べた三識、特に「倫理の軸」を中国古典に学ぶことの重要性が再認識されるだろう。迷い多き時代だからこそ、古からの知恵が道しるべとなる。森屋氏の著作「論語と算盤」や「最高の戦略教科書孫子」は、その第一歩として読むべき名著である。