PIVOT TALK BUSINESS
ウクライナ最強の軍事ドローン企業が来日
(327)
4,183回視聴
2026年7月1日

ウクライナ最大級ドローン企業の創業者グリシン氏が解説。戦場で実証された超高速開発の裏側や、中国部品への依存がもたらす安全保障上の致命的リスク、防衛省も調達を発表した「迎撃ドローン」を巡る日本企業との協業の行方を徹底解説。 スタニスラウ・グリシン|ゼネラル・チェリー 共同創業者 ザポリージャ生まれ。...
最前線が育むイノベーション:ウクライナのドローン企業が日本にもたらすもの
2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻は、多くの人々の人生を一変させた。ウクライナ大手ドローン企業「General Cherry」共同創業者スタニスラウ・グリシン氏もその一人である。もとは法律家であった彼が、戦禍の中でドローン製造の世界に飛び込み、瞬く間に国内最大級の企業へと成長させたその原動力とは何であろうか。今回は、最前線で培われた彼らの知見と技術が、国際社会、特に日本の防衛にどう貢献しうるのかをQ&A形式で掘り下げる。
戦争という過酷な状況下で研ぎ澄まされたテクノロジー、独自の開発エコシステム、そして日本企業とのパートナーシップの可能性について、スタニスラウ・グリシン氏が語った言葉を紹介する。

Q. 弁護士という経歴から、どのようにして防衛産業のドローンメーカー設立へと転身したのか
2022年2月の全面侵攻が、まさに人生の転機であった。故郷ザポリージャの占領をリアルタイムで目の当たりにし、「自分に何ができるのか」を自問せざるを得なかったのだ。この個人的な経験が、軍務への参加、そして最終的にはドローン企業の設立へと彼を駆り立てた。
軍に所属していた2年間、グリシン氏は前線の多様な部隊と緊密に連携した。そこで、彼らが直面していた弾薬、ペイロード、様々なタイプのドローンに対する莫大な需要を肌で感じたのだ。当初、彼は慈善活動としてそれらの供給を開始したが、活動を継続していくうちに、従業員の給与、部品調達、研究開発といったコストに直面する。この現実から、チャリティとしてではなく、ビジネスとして会社を設立する必要性を痛感した。2023年に会社を設立して以来、General Cherryは驚異的なスピードで成長し、今やウクライナで有数の大手防衛メーカーへと変貌したのだ。
この経験から彼らが導き出した使命は、単にドローンを製造するだけに留まらない。ウクライナ国民が多大な犠牲を払って得た教訓と技術を世界に共有し、グローバルな防衛システムに貢献することこそが彼らの果たすべき役割だと捉えている。ローカルな存在に留まることは、彼らが払った「高すぎる代償」を無駄にする行為であると考えているのである。
Q. ウクライナのドローン企業が、これほどの急速な成長を遂げられた要因には何があるか
彼らの急速な成長の最大の要因は「危機的必然性」である。通常であれば数年を要するような兵器開発のサイクルが、戦場という最前線に近接していることで、数日、時には数時間という驚異的な短期間でフィードバックループが完成する。試作品は直接パイロットによって実戦でテストされ、その場で生のフィードバックが得られるため、設計から生産、改良までを超高速で回せるのだ。戦争のサイクルが速く、誤りが人命に直結するため、不必要な官僚的手続きは徹底的に排除されているという。
状況が悪化するほど、より良い結果を出すという逆説的な推進力。
ワークライフバランスという概念を超えた、プロセスへの高いコミットメント。
前線のパイロットと直結したリアルタイムのフィードバックメカニズム。
実戦経験を持つ退役軍人という「ストリートワイズ」な人的資本。
危機的状況により柔軟になった政府の調達プロセス。
欧米諸国を中心に活発化する投資意欲。

加えて、ウクライナには実戦経験豊富な退役軍人という貴重な「人的資本」が存在する。彼らは率直なコミュニケーションを好み、現場で本当に役立つ知見、いわば「ストリートワイズ」を持っている。彼らの知識が製品開発に生かされている。また、政府もこの危機感から非常に柔軟な対応を示し、スタートアップ企業が成長しやすい環境を整備している。軍部隊と直接契約を結べる制度など、他国では類を見ない成功例を確立しているのだ。
さらに、ウクライナの防衛産業は海外からの投資先としても魅力的である。アメリカやイギリスで行われたロードショーには数百もの投資グループが集まり、高い関心を示したという。この複合的な要因が、ウクライナの防衛エコシステムの独自性と、同社の急成長を支える基盤となっているのである。
Q. 現在開発・提供しているドローン製品の具体的な特徴や、それが戦況にどのような影響を与えているか
同社のコアビジネスは、FPV(一人称視点)ドローンである。これは非常にベーシックなタイプであり、比較的低コストで操作も容易であるが、戦場で絶大な効果を発揮する兵器である。現在、ウクライナにおける全ての攻撃の最大80%がドローンによって行われ、そのほとんどをFPVが占めているという。これは兵士の命を守り、歩兵の不足を補う上で不可欠な存在である。侵攻が激しさを増す現代戦において、FPVドローンは最前線のゲームチェンジャーなのだ。

さらに同社は、世界で初めて光ファイバー誘導ドローンを開発し、ロシア軍のヘリコプター撃墜という歴史的な成果を上げた。これは、比較的安価なドローンが、最新鋭の兵器にも対抗しうる潜在能力を持っていることを明確に示した一例である。
攻撃側だけでなく、防御側のドローンも重要である。敵もドローンを多用するため、自国を守るための迎撃システム(インターセプター、またはC-UAS)の開発が急務となっている。特にイラン製「シャヘド」のような特攻型ドローンは、病院、学校、一般家屋といった民間施設を標的にし、国民生活に甚大な被害をもたらすため、その脅威は深刻である。
同社はシャヘド対策として迎撃ドローンを開発し、既に実戦投入し、成功例も上げているという。この迎撃技術は、絶え間なく変化する敵のドローン技術に対応するため、常に設計や構成部品が変更され、新しいアイデアやソリューションがテストされている。これは技術的な最前線の一つであり、ウクライナの経験から生まれたこの迎撃ソリューションは、中東の湾岸諸国をはじめとする世界が今まさに求めている技術となっている。
Q. 今回の日本訪問の目的と、日本の防衛市場に対する認識はどのようなものか
グリツェンコ氏は、日本訪問の主目的は、ウクライナが戦争で払った高い代償から得られた「忘れられてはならない教訓」と実戦経験を日本と共有することであると述べた。日本はウクライナに対し強力な支援を示しており、今回の「Japan Drone 2026」への出展では、日本の政治家や経済界関係者から非常に高い関心が寄せられたという。彼らはドローンの脅威が「対岸の火事」ではなく、少数のテロリストですら活用できる現実的なものであると認識しており、C-UASソリューションの重要性を深く理解している。
同社は、日本市場を全て独占しようと考えているわけではない。むしろ、彼らの実戦経験と専門知識が、日本の防衛強化に役立つ分野で貢献したいと考えているのだ。これは単なる製品の輸出にとどまらず、日本企業とのパートナーシップ構築、兵士への訓練プログラム提供を含む「総合的ソリューション」の提供を目指すwin-win戦略である。来日中の6月6日、日本の防衛省が迎撃ドローンの調達方針を発表したことは、彼らの専門性と完全に合致しており、具体的な協業に向けた大きな契機になると期待しているのである。

Q. グローバルなサプライチェーンにおける部品調達の課題と、日本企業との連携に何を期待するか
ドローンの部品戦略は、国家の防衛と主権の根幹をなす要素である。現代のグローバルなドローン産業は、特定の国、特に中国製部品に大きく依存しているが、これは安全保障上の致命的な脆弱性となりうる。この状況を認識し、サプライチェーンの多様化と独自開発は不可避であると考えている。
同社のような先進的なドローンメーカーが今後も成長していくためには、自社で部品を内製するか、あるいは信頼できるエコシステム内のパートナーから部品を調達することが必須条件となる。これは単に経済的な独立性だけでなく、より広義の防衛問題と密接に結びついている。
すでに欧州企業との協業も進めており、部品の生産拡大について交渉中だという。日本訪問を通じて、部品分野での協業可能性を探る中で、多くの素晴らしい日本企業に出会えたことを明かした(ただしNDAにより企業名の言及は控えている)。同社は日本企業との連携を通じ、同盟国全体で強固なサプライチェーンを構築し、来るべき未来の防衛を共に強化することに強い期待を寄せているのである。