
機関投資家が見る“指数の中身”とは?
「敵」を知り「市場の現実」を見る!MSCIが語るインデックス投資の本質
近年、NISA制度の普及を背景にインデックス投資への関心が高まっている。多くの個人投資家が手軽に始められるとして、広く分散投資を実践している。しかし、その裏側にあるインデックス(指数)の構造や設計思想について、どれほどの投資家が理解しているだろうか。
プロの機関投資家は、単にインデックスに連動する商品を選ぶのではなく、その指数の構成銘柄、算定方法、特性といった詳細な中身まで見極める。

今回は、全世界株式指数「オルカン」を筆頭に世界の主要な指数を提供するMSCI東京オフィスのエグゼクティブディレクター、小坂稔氏を迎え、指数の本質に迫る。元アクティブ運用者として「ベンチマークは敵」と語る小坂実氏の視点から、投資家が知っておくべきインデックス投資の奥深さを解き明かす。
Q. MSCIはどのような企業で、投資家にとってどのような役割を持つのか?
MSCIは個人投資家にもなじみ深い「オルカン」などの世界的な指数を提供している企業だ。
同社は指数だけでなく、リスク管理ツールやESG(環境・社会・ガバナンス)格付け、気候変動関連データなども提供し、投資家に「物差し」を提供することで、より良い投資判断をサポートすることをミッションとしている。
約21兆ドルもの資金がMSCIの指数にベンチマークされていることからも、機関投資家の意思決定において同社が極めて重要な存在であることが分かる。
Q. インデックス投資(パッシブ運用)とアクティブ運用は、どのような関係にあるのか?
インデックス投資は、特定の指数に連動するように機械的に運用する「パッシブ運用」の代表例だ。一方で「アクティブ運用」は、運用者が個別銘柄を調査・分析し、自身の判断で投資を行い、市場平均を上回るリターンを目指す。
アクティブ運用者にとって指数は、自身のパフォーマンスを測る「評価基準」であると同時に、打ち負かすべき「敵」でもあるため、その中身を徹底的に研究する必要があるという。
興味深いことに、もし市場が完全に効率的であれば、誰も企業のリサーチをしなくなり、その瞬間に市場は非効率になってしまう。つまり、アクティブ運用者が活発に市場を分析するからこそ、市場の価格形成が効率的に機能し、パッシブ運用はその恩恵を受ける。
両者は対立関係ではなく、「共存関係」にあるのだ。
Q. インデックス(指数)は具体的にどのように作成されるのか?
MSCIの指数は、3つの重要な哲学に基づき作成されている。

代表性:投資したい分野が十分にカバーされているか
投資可能性:実際に投資家が売買可能な銘柄で構成されているか
透明性:指数の算出ルールがすべて公開されているか
特に「投資可能性」では、市場に出回る全株式ではなく、政府保有株や創業者保有株のように市場で流通しない「浮動株」を調整し、実際に売買可能な株式を対象に指数を構成している。
この浮動株調整はグローバルな視点で行われるため、日本のTOPIXのように国内投資家目線で構成される指数とは、構成銘柄のウェイトが異なる場合がある。
また、指数構成の基本原則として最も広く使われているのが「時価総額加重」方式だ。これは、企業の時価総額(株価×発行済み株式数)が大きいほど、指数に占めるウェイトが大きくなるというもので、市場の評価を忠実に反映した仕組みである。
Q. 指数の構成要素やウェイトはどのように変化していくのか?
インデックスファンドを保有している投資家が「ほったらかし」でいても、その指数の中身は常に変化している。

MSCIの指数は年4回見直しが行われ、最低時価総額基準に達した銘柄は組み入れられ、満たない銘柄は削除される。時価総額の変化に伴い、各国の株式やセクターのウェイトも変動するのだ。
例えば、かつて1980年代には先進国の世界株指数において日本株が米国株よりも高いウェイトを占めていたが、現在は大幅に減少している。また、2007年末には金融セクターのウェイトが高かったものの、現在ではITセクターが圧倒的な存在感を放っている。
一部のIT巨大企業に指数が集中することに対し、批判的な意見もあるが、これはその企業が実際に莫大な利益を生み出している「市場の現実」を指数が反映した結果である。
時価総額加重指数は、特定の意思によって意図的に銘柄を選ぶのではなく、市場の評価をそのまま受け入れる「鏡」のようなものだと言える。
Q. 時価総額加重以外の指数にはどのような種類があるのか?
時価総額加重は広く普及しているが、投資家のニーズに合わせて特定の企業特性(ファクター)に着目した指数も存在する。これらは「ファクター指数」と呼ばれ、パッシブ運用の効率性とアクティブ運用の特定特性への投資を組み合わせたものだ。

バリュー(割安性):株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)などから割安な銘柄を選ぶ
グロース(成長性):収益や株価の成長率が高い銘柄に投資する
モメンタム(勢い):過去の株価が上昇基調にある銘柄を選ぶ
クオリティ(財務健全性):ROEが高く、財務が安定している優良企業に投資する
低ボラティリティ(低変動性):株価変動リスクの低い銘柄を組み合わせる
採用するファクターによって、上位銘柄やポートフォリオ構成は大きく異なる。例えば、時価総額加重指数ではNVIDIAが上位に来る一方で、バリュー指数ではAlphabet、クオリティ指数ではMicrosoftがトップになることもある。それぞれの特性に応じて、構成される業種や企業は全く異なってくるのだ。
過去10年間(2016年6月〜2026年5月)のリターンを見ると、市場平均を上回ったのは「モメンタム」がトップであり、次いで「クオリティ」「グロース」が続いた。
一方で「バリュー」や「最小分散(低ボラティリティ)」は市場平均を下回る結果となった。これはあくまで過去の結果であり、将来のパフォーマンスを保証するものではないが、特定のファクターが市場の局面によって異なる成果を上げることがわかるだろう。
Q. 投資家はこれらの知識をどのように投資判断に活かすべきか?
インデックス投資は「実行」自体はパッシブ(受動的)だが、
どのインデックスファンドを選ぶかという「選択」は、投資家自身の明確な意思が反映された極めて「アクティブ(能動的)」な決断である。
NISAなどでインデックス投資を始めた多くの個人投資家にとって、自分が投資している指数の「中身」や「設計思想」に関心を持つことは、投資の次のステップに進むための重要な鍵となるだろう。
多様な指数とその特性を理解することで、単に市場平均に追随するだけでなく、自身の投資哲学や目標に合ったアプローチを選択できるようになる。これにより、より深く市場と向き合い、賢明な投資判断を下す力が養われるはずだ。