政策超分析
中国”海の無人機”の脅威/中国原潜の実力/武器輸出で作る対中国包囲網
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2026年6月21日

専門家が国際情勢を徹底解説する「政策超分析」。今回のテーマは「海上自衛隊」。後編では、中国軍の潜水艦と”海の無人機”について解説する。 <出演者> 峯村健司|キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員 元朝日新聞編集委員 中国に関する報道により2010年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞 伊藤俊幸|...
中国”海の無人機”の脅威/中国原潜の実力/武器輸出で作る対中国包囲網
世界の安全保障環境は、中国の急速な軍拡と海洋進出、そして「無人機」という新たな兵器の登場により激変している。かつて「平和な海」とされた太平洋ですら、もはや脅威にさらされる時代となった。このような未曽有の状況に対し、日本は旧態依然とした防衛観念から脱却し、根本的な戦略転換を図る必要がある。
本稿では、中国が展開する潜水艦戦力の増強と太平洋進出の狙い、さらに台湾の苦境や日本の防衛装備移転が持つ戦略的意義、そして「ゲームチェンジャー」として浮上した無人機の脅威と日本の課題について、Q&A形式で深く掘り下げて解説する。


Q. 中国の潜水艦能力はどれほど増強されるのか?
中国の潜水艦戦力は急速に拡大している。米ペンタゴンが発表した報告書によれば、中国は2030年までに潜水艦を約80隻規模にまで増強すると予測されている。これは米国の現在の保有数(約65隻)を上回る数字である。習近平政権は特に海軍力の強化に力を入れており、空母の建造と並行して潜水艦戦力、中でも原子力潜水艦(SSNおよびSSBN)の整備を急ピッチで進めているのだ。かつて「雑音発生器」と揶揄された中国潜水艦の静粛性も着実に向上し、米軍にキャッチアップしようと開発が進むため、決して軽視できるものではない。
Q. なぜ中国は南シナ海を「聖域」としようとしているのか?
中国は南シナ海を、米国などから手出しのできない「聖域(サンクチュアリ)」と化し、戦略的核抑止力の拠点を築こうとしている。その中核が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦(SSBN)だ。SSBNは、核攻撃を受けた際の報復攻撃(第二撃)能力を確保する上で不可欠な存在である。かつては南シナ海から米国本土を直接攻撃できる射程のミサイルはなかったが、近年約1万キロメートルの射程を持つSLBMが実用化され、南シナ海からでも米国を狙うことが可能となった。中国沿岸部の海は浅く潜水艦の運用には不向きだが、水深の深い南シナ海であれば隠蔽が可能である。そのため、中国は海南島に大規模な潜水艦基地を建設し、さらに多数の人工島を築くことで、南シナ海全体をSSBNの自由な活動領域としようと目論む。ロシアがオホーツク海をSSBNの隠し場所としているのと同様の戦略である。
このような中国の太平洋への野望に対し、日本列島は天然の防波堤として立ちはだかる。特に宮古海峡をはじめとする南西諸島は、中国艦隊が太平洋へ進出するための要衝「チョークポイント」であり、この海域を封鎖し、中国の海洋進出を拒否する能力を持つことが、日本の国防にとって極めて重要な役割となる。
Q. 日本の防衛、特に太平洋側にはどのような新たな脅威があるのか?
2023年5月、中国空母2隻が初めて日本の真南の太平洋に現れ、そこから艦載機を発艦させた事態は、日本の防衛における喫緊の課題を浮き彫りにした。これは日本の主要都市が集中する太平洋側、いわば「日本の柔らかい腹」に直接的な脅威が突きつけられたに等しい。当時、首都圏への空襲も可能な距離であったことを考慮すれば、これは決して大げさな話ではない。かつて安全とされてきた日本の太平洋側の安全神話は崩壊したのだ。

この問題の根源は、中国空母の活動海域が日本の防空識別圏(ADIZ)の外側であったことにある。海上自衛隊の艦艇は追尾したが、航空自衛隊はスクランブル発進を行わなかった。これは、防空識別圏の外側では法的に対応義務がないためである。中国はこの日本の「防衛の穴」を熟知しており、意図的に突いてきている。仮にADIZを拡大しても、広大な太平洋の監視には膨大な燃料と人的リソースが必要となり、現在の体制では継続的な対応は極めて困難だ。今後は中国空母が日本の南の太平洋に常時展開する「ニューノーマル」となる可能性が高く、従来の防衛戦略では対処できない局面を迎えている。このような広範囲の防衛には、燃料補給の制約がない原子力潜水艦のような装備が不可欠となる。日本の防衛構想は、もはや日本列島周辺のみを対象とする旧来の発想から脱却し、広大な海洋での継続的な作戦行動が可能な体制へと、根本的に考え方を改めなければならない。
Q. 台湾の国産潜水艦建造はどのような背景と意味を持つのか?
2023年9月、台湾は初の国産潜水艦を進水させた。この動きの背景には、約26年前の米国からの潜水艦供与の約束が、様々な政治的理由から実現しないという長年の経緯がある。中国の軍事的圧力が日増しに高まる中、米国頼みでは防衛力を確保できないと判断した台湾が、最終的に「自前で国を守る」道を選んだのだ。まさに、中国の脅威に追い詰められた台湾の苦境を象徴する出来事である。
この国産潜水艦はまだ初期段階であり、魚雷発射試験が最近行われたばかりだ。「赤ちゃんの第一歩」とも評されるその道のりは、スパイ事件なども絡み、前途多難であることは間違いない。しかし、このような状況下でも、台湾や東南アジア諸国は、世界最高レベルの静粛性を誇る日本の通常動力型潜水艦を熱望している。これは、自国の沿岸防衛という用途においては、日本の潜水艦が性能面で非常に優位性があるためである。
Q. 日本の防衛装備移転はどのような意義とメリットをもたらすのか?
2024年4月、防衛装備移転三原則の運用指針が改定され、日本の防衛装備品の輸出が大幅に拡大された。この動きに対して「日本が武器商人に成り下がる」という批判もあるが、その本質は異なる。これは、中国の脅威に直面する東南アジア諸国などからの「日本の高性能な装備が欲しい」という切実なニーズに応える戦略的な取り組みだ。日本が装備品を供給しない場合、友好国は中国製の兵器に頼らざるを得なくなり、結果的に中国の影響力が拡大するだけである。
実際、約20年前から日本の潜水艦を求めていたタイは、日本が輸出に消極的だったため、中国製装備の導入が進んでしまった経緯がある。装備品の売買関係は、時には同盟関係よりも強い国家間の「絆」を生む外交ツールとなる。例えばインドがロシア製兵器に依存する結果、西側諸国と協調しつつもロシアへの強い批判を控える状況が好例である。
日本は、この装備移転を「ミドルパワー戦略」の中核と捉えている。オーストラリアやフィリピン、インドネシアといった友好国と共通の装備品(プラットフォーム)を持つネットワークを構築することで、有事の際の相互支援や補給、修理などが円滑になる。この共通基盤は、中国に対する明確な包囲網として前面に出すのではなく、「各国の自立と相互運用性の向上のための装備品ネットワーク」として提示することで、東南アジア諸国の幅広い協力を得られる。これは、安倍元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想が、初期の海上保安庁による協力から、現在の軍事支援へと着実に進化し、地域の安全保障を日本のリーダーシップで支える新たな防衛外交の形と言えるだろう。海自の護衛艦「くまの」が長期にわたって海外に展開し、各地で寄港する防衛外交は、友好関係を深めるだけでなく、日本の装備品の性能をアピールする「ショーケース」としての役割も果たし、輸出促進にも繋がっているのだ。
Q. ウクライナ戦争が示唆する「無人機」の脅威と日本の現状はどうか?
現代戦において、「無人機」は間違いなくゲームチェンジャーとして浮上した。海軍を持たないウクライナが、安価な無人機や無人艇を駆使してロシアの黒海艦隊をほぼ壊滅させた事実は、世界中の軍事専門家を驚愕させた。これにより、従来の戦い方の常識は根本から覆され、各国はこぞって無人兵器の開発に注力している。

中国はこの分野で他国を凌駕するスピードで開発を進める。軍事パレードで無人水上艇を公開したほか、多数の無人艇を搭載・発進させる「無人母艦」の開発にも着手している。これは民間でのドローン利用で培った技術を軍事に応用する「軍民融合」政策の成果であり、日本とは開発スピードも規模も桁違いである。
無人兵器の最大の脅威は、攻撃側に人的被害が生じないため、国家が戦争を開始する際の政治的・心理的ハードルを著しく低下させる点だ。また、発信源を特定しづらい無人機は、国籍不明の「偽旗作戦」を容易にし、宣戦布告なき奇襲攻撃のリスクを高める。仮に尖閣諸島へ無人機が領空侵犯してきた際、日本が有人戦闘機でスクランブル発進したのでは、コスト面で割に合わないばかりか、人命を危険に晒すことになる。日本は「平和利用」原則や「専守防衛」の解釈に縛られ、宇宙開発、サイバー、そしてドローンといった軍民両用技術の軍事転用において他国に大きく立ち遅れてきた。この「ナイーブすぎた」姿勢が、無人機分野での深刻な後れを生み出した根本的な原因である。敵が国家を挙げて「軍民融合」で戦力増強を進める中、日本も産業構造と意識を根本から変革し、危機感を持って取り組まなければ、取り返しのつかない状況に陥る「ラストチャンス」を迎えていると言えよう。