PIVOT TALK FOOTBALL
【W杯強豪国分析】スペイン。黄金時代の到来か
(730)
8,134回視聴
2026年6月11日

W杯の優勝候補である強豪国8カ国(フランス、スペイン、イングランド、ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、ポルトガル、オランダ)。その戦術、特徴、フォーメーション、優勝の可能性を分析する。 <ゲスト> 小澤一郎|サッカージャーナリスト 1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て...
無敵艦隊復活か?スペイン代表が世界を制する「進化版パスサッカー」を徹底解説
欧州の舞台で新たな栄光を目指すスペイン代表は、フランスと並ぶ優勝候補の筆頭として注目を集める。かつて「無敵艦隊」と呼ばれた時代を知る者も、新時代の到来を予感させる今回のチームには特に期待を寄せているだろう。
近年のスペイン代表は、そのプレースタイルを大きく進化させ、単なるパスサッカーの範疇に留まらない攻守のバランスを手に入れた。今回は、この「進化版パスサッカー」を体現するスペイン代表の強さの根源と、隠された戦略に迫る。

Q. スペイン代表は優勝候補とされていますが、その理由は何だろうか?
現在のスペイン代表はフランスと並ぶ優勝候補の最右翼だ。その最大の理由は、異常なまでに選手層が厚い点に尽きる。トップレベルのAチームだけでなく、もう一つBチームを編成したとしても、両チームが決勝に進出する可能性さえ秘めるほどの充実度を誇る。

この圧倒的な選手層は、トーナメントを勝ち抜く上で非常に大きな武器となる。特に中盤はロドリ、スビメンディ、ペドリ、ファビアン・ルイスなど、世界トップクラスの選手が複数おり、誰が出てもポゼッション率で相手を上回る支配力を発揮するだろう。
Q. 4年前のチームと比較して、今回のスペイン代表の進化とは何だろうか?
4年前のスペイン代表と比較すると、攻守のバランスが劇的に改善された。特に、以前の弱点であった「攻め上がった際にカウンターで裏のスペースを使われる」リスクがほぼなくなったのだ。
守備をより重視し、バランスの取れたサッカーへと転換した結果、相手に隙を与えることなく、ゲームをコントロールできるようになっている。これは、チームがより成熟し、現実的な強さを手に入れたことを意味する。
Q. チームの鍵を握る重要な選手とそのコンディションはどうか?
優勝への鍵を握るのは、二人の天才的な若手、ヤマルとペドリだ。絶対的なエースであるヤマルは現在怪我からの回復途上にあるため、大会を通じてコンディションを上げ、フルパフォーマンスを発揮できるかが重要なポイントとなるだろう。

一方、繰り返される怪我に悩まされてきたペドリは、科学的なアプローチで肉体改造を敢行した。NASAの研究所に遺伝子検査を依頼し、食事や睡眠を含む徹底的な体質改善によって、怪我に強い選手へと生まれ変わったという。二人が万全の状態で大会を乗り切ることが、スペインにとって必須条件と言える。
さらに、中盤の要であるロドリの完全復活も不可欠だ。ワールドカップ予選ではスビメンディに譲る場面もあったが、シーズン終盤には本来のコンディションを取り戻し、代表戦でも圧倒的なゲームメイク能力とボール捌きを見せつけている。マンチェスター・シティのロドリとレアル・ソシエダのスビメンディという世界トップレベルのボランチが共存する選手層は、他国には見られない最大の強みの一つだ。
Q. 攻撃陣、特にストライカーの役割と決定力についてはどうだろうか?
長年の懸案事項とされてきた「ストライカー不在」の課題は、レアル・ソシエダ所属のミケル・オヤルサバルが「偽9番(ファルソ・ヌエベ)」として機能することで解消されている。彼はもともとトップ下タイプの選手でありながら、代表戦ではエース級の決定力を誇り、「決勝男」として大舞台での得点力に定評がある。

オヤルサバルは、ペドリからのスルーパスにワンタッチでコースを変える卓越した技術を持ち、パンチ力のあるミドルシュートも得意とするなど、多彩な得点パターンで相手を脅かす。
彼のバックアップにも抜かりはない。同じく偽9番タイプのフェラン・トーレスに加え、ボルハ・イグレシアスという高さと強さを持つ本格的な9番タイプの選手も控えているため、終盤のパワープレーなど、多様な戦術に対応できる布陣となっている。
Q. スペイン代表の独自の攻撃戦術と守備戦術の詳細を教えてください?
現在のスペイン代表は、ポゼッションをベースとしつつも、前回のルイス・エンリケ監督時代よりもカウンター対策を強化している。
カウンターを受けないビルドアップ術:両サイドバックはビルドアップ時に高い位置を取りすぎず、常に4バックを維持することで守備の安定を確保する。このため、ボールを奪われてもサイドバック裏のスペースを突かれるリスクが格段に減った。
中央からの崩しを起点に:センターバックのラポルトやクバルシは、相手のDFラインを越える正確な縦パスを「偽9番」のオヤルサバルへ送り込む。オヤルサバルがこのパスを前向きのペドリにワンタッチで落とすことで(レイオフ)、一気に攻撃のスイッチが入り、相手の守備ブロックを中央から突き崩す。これにより、通常のポゼッションサッカーで起こりがちな外循環ではなく、内側から攻撃を組み立てるため、相手はボールの奪いどころを絞りにくい。
エース・ヤマルを活かすサイド攻撃:中央で起点を作った後、右サイドのヤマルへ展開することで、彼は意図的に1対1の状況で仕掛けることができる。ヤマルの突破力は相手守備選手を2~3人引きつけるため、他のエリアにスペースが生まれ、チーム全体の攻撃チャンスを創出する。また、ヤマルが攻撃に専念できるよう、右サイドバックのマルコス・ジョレンテが豊富な運動量で広範囲をカバーし、守備負担を軽減している。
柔軟な左サイドの戦略:左サイドは、中に絞るバイナが起用された場合には、左サイドバックのククレジャがオーバーラップし攻撃に厚みを加える。もしニコ・ウィリアムスのようなサイドアタッカーが起用されれば、ククレジャは内に絞り、ビルドアップに加わるなど、状況に応じた多様なプレーを見せる。
秘密兵器ビクトル・ムニョス:終盤、相手が疲れて足が止まった時間帯に投入される「秘密兵器」が、ビクトル・ムニョスだ。彼の爆発的なスピードと切れ味鋭いカットインは、サイド攻撃の新たなオプションとなる。
Q. 盤石に見えるスペイン代表にも弱点はあるのだろうか?
完璧に見えるスペイン代表にもリスクがないわけではない。
センターバックのスピード不足:世界レベルのストライカーと比較すると、ラポルトとクバルシのセンターバックコンビはスピード面で若干劣る可能性がある。もし個の能力で中央を突破されるような事態になれば、致命的な結果を招くリスクを抱えている。
ヤマルの代役不在:チームは絶対的エースであるヤマルの個人技に大きく依存しており、彼が怪我やコンディション不良で欠場した場合、代役が不在な点が懸念される。攻撃の切り札を失うことは、チーム全体の得点力低下に直結するだろう。
GKを巡る論争:正GKのウナイ・シモンはリーダーシップと安定感で信頼を得ているが、今シーズン、リーガで最少失点ゴールキーパーとなったバルサのジュアン・ガルシアの台頭により、GKポジションはメディアで論争の的となっている。監督が最終的に誰を起用するか、そしてその決断が吉と出るか凶と出るか、注目される。
Q. 今大会での優勝の可能性、そして今後の展望は?
今回のスペイン代表を率いるデラフエンテ監督は、かつてスペインをワールドカップ優勝に導いたデル・ボスケ監督のマネジメント能力に、現代的な戦術家の一面をプラスした「デル・ボスケ監督の上位互換」と評されている。メディアと不必要に衝突せず、選手を縛りすぎない一方で、勝負師として的確な采配を振るう彼の存在は大きい。
主要選手が最高のコンディションを維持し、グループリーグを首位で突破することができれば、決勝進出の確率は60%、そして優勝確率は50%と非常に高く見積もられている。
チームの平均年齢は25.3歳と若く、ヤマルやクバルシのような10代の才能がすでに主力を担う。もし今大会で優勝を成し遂げれば、自国開催となる2030年のワールドカップに向けて、スペインサッカーは間違いなく新たな黄金時代に突入するだろう。