PIVOT TALK BUSINESS
AI時代の管理職:課長と1on1は不要になる
(1002)
1.6万回視聴
2026年6月4日

AI時代の組織はどう変わるのか?労働市場、商品市場、資本市場で起きる9つの変化と、AI時代の管理職をテーマに、リンクアンドモチベーションの白木俊行・執行役員に聞いた。 <ゲスト> 白木俊行|リンクアンドモチベーション 執行役員 早稲田大学理工学部卒業後、リンクアンドモチベーション入社。大手企業や成...
AIが課長の役割を消滅させる?激変する組織とマネジメントの未来

Q. AIの台頭で、中間管理職の役割はどのように変化するのか?
AIの進化により、従来のマネージャーが担っていた多くの業務が根本から見直されている。特に情報処理や定型的な進捗管理、さらには部下のメンタルケアといった機能までもがAIによって代替されつつある。かつて「罰ゲーム」と揶揄されたようなルーティンワークはほぼAIが担う。多忙なマネージャーにとって、これは業務負荷軽減の朗報である一方、自身の存在意義が問われる事態となるだろう。
例えば、以前は従業員のコンディション悪化を察知するために一律で1on1を実施する必要があった。しかしAIがデータを分析することで、懸念のあるメンバーをピンポイントで特定し、必要なケアを効率的に行えるようになる。これにより、画一的な1on1の実施は不要となり、マネージャーは本当に人間が関わるべき複雑な問題に集中できるようになるだろう。
Q. AI時代に「機能」ではなく「世界観」や「共感」が重要になるのはなぜか?
AIが機能的な差異を容易に模倣し、サービスの価格を溶かす時代が到来した。競争優位を築くためには、もはや機能だけでは不十分である。企業は独自のデータ基盤を構築し、「使えば使うほど離れられない」ビジネスモデルの形成が不可欠となる。
コマツは建設機械の稼働データをAIで解析し、故障前の予知保全を実現することで顧客の工事停止を防ぐ。これは顧客のビジネス価値に直結し、強固な顧客ロックインを築いている。Sansanも名刺データから契約・請求書データへと事業を広げ、独自のデータプラットフォームを構築。汎用AIではアクセス不可能な独自の価値を提供している。

また、企業の明確な理念や思想に基づく「模倣できない世界観」が重要になる。パタゴニアが「このジャケットを買わないで」と呼びかけたキャンペーンは、環境保護という世界観を強く打ち出し、顧客からの圧倒的な支持を獲得した。AIの進化が機能競争を加速させる中で、ブランドや世界観といった情緒的価値が競争戦略の中核を担うこととなる。マネタイズのあり方も、機能への課金から顧客の成果に応じた「成果報酬型」へとシフトすることが不可避である。
Q. AI時代における人材採用と育成の常識はどのように変わるのか?
人材採用は「多数」から「希少」へとその焦点が移るだろう。定型業務がAIに代替されるにつれて、IT職や事務職など特定の職種の新卒採用を見送る企業も出てくる(例:エネオス)。代わりに、伊藤忠商事のように事務職を「ビジネスエキスパート職」と再定義し、AIを管理・活用できる人材を求める動きもある。AIが活用できる希少なスキルを持つ人材への需要は高まる。
人材育成では、AIができるテクニカルスキルと、人間にしかできないヒューマンスキル(直感、共感、創造性など)を明確に区分し、後者の強化に注力することが不可欠となる(PwCの取り組み)。

評価軸も、「実績」よりも個人の「内発的動機」つまり「これをやりたい」という意欲に重きが置かれるようになる。星野リゾートでは入社2年目からでも立候補と選挙を経て支配人になれる制度がある。これはスキルや経験よりも、強い意欲を重視し、高いエンゲージメントを引き出す先進事例だ。
また、AIが中間管理職の業務を代替するため、キャリアパスに断絶が生じる可能性もある。従来の「メンバー→課長→部長」という階段の中段が抜け落ち、若手がいきなり幹部候補となるケースも出てくる。富士通やメルカリなどが幹部候補を社内公募する取り組みや、若手を経営会議にオブザーバー参加させる「越境的アサインメント」といった、新たな育成モデルの模索が進むだろう。
Q. AIは組織構造や人事評価、会議のあり方をどのように変えるのか?
AIは単なるツールではなく、組織構造の一部となるだろう。ゴールドマン・サックスがAIエージェントに社員番号を付与することを検討しているように、AIを人間と並列の「同僚」とみなす企業も出てくる。LayerX社は「AI費」を人件費予算に組み込み、「その仕事はAIで代替できないか」を問う仕組みを作っている。
人事評価においては、コミュニケーションログなど膨大なデータからAIが客観的かつ合理的な評価を下す時代が到来する。このため、人間のマネージャーの役割は、評価の背景を詳細に説明し、部下の成長を促すフィードバックの提供や、「誰にスポットライトを当てるか」「感謝を伝えるか」といった感情報酬の付与へとシフトするだろう。
会議のあり方も大きく変わる。Shopifyが非生産的な定例会議を大幅に削減した事例に見られるように、情報共有を目的とした会議はAIが代替し、その多くは不要となる。人間が集まる会議は、アイデア出しをする「思考発散型」と、最終的な責任を伴う「意思決定型」に特化されるべきである。
Q. AI時代のマネージャーに求められる「結節点」としての役割とは何か?
AIによる変革期において、最も重要なのが経営と現場をつなぐ「結節点」としてのマネージャーの役割だ。経営層が描く未来のビジョン(長期的・抽象的)と、現場が直面する日々の業務(短期的・具体的)の間には常に深い溝がある。この溝を埋め、経営の意図を現場の言葉に翻訳し、実践へと落とし込むことが結節点の核となる任務だ。

この結節点が機能不全に陥ると、経営が打ち出した100のビジョンも、現場にはほとんど伝わらず、実現度は1にまで減衰してしまう可能性がある。逆に、優秀な結節点は、そのビジョンを50の成果にまで高められるだろう。この差を「結節点格差」と呼び、企業間の競争力を左右する要因となる。
中途半端な「情報処理役」としての課長職はAIによって淘汰され、今後は「経営層的な視点を持つ部長クラス」と、「最前線で専門性を極めるプレイヤー」に役割が二極化すると考えられる。課長は消滅するという言説は、役割分担の再編を意味する。現場の専門家も経営層と同等に、その価値を尊重される時代になるだろう。
Q. AI時代の組織変革を成功させるために、企業はどこから着手すべきか?
AI時代の組織変革は、「Decide(方針決定)」「Link(経営と現場の接続)」「Deploy(施策展開)」の3つのステップで進めるべきである。しかし多くの企業は、Decide(方針決定)の段階から直接Deploy(施策展開)へと進みがちで、マネジメント層の役割変更や組織構造の見直し(Link)を怠ることが、変革失敗の大きな要因となる。
最も重要なのは、AI時代の変化を前提として、「事業戦略(Missions)」「モチベーション(Motivations)」「組織構造(Managements)」「人材(Memberings)」「管理体制(Monitorings)」という5つのMを連動させて再設計することである。一部のMだけに着手しても効果は限定的であり、全体として整合性の取れた変革が必要となる。
特に、AIが経営と現場の間に生じさせる「溝」がさらに深まることが予想されるため、このギャップを埋めるマネジメント層の機能強化が変革の鍵を握る。企業は自社の理念が社員全員に浸透しているか、管理職のスパンを増やすロードマップがあるかなど、チェックリストを用いて組織の現状を詳細に点検し、戦略的かつ着実に変革を進める必要があるだろう。