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中東紛争が日本株に与える影響【小林千紗】
(1994)
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2026年6月1日

中東紛争が続き、ナフサなど化学製品の原材料は依然として供給不足に陥っている。それなのになぜ日経平均は史上最高値を更新し続けているのか?UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗氏が中東紛争開始から現在までの市場の動きを徹底分析。地政学リスク時代の資産運用術を学びインフレ×AIで進む...
地政学リスク時代:二極化する市場で「勝ち組」を見抜く資産運用術
現在、中東紛争をはじめとする地政学リスクが世界の金融市場を大きく揺るがしている。激しい変動に「いつまでこの状況が続くのか」と投資家は不安を感じるものだろう。
だが、市場はただ混乱しているわけではない。不確実性の高まるこの時代をどのように見極め、資産運用に臨むべきか。
本記事では、この世界情勢における市場の動きを解き明かし、「二極化」する時代を生き抜くための実践的な視点を提供するとともに、将来の「勝ち組」を見つけ出すための知見を深める。

Q. 地政学リスクの時代において、世界の「二極化」はどのように進んでいるか?
地政学リスクが、すでに始まっていた世界の「二極化」の潮流を加速させている。この二極化の主な要因は、インフレとAIの二つだ。
インフレでは、原材料費などのコスト上昇分を最終製品価格に転嫁できる企業とできない企業とで収益力に大きな差が生じている。
価格転嫁力がなければ、コスト増が直接利益を圧迫し、企業の持続可能性に影響を及ぼすことになる。一方、AIにおいては、その導入と活用で先行する企業と、これに遅れを取る企業とで、競争力が大きく開く傾向にある。
また、AI開発に多額の投資ができる資金余力を持つ企業とそうでない企業の間でも、今後さらなる格差が広がる見通しだ。これらの変化が企業の明暗を分け、ひいては市場全体の「勝ち組」と「負け組」を分断する要因となる。
Q. 中東紛争が日本株に与える影響はどのようなものか?
中東紛争の勃発直後、ホルムズ海峡封鎖の懸念から原油価格が急騰し、日経平均株価は一時最大13%の下落を見せた。

この時期、日本株は原油価格と完全に逆相関の動きを示したことが注目される。しかし、その後停戦合意に向けた動きが報じられると、市場は「いずれ原油供給は再開される」との期待を織り込み始め、紛争が続いているにもかかわらず、日米ともに株価は紛争前の水準まで回復した。
市場の回復は、状況に対する投資家の見方が初期のパニックからより冷静な評価へと移行した結果だと言える。
不確実な状況下でも、市場は将来を予測し、現実に起こりうるシナリオに基づいて価値を再評価している状況である。
Q. 株式市場は「供給ショック」と「コスト上昇」のどちらのシナリオを織り込んでいるか?
紛争当初の3月、株式市場は原油供給が完全に途絶える「供給ショック」を最も懸念していた。
これは、コロナ禍における物不足のように、物が作れず企業の業績が劇的に悪化する最悪のシナリオである。
しかし、足元の市場の見方は大きく変化した。現在市場が織り込んでいるのは、「供給は途絶せず、一時的な遅延によって価格が上昇する」という「コスト上昇」のシナリオだ。
これは供給ショックに比べて影響がはるかに軽微とされている。昨年の関税問題の際も同様の現象が見られ、企業がコスト上昇分を価格に転嫁できた結果、業績の悪化が限定的だったことから、市場も今回、それに類するシナリオを描いているようだ。
Q. 企業業績を左右する「価格転嫁力」とは具体的に何か?
価格転嫁力とは、原材料費や物流コストなど、仕入れ側の費用が増加した場合に、その増加分を自社製品やサービスの販売価格に適切に反映させる企業の能力を指す。
この能力は、特にインフレや供給制約が懸念される現在の経済環境において、企業が安定した収益を確保し、成長を続ける上で極めて重要となる。
過去の事例から、この価格転嫁力を持つ企業は、困難な局面でも業績が大きく落ち込まず、株価も底堅く推移する傾向が見られた。
地政学リスクが高まり、コストが変動しやすい時代においては、価格転嫁力を有する企業を見極めることが投資戦略の重要な鍵となるだろう。
Q. 日本株はなぜ他国と比較して大きく下落したのか?その背景にある外国人投資家の動向とは?
中東紛争勃発時に日本株がS&P500などの主要市場と比較して大きく下落した理由は、紛争前の日本株が好調で、他市場よりも大幅に上昇していた点にある。

投資家が一度上げた利益を確定するため、危機発生時には売りに走りやすい傾向がある。特に、紛争前の2月には高市氏の政権への期待から、外国人投資家が日本株を約4.6兆円も買い越していた。
しかし、紛争が発生した3月には、そのうち約3.7兆円が売り越された。この外国人投資家による短期的な大量売買が、日本株の価格の大きな乱高下を招いた主因だと考えられる。
市場がショックを経験するたびに「学習」し、同じような事態が再び発生しても反応が鈍化する「学習効果」があるのも事実である。一度目のショックで大きく売られても、二度目以降はパニック売りの規模が縮小する傾向があるのだ。
Q. 紛争が長期化した場合、私たちの生活にどのような影響が考えられるか?
紛争が仮に数ヶ月で収束し、原油供給が再開される短期的なシナリオであれば、日本への影響は限定的と見られる。日本は世界第4位の250日分もの豊富な原油備蓄を保有しており、短期的な供給停止には十分耐えうるからだ。
また、日本の電力発電において原油への依存度は5%未満と極めて低い。主要な電源はLNG(カナダ・オーストラリアからの輸入)や石炭であるため、中東からの原油供給が途絶えても、大規模な計画停電などの深刻な事態に陥る可能性は低いだろう。

しかし、紛争が長期化する最悪のシナリオでは、状況は一変する。原油から作られる「ナフサ」が不足する可能性がでてくる。ナフサはプラスチック、合成ゴム、化学繊維、さらには電子部品など、我々の身の回りのあらゆる製品の基盤となる原料だ。
これが不足すれば、衣類やペットボトル、自動車部品といった広範な商品の生産活動が世界中で停止する「供給ショック」を引き起こす。
この場合、単なる物価上昇にとどまらず、市場から製品が消えたり、品質の劣る代替品に高額な価格を払わざるを得なくなったりするなど、生活に直接的な打撃を与えることになるだろう。
Q. 不確実な時代に、投資家はどのようなスタンスで資産運用をすべきか?
株式市場のプロがよく口にする「市場が織り込む」とは、私たち個人投資家を含む全ての市場参加者が、将来起こりうる出来事を予想し、その確率や影響度を考慮して取引を行うことだ。その動向は特に大きな資金を動かす機関投資家の動きに左右される。
紛争勃発後の株価下落局面が「仕込みの時期」であったが、現在株価が紛争前の水準に戻っているならば、その最適なタイミングは既に過ぎた可能性が高い。今、不確実性は依然として高いため、投資家は極端なリスクを取るべきではない。再度の原油価格上昇があったとしても、市場は一度目のショックを学習しているため、パニック売りなどの極端な反応は限定的になる可能性が高いだろう。
現在の市場フェーズは、焦って大きなリスクを負うよりも、慎重に状況を見極める「様子見」の姿勢を維持することが賢明と言える。