PIVOT TALK BUSINESS
【仕事で出会ったすごい人】老朽化と技術者不足
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2026年5月31日

国や自治体によるインフラ維持管理が限界を迎える中、民間主導の運営が急務となっている。作るだけから長く稼ぐビジネスへどう転換するのか?構造改革に必要な「大義」とは何か?インフロニア・ホールディングス代表取締役社長の岐部一誠氏に聞いた。 <出演者> 楠木建|一橋ビジネススクール特任教授 <ゲスト> ...
現代の「構造改革者」が語る、停滞する日本社会を動かす「信念」と「大義」の真髄
AIが進化し、ビジネス環境が劇的に変化する現代において、「すごい人」の定義もまた変わりつつある。
かつて重視された知識やスキルはAIによって容易に代替可能となり、新たな価値を持つのは「センス」と呼ばれる人間固有の資質だ。
本稿では、この「センス」を武器に、長らく停滞が続いていた日本のインフラ業界に大胆な「構造改革」を巻き起こす一人の経営者の言葉を辿り、その変革の核にある「信念」と「大義」に迫る。

Q. AI時代のビジネスにおいて「すごい人」の条件は何か?
仕事ができる、優秀である、といった言葉は、多くのスキルがAIによって外部化される時代には、本質的な「すごさ」を表現しきれない。
英語を話せる、特定のツールを使いこなせるといったスキルは今後急速にその価値を下げていく(スキルのデフレ)。
真に「すごい人」とは、そうしたスキルを超越した「センス」や「スタイル」を持ち、周囲に驚きや感動をもたらす人間を指す。

その人の仕事ぶりに接すると、すっきりとした爽快感や「気持ちいい」感覚があり、「またこの人と一緒に仕事がしたい」と、次への期待感が募る。AIには代替できない人間固有のこの「センス」こそ、今後の社会でますます価値を増していく(センスのインフレ)と言える。
Q. インフロニアが推進するインフラ事業の「構造改革」とはどのようなものか?
インフロニアが目指すのは、「作るだけで終わる」請負型のビジネスモデルからの脱却である。
従来の建設会社は、依頼されたものを建設して引き渡せば、そこで役割は完了した。しかし、インフロニアはインフラのライフサイクル全体、すなわち完成後の運用やサービス提供に重きを置いている。
インフラは30年、50年、長いものでは100年にもわたり使われ続ける資産であり、建設する前の計画段階から関与し、将来の運用を見据えた設計や管理を行うことで、インフラ全体の価値を最大化することを目指しているのだ。
このアプローチは、建設の目的を単なるモノの製造から、サービス価値の創出へと転換させるものと言える。
Q. 公共インフラにおける「コンセッション」方式は、社会にどのような好影響をもたらすか?
公共インフラ事業に「コンセッション」方式を導入することは、国民や社会にとって大きなメリットをもたらす。
建設業者が「作って終わり」の請負型の場合、どうしても「高く受注し、安く作る」ことにインセンティブが働き、品質が二の次になりがちだ。しかし、運営まで民間が手掛けるコンセッションでは、その構造が逆転する。

長期的な運営収益を追求するため、建設段階から利用者にとって魅力的な、価値の高い施設を作ろうというインセンティブが働くようになる。例えば、愛知県の有料道路におけるコンセッションでは、管理費の20%以上の削減が実現し、結果的に税金のセーブにも繋がっている。
民間の知恵や工夫を活かすことで、利用者サービスの向上と財政負担の軽減という、まさにウィンウィンの関係を築ける点が最大の魅力である。
Q. なぜ日本でこの合理的なインフラ改革が進まないのか?
コンセッション方式の合理性は明らかであるにも関わらず、日本ではその導入が欧米諸国に比べて大幅に遅れている。
その主な理由の一つに、日本の経済成長期における税収の豊かさがある。長らくインフラ整備を税金だけで賄うことが可能であったため、民間活用という発想が生まれにくかったのだ。関連する法律が整備されたのは、つい最近の2011年のことであり、まさに改革の黎明期にある。
さらに、身分が厚く保障された公務員は、既存の役割が変化することや、それが仕事を奪うことに繋がりかねない漠然とした不安を抱いている。これは地元経済に密着した業者も同様であり、変化への抵抗勢力となる。
また、大手の建設会社にとっては、従来の請負市場がいまだに大きく、その土俵で勝ち続けている現状では、新たなリスクを冒してまで既存ビジネスモデルを破壊する「イノベーションのジレンマ」に陥りがちだ。むしろ、インフロニアを牽引する前田建設が「セカンドランナー」であったからこそ、既存の土俵外に活路を見出すことができた側面もある。
Q. 岐部社長を長年にわたり構造改革へと駆り立ててきた原動力は何か?
岐部社長の構造改革への原動力は、自身の経験に基づく「健全なルサンチマン」、すなわち現状への不満や怒りである。

「なぜ無駄な価格競争を強いられるのか」「なぜこの業界は利益が出にくいのか」といった業界構造への疑問、あるいは社会における建設業への根強い偏見(「勉強しないとああなるよ」といった言葉)が、現状を変えたいという強い衝動を育んだ。
この不満から生まれたのが、建設業界の長年のブラックボックスであった「原価」をすべて透明化する「原価開示方式」である。
これは「儲かる可能性を自ら殺す」と社内営業部門から猛反発を受けながらも、発注者との信頼を再構築し、真のウィンウィンの関係を築く画期的な手法であった。2011年の東日本大震災の際、復興事業において被災自治体の発注能力の課題に直面する中で、この原価開示方式の真価が認められ、国土交通省の幹部にも支持されて大きな流れを作った。
長年の信念が、未曾有の国難によって一気に社会に認知される転機となったのだ。
Q. 構造改革を成し遂げるために、真の改革者には何が求められるか?
「構造改革者は構造改革を待たない」——これが岐部社長の示す変革の核心である。
多くの人は構造的問題を嘆くが、真の改革は、誰かが変えてくれるのを待つのではなく、一個人が既存のルールを無視して勝手に行動を起こすことから始まる。
そのためには、広範な知識に裏打ちされた歴史や哲学といったマクロな視点と、個人的な憤りや義憤といったミクロな視点の両方が不可欠だ。そして、それを支える揺るぎない「信念」と、周囲を巻き込む「大義」が必要とされる。最初は戦略的に大義を語ることから始めても、それを貫き続けるうちに内発的な信念へと昇華する。
また、改革には抵抗がつきものであるが、それを客観的に「来たな」「今回は早めに来たな」と面白がれるほどのレジリエンス(回復力)が求められる。この「焦るな、しかし急げ」という言葉は、長期的な視野で結果を焦らず、しかし行動のスピードは緩めないことの重要性を示唆する。
理念による空中戦と、現場で泥臭く動き続ける地上戦の両方を戦い抜く者こそ、真の構造改革を成し遂げることができるのである。