PIVOT TALK SPECIAL
日本語+解説付き版:UAE大使が語るOPEC脱退と中東新秩序
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2026年5月29日

イスラエルとイランの対立が激化する中、UAEはしたたかな全方位外交で被害を免れている。ホルムズ海峡封鎖という最悪のシナリオが現実になれば、日本企業はどれほどの代償を払うのか。CEPA妥結による新たなビジネスチャンスも含め、中東政治専門家の溝渕正季氏に徹底解説してもらった。 <ゲスト> シハブ アフ...
中東激動の時代、UAEの描く未来と日本の役割
激動の中東情勢が世界のビジネス環境に大きな影響を与えている。特に、ホルムズ危機に直面し、OPEC脱退という戦略的決断を下したアラブ首長国連邦(UAE)の動向は、エネルギー供給をはじめとする国際経済に不可欠な存在である日本にとっても無視できない。この記事では、UAEの駐日大使への独占インタビューと専門家の詳細な分析を基に、複雑化する中東の深層を解き明かす。
UAEがいま直面する課題、日本との協力関係、そして来るべき中東の新秩序まで、ビジネスパーソンが押さえるべきポイントをQ&A形式で解説する。

Q. イランはなぜUAEを主要な標的として攻撃するのか?
UAEはイランからのテロ攻撃をすでに2845回以上経験している。その9割は空港やホテルといった民間インフラが狙われ、自衛の構えを見せている。大使は、UAEがミサイル開発ではなく経済多角化と国際協調に注力する「寛容な社会モデル」であり、これがイランの体制と対極にあるため標的となっていると説明する。

自国を「国づくりに注力する寛容な社会」と位置付けるUAEの姿勢自体が、イランにとって脅威と映るため攻撃されているとの認識である。
米国の重要な同盟国であり、国内に米軍の主要拠点を置いているため、イランから直接的な脅威と見なされている。
2022年のアブラハム合意によりイスラエルと国交を正常化し、防空システム供与などの軍事協力を進めている点が、反イスラエルを掲げるイランの攻撃理由となっている。
ホルムズ海峡を迂回できるフジャイラ港が存在する。この港は海峡封鎖の際に原油輸出の代替ルートとなり得るため、その遮断はイランにとって封鎖の効果を最大化し、圧力を強める戦略的な標的となる。
UAEは金融、物流、AIなどの分野で中東の新たな経済ハブへと成長を遂げており、その不安定化は国際社会、特に米国やイスラエルに対し強力な圧力手段となる。
このように、UAEの経済発展と地政学的な位置付けが、複合的にイランからの攻撃を招く要因となっている。
Q. UAEがOPECを脱退した真の意図は何なのか?
大使はOPEC脱退の理由を主に2点挙げる。1つは、OPECが石油依存国のための組織であるのに対し、UAEの経済における石油依存度は25%未満にまで低下し、もはや「石油依存国」ではないと強調。経済の多角化に成功したため、組織に留まる必要が薄れたという認識だ。もう1つは、生産割当に縛られずに増産目標を達成し、「信頼できる供給国」としての責任を果たすためであると説明した。
しかし、専門家はこの脱退の背後に、より深い戦略的意図があると指摘する。OPECの生産割当が、UAEが大規模投資で確立した日量500万バレル(2027年目標)の生産能力を制約しており、これが「信頼できるサプライヤー」としての自己イメージと乖離していた点が脱退の主因と見る。OPECカルテルの縛りから解放されることで、この能力を最大限に活用できる道が開かれる。
さらに重要な点は、サウジアラビアの「子分」という立場からの脱却である。2011年以降、UAEは独自の外交経済戦略を追求する「自立したプレイヤー」としての地位を確立しようとしてきた。石油政策や外国投資誘致、物流、観光、AI、先端技術など多くの分野で、サウジとUAEは今や競争相手となっている。今回のOPEC脱退は、サウジに従属せず、対等な競争相手として独自の道を歩むというUAEの強い意志の表明だと専門家は分析する。
Q. 日本とUAEの経済・エネルギー協力関係の現状と将来は?
UAEは昨年、日本のエネルギー需要の約44%を供給した最大のパートナー国である。OPEC脱退後も、顧客である日本への安定供給を最優先事項と位置付け、「最も信頼できるパートナー」であり続けると約束している。有事の際にホルムズ海峡を経由できない場合の代替供給ルート(フジャイラ港経由)の検討や、日本国内の石油共同備蓄拠点の拡大も視野に入れ、エネルギー供給の強靭化に共に取り組む。最近の赤澤大臣訪問で2000万バレルの追加供給が合意されたように、日本のエネルギー安全保障に対するUAEのコミットメントは揺るがない。

両国関係はエネルギー分野にとどまらない。中東情勢の緊迫した中で妥結された包括的経済連携協定(CEPA)は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスを意味する。この協定により、日本はUAEが締結している28カ国以上の広範な協定ネットワークに加わることとなる。これにより、日本企業はUAEを生産拠点として、同国内で部品を調達・製造し、関税ゼロで多くの国々へ製品を輸出することが可能となる。これはUAEをハブとした新たなグローバルサプライチェーンの構築を促進するものであり、物流・製造分野におけるビジネスがより円滑に進むだろう。
さらに、宇宙、AI、再生可能エネルギー、水といった先端技術分野での日本の協力に大きな期待を寄せている。UAEは日本のH3ロケットで火星探査機を打ち上げ、2028年には小惑星探査のためにもH3ロケットの利用を計画している。これは日本の技術力への強い信頼を示しており、今後も多様な分野で日本からの投資と協力を強く求めている。アクセスの障壁が下がったことで、より一層円滑な協働が進むと期待される。
Q. 緊迫する中東情勢の中で、UAEは日本にどのような役割を期待しているのか?
UAEは日本の憲法上の制約を十分に理解した上で、その積極的な外交的役割を評価している。国連安保理決議やホルムズ海峡に関するIMO(国際海事機関)の決議を通じて、イラン攻撃を非難し強い姿勢を示したことは好意的に受け止められた。大使は、このような状況下において、「友好国がどれだけ一歩踏み込んだ支援をしてくれるか」に期待すると語った。これは単なる経済関係だけでなく、より深化したパートナーシップへの要望であり、有事の際の連帯を示唆するものであろう。
事実、空域閉鎖や非常事態に直面しても、UAE大臣が日本を訪れ、CEPAの交渉妥結を発表したことは、UAEが何があろうとも日本とのビジネスを継続し、日本が信頼できる献身的なパートナーであると示す強い意思の表れだ。
Q. 中東地域の紛争終結後、どのような新たな秩序が形成されると予測されるか?
UAE大使が描く未来像は明確である。イランが核兵器の保有、地域内における代理勢力の支援、弾道ミサイルやドローンの開発計画を完全に放棄し、隣国と平和的に共存する世界だ。そして、たった一つの国が天然の航路を乗っ取る「経済的テロリズム」は許されず、ホルムズ海峡の自由な航行が保障されることが未来への大前提であると強く訴える。

同時に、UAEは今回の危機を通じて「どの国がUAEと共に立ち上がったか」「どの国が距離を置いていたか」を厳しく見極めていると明言した。この経験が、今後の同盟関係やパートナーシップの再構築に大きな影響を与え、有事の際に信頼できるパートナーを選別する基準となるだろう。UAEは常に平和的な共存と緊張緩和を求め、自国の未来と国民の繁栄のために尽力する国々との協調を志向している。
Q. 紛争後の新しい中東秩序において、日本はどのような立場に立つのか?
専門家は、紛争後の最も確実な変化として、米国の中東における影響力と信頼性の大きな低下を指摘する。しかし、米国の超大国としての地位は変わらず、その役割を他の国が肩代わりすることも不可能だ。このパワーバランスの変化の中、中東各国は「自分の国は自分で守る」という意識を一層強め、自衛のための軍備増強を加速させるだろう。その結果、周辺国の軍拡は相互の脅威となり、古典的な「安全保障のジレンマ」が発生し、中東地域のさらなる不安定化につながると予測される。
UAEが「よくやった」と評価する可能性が高いのは、軍事面で貢献した英国やフランスなど欧州の一部、そしてエネルギー市場の安定化や金融投資に貢献した日本、韓国、インドなどの経済パートナーである。特に日本は、赤澤大臣のUAE訪問で多岐にわたる供給協力や共同備蓄、輸送ルートの強靭化について協議し、エネルギーや投資、経済面で価値ある重要なパートナーとして評価されている。日本は、軍事面では直接的な支援が難しいものの、経済的・外交的貢献を通じて「ポジティブなジャンル」に入ると見られているだろう。
一方、「静観した」あるいは「ネガティブ」な評価を受ける可能性が高いのは、米国である。米国は同盟国であるUAEを戦争に巻き込みながら、十分な防衛協力をしなかったという不信感がUAE側には強く残っていると見られる。また、経済的に重要なつながりを持つ中国も、今回の危機で具体的な行動を示さなかったことで、安全保障上の真のパートナーとはなり得ないとの印象をUAEに与えた可能性がある。米国中心の秩序が揺らぐ中で、中東各国は多様な協力関係を模索しつつ、自衛力の強化を図る時代を迎えるだろう。