PIVOT TALK ECONOMY
シン・中国経済の最前線
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2026年6月12日

今、中国の産業やビジネスに大きな変化が起きている。成長し続ける「AI×医療」分野やアウトドア市場の実態とは?中国経済を後押しする世界的な「人材の逆流」現象とは?元・創価大学客員教授の李虎男氏に聞いた。 <ゲスト> 李虎男|元・創価大学 客員教授 中国・延辺大学朝鮮言語文学科を卒業後に来日。2005...
知らないと損する「シン・中国経済」の実像
「中国経済のバブル崩壊」「景気失速」――日本のメディアではこのような報道が相次ぐ。しかし、現地の状況や専門家の見方は大きく異なる場合が多い。
本稿では、中国経済に対する誤解を解きながら、同国が注力する最先端ビジネス、そして日本がとるべき具体的な対中戦略「知中・用中・克中」について掘り下げる。世界第2位の経済大国として進化を続ける中国の"今"を正しく理解することは、ビジネスにおいて不可欠である。

Q. 日本のメディアで語られる不動産バブル崩壊論と、実際の中国経済との間にどのような乖離があるか?
日本の報道で頻繁に取り上げられる中国の不動産バブル崩壊は、多くの点で日本の経験則に基づく過剰な反応であると指摘されている。中国の不動産問題は、日本のバブル崩壊とは根本的に異なる構造を持つ。最も大きな違いは、中国では土地が国有であることだ。土地を国家が所有しているため、政府は不動産政策を強硬に実施できる。また、不動産関連のインフラ企業も大半が国営であり、民間企業のような連鎖的な倒産が国全体の経済を揺るがす事態には至りにくい構造が存在する。
習近平は、不動産を「投資目的ではなく、人が住むためのもの」と明確に位置付け、投資目的の不動産投機を抑制する方針を打ち出している。これは健全な市場への転換を目指す動きであり、単なる「崩壊」として捉えるべきではない。中国は日本の不動産バブルや欧州の社会福祉政策の失敗を研究し、それを自国の経済政策に反映させているのだ。
Q. 中国経済の発展を支える、最も根本的で揺るぎない国家戦略とは何なのか?
中国経済を支える中核となる国家戦略は、建国当初から一貫して科学技術の発展に重点を置くことにある。この方針は最近になって始まったものではなく、1949年の建国時から変わっていない。

特に周恩来は、自身がフランス留学中に産業革命における科学の重要性を認識し、その思想を中国の国家方針に強く反映させたと言われている。文化大革命による大混乱期ですら、中国は人工衛星の打ち上げや核兵器開発を成功させるなど、科学技術の歩みを止めることはなかった。このように、科学技術への絶え間ない投資と政策の一貫性が、現在の中国の急速な技術革新と経済成長の強固な基盤となっている。不動産中心の経済から科学技術へのシフトは、国家レベルでの徹底した研究と意思決定の結果である。
Q. 中国でいま、国家の強力な後押しにより急成長している注目のビジネス分野にはどのようなものがあるか?
中国では国家の後押しを受け、多くの新規ビジネスが数兆円規模の市場に成長している。特に以下の4分野は注目に値する。
AI医療の革新「スマート病院」
コロナ禍で急成長するキャンプ市場
国民の意識改革を促すネット小説産業
若者にも人気を博す室内ゴルフ
まず、「スマート病院」だ。かつて非効率だった中国の医療体制は、AIとIT技術によって劇的に変化した。携帯一つで診察予約から支払いが可能となり、夜間はAIによるオンライン診察、AIロボットによるリハビリ補助まで導入されている。
次に、コロナ禍を経て価値観が変化し、「キャンプ市場」が数兆円規模へと成長している。かつての「爆買い」のようなモノの所有欲から、人々の関心は体験へと移行した。これは「いつ死ぬかわからないから人生を楽しもう」という意識の変化が背景にある。
また、中国政府は国民の知識や民度の向上を目指し、「ネット小説」産業を推進している。単なる娯楽に留まらず、国内外の小説を読むことで国民の意識や教養を高めることを目的としている。これにより、かつては見られなかった公共の場での列形成など、人々の行動にも変化が見られ始めている。
最後に、トランプ大統領の影響や欧米文化への憧れもあり、「室内ゴルフ」が若者を中心にブームを巻き起こしている。運動習慣のない人々に対し、政府もこの健康的なスポーツを奨励しており、2024年の市場規模は2000億円に達すると予測され、今後も安定的な成長が見込まれている。
Q. 中国の飛躍的な技術発展を支える人材戦略と、未来を見据えた「低空経済」とはどのようなものか?
中国の急速な技術発展は、優れた人材戦略と革新的な「低空経済」に支えられている。
米国との対立が深まる中、GoogleやMicrosoftといった米国のトップ企業で活躍していた多くの中国人技術者が続々と中国へ帰国している。2000年にはわずか15%だった米国からの帰国率が、2020年以降は80%にまで急増した。
彼らは中国国内でAIやIT分野のスタートアップを立ち上げ、中国の技術革新を牽引する原動力となっている。政府は弱点分野を克服するため、莫大な資金を投じて世界中のトップ人材を獲得している。例えば、弱かった半導体技術分野では、台湾出身の半導体専門家とその研究チームを破格の待遇で丸ごと招聘し、その結果、中国の半導体産業は目覚ましい成長を遂げている。

「低空経済」とは、ドローンや空飛ぶ車などを活用し、地上だけでなく空域を経済活動に利用する新たな国家戦略である。これに対し、中国は年間約2兆人民元(約290億ドル)もの巨額を投じている。この政策は、交通インフラが未発達な農村部へのドローンによる物流網整備や、都市部の慢性的な交通渋滞を空飛ぶタクシーで緩和することを目指す。
2030年までには目標の30%から40%を達成することを目指し、必要なインフラ整備が急速に進んでいる。これらの取り組みは、技術開発とインフラ投資の両面から国家の未来を切り拓く動きと言えよう。
Q. 日本は急速に変化する中国の現状をどのように認識し、いかなる戦略で向き合うべきか?
日本が中国と効果的に向き合うためには、まず「中国の現実を正しく知る」ことが不可欠だ。
多くの日本人がいまだに「中国は明日崩壊する」といった根拠のない旧来のイメージに囚われているが、それは現実を大きく見誤る結果につながる。2010年にGDPで日本を抜き去った中国は、現在その差を5倍にまで広げており、経済的実力は圧倒的である。

日本が中国から学ぶべき点はいくつか存在する。一つは、失敗を恐れずに事業を高速で進める「圧倒的なスピード感」だ。Xiaomiの自動車産業参入からわずか3年で、76秒に1台をロボットで生産する体制を構築した事例は象徴的である。
二つ目は、「強固なサプライチェーン」だ。爪楊枝から航空機、衛星に至るまで、あらゆる部品が中国国内で24時間以内に調達可能なシステムは、世界のどこにも類を見ない。
三つ目は、「世界一厳しい消費者による品質向上」だ。コロナ禍を経て、中国の消費者は商品の品質に非常に厳しくなり、国内製品の質を飛躍的に向上させた。これにより、日本製品でなくても高品質なものを現地で安価に購入できるようになっている。
日本がとるべき対中戦略は、「知中・用中・克中」の三段階である。
第一段階は「知中」すなわち中国を知ること。感情論ではなく客観的に中国の現実、その強みと弱みを理解することである。
第二段階は「用中」すなわち中国を利用すること。強固なサプライチェーンや巨大な市場を自社の利益のために賢く活用することだ。ドイツや韓国企業がそうであるように、中国市場を戦略的に捉え、自社がそこに根差すことで得るメリットを最大化すべきである。
第三段階は「克中」すなわち中国に克つこと。中国の強みを利用しつつも、その弱点を見極め、自社の独自の強みを発揮して競争に打ち勝つことを意味する。
冷静かつ戦略的に、この三段階のアプローチを通じて、日本企業は変化の激しい中国経済の中で自らの活路を見出すことができるだろう。