PIVOT TALK BUSINESS
デュアルユースのリスクとチャンス
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2026年5月14日

企業が直面する「軍民両用(デュアルユース)技術」の最前線を徹底解説。自社部品の兵器転用リスクやイーロン・マスク氏の「スターリンク」が戦局を左右する現実など、テクノロジーが変える戦争とビジネスのリアルに迫る。前編で宇宙、後編でドローンとAIについて深掘り。 <ゲスト> 大庭弘継|立教大学大学院 人工...
軍民両用技術が拓くビジネスチャンスと、忍び寄る戦争の未来
ビジネスパーソンにとって遠い存在と思われがちな軍事。しかし、軍事と民生の両方で利用される「デュアルユース技術」は、今やビジネスにおける新たなチャンスであると同時に、足元をすくわれるリスクともなりうる。
日本政府も推進するこの技術の最前線では、日々世界の常識が塗り替えられている。本稿では、軍事の現場を経験し、現在は立教大学大学院の特任教授を務める大庭弘継氏が解説する宇宙分野におけるデュアルユース技術の現実を探る。

Q. デュアルユース技術はなぜビジネスパーソンにとって重要なのか?
デュアルユース技術がビジネスパーソンにとって無視できないのは、それがビジネスチャンスとリスクの両面を内包するためだ。政府がこの技術を推進する背景には、防衛力の強化と経済成長の二兎を追う目的がある。新しい市場開拓を狙う企業にとっては大きな商機となりうる。
一方で、自身の事業が軍事と無関係だと思っていても、予期せず製品や技術が軍事転用され、国際的な非難や風評被害を招く危険性も存在する。
例えば、ドローンに使用される安価な汎用部品が、意図せず軍事兵器として利用される事例がある。こうした事態を避けるためにも、デュアルユース技術に関する深い理解は、現代ビジネスにおいて必須の教養といえる。
この技術の善悪を判断することは非常に困難である。原子力が発電と核兵器という二面性を持つように、デュアルユース技術もまた、人類に多大な恩恵をもたらす一方で、負の側面を宿す。単純な二元論ではなく、その背景や現状を知り、多角的な視点から是々非々で向き合う姿勢が求められるのだ。
Q. 日常的なGPSが軍事技術であったというのは本当か?その経緯は?
現在、スマートフォンの位置情報からカーナビゲーション、物流管理に至るまで、我々の生活に不可欠なGPSは、紛れもない軍事技術を起源とする。
かつて船や軍事部隊は洋上で正確な現在地を把握するのが困難であり、天測や精度が低いレーダー測位に頼っていた。この問題を解決するため、1960年代から米国防総省が開発を始めた測位衛星システム「ナブスター」こそがGPSの正体である。

GPSが民間開放されたのは、1983年に発生した大韓航空機撃墜事件が大きな転機となった。航法ミスによりソ連領空に誤って侵入し撃墜されたこの事件を受け、レーガン大統領は民間航空機の安全確保のため、GPSの民間開放を宣言した。当初は軍事用より意図的に精度を落として提供されていたが、2000年以降はクリントン政権の判断で、軍民同等の高精度な情報が民間にも提供されるようになった。
しかし現在では、米軍はジャミングに強く秘匿性の高い軍事専用のGPS信号を使用しており、民間とは異なるレベルの技術を活用していると考えられる。
米国への過度な依存を避けるため、ロシア(グロナス)、中国(北斗)、EU(ガリレオ)は独自の測位衛星システムを構築。日本もまた準天頂衛星「みちびき」を運用しており、GPSと連携することで測位精度の向上や補完的役割を担っている。
Q. 自衛隊も民間の衛星を利用していた時期があったというのはどういうことか?
軍事と民間のインフラの相互依存を示す興味深い事例として、自衛隊が独自の通信衛星を持たず、民間の衛星を通信に利用していた時期がある。かつて自衛隊は遠洋航海中の艦船との連絡を確保するため、スカパーJSATが所有する民間通信衛星「スーパーバード」を間借りしていたのだ。
これは、国防という極めて機密性の高い分野においても、民間の技術やインフラが重要な役割を果たすことがあるというデュアルユースの現実を示している。今日の自衛隊は独自の監視衛星などを保有しているが、過去にはこのような形で民間との境界が曖昧であった時代があった。
Q. スターリンクはウクライナ戦争で具体的にどのように活用されたのか?その特性とリスクは?
ウクライナ戦争勃発当初、ロシア軍はウクライナ軍の通信インフラを徹底的に破壊し、指揮系統の麻痺を狙った。これにより、前線部隊と司令部が連絡不能に陥る危機的状況が生じた。
この時、イーロン・マスク氏率いるスペースXが提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」が、代替の通信手段として投入され、ウクライナ軍の生命線となった。

スターリンクの最大の強みは、数千基もの多数の低軌道衛星で構成される「高弾性(レジリエンス)」にある。たとえ一部の衛星が破壊されても、残りの多数の衛星が機能を補完するため、システム全体が停止することがない。実際、ロシアによるサイバー攻撃もスターリンクの分散型システムの前には効果が薄く、事実上無力化されたと報じられている。
戦場では、高度な情報戦も展開された。ロシア軍が鹵獲したスターリンク端末に対し、ウクライナ側が通信復旧を謳う詐欺メールを送りつけ、騙されて送金させた上、メールに含まれる位置情報からロシア兵の位置を特定し砲撃を加えるという、前例のない戦術まで登場した。
しかし、この状況は新たなリスクも生み出した。ウクライナ軍の通信がスターリンクに依存していることで、その提供者であるイーロン・マスク氏の「一存」が戦況を左右しかねない点である。
クリミア半島におけるウクライナ軍の特定の攻撃に対して、マスク氏が通信回線を遮断し攻撃を阻止したという報道は、民間企業の一トップが国家の軍事作戦に直接介入しうるという、現代における特異な力学を示唆している。
Q. 現実の宇宙空間で「宇宙戦争」は既に始まっているのか?その脅威とは?
「機動戦士ガンダム」のようなSF作品の世界と思われていた宇宙戦争は、もはや絵空事ではない。米国防総省や専門機関の報告によれば、米中露といった主要国は、他国の衛星を攻撃・破壊する能力を持つ「攻撃衛星」(キラー衛星)をすでに開発・配備している可能性が高い。国家が公式には認めないものの、確度の高い情報として扱われているのが現状だ。

攻撃手法も多岐にわたる。直接衝突させる運動エネルギー弾、金属片を放出して破壊するネスティングドール型、レーザー照射、化学スプレーで機能停止に追い込む、ロボットアームで捕捉するといった方法が技術的に可能だとされている。
これらの攻撃衛星は、通常の衛星と同じような外見をしているため、外見からその機能を識別するのは極めて困難だ。
こうした宇宙空間での衝突や破壊が引き起こす最大の脅威は、「スペースデブリ」(宇宙ゴミ)である。
秒速約7.9kmというライフル弾の10倍以上の速度で飛び交うデブリは、わずかな破片でも稼働中の衛星にとって致命的な脅威となる。デブリが他の衛星に衝突すると、さらにデブリが生成され、連鎖的に他の衛星を破壊する「ケスラー・シンドローム」と呼ばれる現象が起きる可能性がある。
これはGPSや通信、気象観測など、現代社会に不可欠なあらゆる宇宙インフラを麻痺させ、特定の軌道空間が数世代にわたり使用不能となる壊滅的な状況を招く恐れがある。国際宇宙ステーション(ISS)が、デブリ雲を回避する運用を行うほど、これは差し迫った現実の脅威となっている。将来、一個人が意図的に衛星を衝突させてデブリを発生させ、宇宙利用を妨害する「宇宙テロ」のリスクも指摘されており、人類共通の課題として国際社会での対策が急務となっている。