PIVOT TALK BUSINESS
新たなヒットの方程式。アニメ×バイラル=グローバル
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2026年5月10日

一時は衰退が続いていたJ-POPが復権している。過去10年の間に、なぜヒットが復権したのか?新たな「ヒットの法則」とは何か?音楽評論家の柴那典氏に聞いた。 <ゲスト> 柴那典|音楽評論家 京都大学卒業後、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーや社会批評の分野にて執筆やインタビューを手...
J-POPのグローバル戦略と国内メガヒットの方程式:生成AI、「推し活」が拓く未来
日本のJ-POPは近年、世界中で注目を集めている。2023年以降、そのヒットの背後には明確な戦略と新たな力学が存在する。
本稿では、最新のヒットの方程式から「推し活」、そして生成AIの影響まで、J-POPのグローバル化を多角的に考察する。
Q. 2023年以降のJ-POPの世界的ヒットの方程式とは何か?
2023年以降のJ-POPグローバルヒットは、「アニメ×バイラル=グローバル」という方程式で定義できる。人気アニメの主題歌となることで海外ファンに到達し、SNSでの「踊ってみた」や「歌ってみた」などのバイラル現象を通じて国境を越え、世界的な認知を獲得する。この力学は2020年代に本格化した。
YOASOBIの「アイドル」(『推しの子』主題歌)、Creepy Nutsの「ブリンバンバンボーン」(『マッシュル』主題歌)、米津玄師の「アイリスアウト」(『チェンソーマン』主題歌)といった楽曲が代表例だ。
これらの楽曲は日本よりも先に海外でヒットの兆しを見せることが多い。

Q. 藤井風「死ぬのがいいわ」の世界的ブレイクから学べるバイラルの特徴は何か?
藤井風の「死ぬのがいいわ」は、バイラルが予測不能な経路を辿る典型例である。この曲はシングルカットもMVもないアルバムの一曲であった。タイの一般アニメファンが「推しキャラ」動画のBGMとして、楽曲の歌詞「あなたとお別れするなら死んでしまいたい」というメッセージを深く理解した上で使用したことが起爆剤となった。最初のドミノを倒したのは深い共感であったが、その後は耳馴染みの良さで広まった部分もある。このケースは、公式プロモーションなしで個人の共感と創造性がヒットの最初の火種となりうることを示す。伝播はタイから東南アジア、そしてインドネシアをハブに欧米へと拡大した。東南アジア経由でグローバル化する流れは、藤井風以外にも見られる重要なパターンである。
Q. J-POPが世界に広がる上で、アジアはどのような役割を果たすのか?
J-POPのグローバル展開において、アジアは極めて重要なハブの役割を果たす。欧米を直接狙うよりも、東南アジアを経由する方が広がりやすい傾向が顕著だ。この背景には「88rising」のようなアジア系アーティストに特化したメディアプラットフォーム兼レーベルの存在が大きい。
88risingはニューヨークで立ち上げられ、アジア各国のヒップホップやR&Bアーティストを支援し、アメリカでのコミュニティ形成を促進する。新しい学校のリーダーズが88risingに所属し、YOASOBIが主催フェスに出演するなど、アジア全体が一つの連携体となり米国市場に影響力を拡大しようとする動きがJ-POPの道を拓いている。
J-POPもアジアというハブを通じて世界へと拡大する独自の経路を獲得しつつある。
Q. Mrs. GREEN APPLEの国内メガヒットは、グローバル戦略とどう異なるのか?
Mrs. GREEN APPLEの「一人勝ち」現象は、「アニメ×バイラル=グローバル」とは全く異なる国内特化型のヒット方程式で説明できる。彼らのファンの95%が国内であり、海外展開やSNSバイラルバズは主要因ではない。2025年には年間ランキングTOP10に5曲も送り込むほどの成功を収めたが、これは国民的グループとしての地位確立がもたらしたものだ。嵐やSMAPのように幅広い世代に認知され、テレビでの冠番組開始やCM出演など、マスメディアを最大限に活用した点が特徴である。アニメ主題歌「ライラック」もヒットしたが、その認知はアニメ人気よりもバンド自身の躍進と強く結びついている。

この成功は、ボーカルの大森元貴の類稀な才能に負うところが大きく、他のアーティストが容易に再現できるものではない。しかし、国内市場ではちゃんみながプロデュースするガールズグループHANAがブレイクするなど、新たなスターは引き続き誕生している。
Q. 音楽業界は生成AIを脅威と感じているのか?AIが音楽シーンに与える影響は?
音楽業界のミュージシャンは、生成AIを仕事の脅威とは捉えない場合が多い。彼らはAIを創作を助けるツールとして肯定的に受け入れている。その理由は、音楽家たちの仕事の本質が「ステージに立ち、身体性をもって人前でパフォーマンスを行う」ことにあるという確信があるからだ。この身体性を伴う表現はAIには代替不可能なものであり、ミュージシャンたちは自らの固有の価値が揺るがないという自信を持っている。
AIが社会のルールを変革する中で、人間の「労働」はAIに代替され、人々は「活動」に価値を見出すようになる。音楽活動やファンによる「推し活」はまさにこの「活動」であり、人間ならではの熱意や感情が結びつき、新たなヒットを生み出す源泉となると見ている。

Q. 「推し活」の時代に、ヒットのメカニズムはどのように変化するのか?
AI時代の到来とともに、ヒットのメカニズムは「労働」から「活動」への移行によって大きく変化するだろう。人々の可処分時間が「推し活」のような活動に注がれることで、ヒットの性質も変化する。これまでのヒットには、コロナ禍における「うっせぇわ」のように、社会のムードや無意識が作り出す自然発生的なものが存在した。これは「アルゴリズムの微笑み」とも言える。
しかし「推し活」は、ファンが自らの熱意とお金、そして組織的な行動によってアーティストやグループを「応援」し、能動的にチャートを「ハック」してヒットを意図的に作り出す。これは意識的な行為だ。
無意識によるヒットと、意識的な「推し活」によるヒットは、現在相克の関係にあるが、今後は後者の影響力がさらに強まる可能性を秘めている。旧ジャニーズ事務所の問題以降、男性アイドル市場は群雄割拠となり、M!LKのような推し活に支えられたグループがチャート上位に進出するなど、ファンの影響力がより顕著である。

Q. クールジャパンの反省を乗り越え、日本のコンテンツ産業が世界で成功するための条件とは何か?
政府はコンテンツ産業を基幹産業と位置づけ海外展開を支援しているが、過去の「クールジャパン」の失敗から学ぶことが重要だ。その最大の反省点は、行政がコンテンツのクリエイティブそのものに介入し、特定の作品をプロモートしようとした点にある。日本音楽が世界で成功する鍵は、行政や業界団体が「土台作り」に徹することだ。具体的には、クリエイターが自由に活動できる環境を整備し、プロモーション活動を支援する。日本の音楽の強みは「多様性」(ロック、アイドル、ボカロ、VTuberなど幅広いジャンルの共存)と「蓄積」(シティポップなど70~80年代の名曲という膨大な資産)にある。これらは海外市場でまだ発掘されていない「宝」であり、再解釈を通じてリバイバルヒットを生み出す潜在力を持つ。現代のヒットは単なる「売上」ではなく「注目」を集める「アテンションエコノミー」の時代だ。音楽におけるバイラルヒットの事例は、再生回数や話題性が収益に直結する先行事例として、他産業も参考にすべき知見を提供する。