PIVOT TALK BUSINESS
ANA・JALの決算会見を斬る
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2026年5月3日

4/30にANA・JALの決算会見が行われた。 その決算会見に足を運び、様々な知見をお持ちのAviation Wire 編集長の吉川氏に今後のANAとJALの方向性をお聞きした。 <ゲスト> 吉川忠行|航空経済紙「Aviation Wire」編集長 2004年にライブドア入社、同業初の報道部門の立...
ANA「SFC改悪」の衝撃と航空業界の構造転換: 特典改定に潜む航空会社の戦略とは?
ANA(全日本空輸)が発表したSFC(スーパーフライヤーズカード)の特典改定は「改悪」とまで呼ばれ、利用者に衝撃を与えている。カード決済額に応じてラウンジ利用などの特典に制限が加わる新制度の導入は、なぜ必要だったのか。航空経済誌編集長の吉川忠行氏が、ANA社長への直接取材や航空業界の厳しい実情を基に、特典改定の背景と航空会社の戦略を徹底解説する。
JALを含め、航空業界が直面する構造的な課題、収益源の多様化、そして利用者と企業の新たな関係性とは。私たちは今後どのように空の旅と向き合うべきかを考察する。

Q. ANAのSFC(スーパーフライヤーズカード)改定が「改悪」とまで言われる理由は何だろうか?
かつて「永久保証」とまで謳われたSFC特典は、2028年4月以降、年間のカード決済額300万円以上で「SFCプラス」、未満で「SFCライト」に二分される。
カード保有のみでラウンジ利用や優先搭乗が享受できた。
多くの会員が「修行」と称し、多額の費用を投じてカードを取得した。
今回の改定により、年間決済額300万円未満のSFCライト会員はラウンジ利用権を喪失し、上級会員のメリットが大きく減るため「改悪」と評されている。
年会費を払い続ければ飛行機に乗らずとも特典を得られたSFCは魅力的な制度であったが、会員の増加がサービス品質維持に深刻な影響を与え、見直しが避けられない状況となっていたのだ。

Q. なぜANAはラウンジ利用の快適性向上を優先し、会員サービスの改定に踏み切ったのか?
ラウンジの慢性的な混雑が今回の改定の大きな要因だ。ANAの柴田社長は「お客様全体の利便性向上」を優先し、一定の顧客離反も覚悟の上だと述べた。
羽田空港の国内線・国際線ラウンジでは、利用が殺到し、満席で座れないといった事態が頻発。快適性を損なう状況は、ヘビーユーザーからの不満も大きかった。
真のロイヤルカスタマーの満足度向上を目指す。
スターアライアンス加盟他社から、ANAの上級会員数が多すぎると10年以上前から指摘されていた背景がある。
ANAの独自路線の維持が、アライアンス全体に負荷をかけていた現実も存在した。
今回の改定は、ANA会員増加に伴うサービス品質低下の解決策の一つであり、利用者層を絞り込み、質の高いサービスを提供する戦略への転換と言える。
Q. 好業績の裏側にある航空業界の構造的課題とは何だろうか?
JALとANAはインバウンド需要と回復した海外出張需要に牽引され、両社ともに過去最高の売上を達成した。しかし、航空業界には根本的な構造的課題が存在する。
**脆弱な利益構造:** 航空会社は売上に対し営業費用が極めて高く、利益率が非常に低い。国際航空運送協会(IATA)は、一人当たりの利益が「スターバックスのコーヒー一杯分よりも少ない」と表現するほど、利益を出すのが困難なビジネスだ。
**燃油価格の高騰:** 中東情勢などにより燃油価格が変動すると、航空業界は大きな打撃を受ける。国内線への燃油サーチャージ導入検討はその一例であり、運賃への転嫁は避けられない。
**非航空事業の必要性:** コロナ禍で航空需要が蒸発した経験から、航空事業だけでは安定的な収益確保が困難だと認識された。多様な事業モデルへの転換が急務である。
これらの課題はANAに限らず、航空業界全体が抱えるものであり、利益率が低く外部環境の変化に脆弱なビジネスモデルからの脱却が求められている。
Q. ANAの今回のSFC改定は、航空会社のどのような経営戦略に基づいているのか?
SFC改定は、単なる会員制度の見直しを超え、ANAが掲げる「ANA経済圏」構築戦略の明確な表れだ。
**非航空事業への誘引:** ANAは、金融サービスやeコマースなど非航空分野で安定的な収益基盤を築くため、SFC会員にANAカードやANA Payといった自社決済サービスの利用を促す。
**囲い込み戦略の強化:** 年間300万円の決済条件設定により、ANAグループのサービスをメインで利用する顧客層を明確にし、他社への流出を防ぎ囲い込みを強化する狙いがある。
**利用の公平性確保:** これまでのSFC制度では、頻繁に利用しない会員も特典を享受できる状況があった。改定は、カード利用額という明確な指標で貢献度の高いロイヤルカスタマーを優遇し、特典に見合う公平な対価を求めるものだ。
しかし、高還元率の他社クレジットカードをメインとするユーザーにとって、「ANAカード縛り」に対する不満は根強く、最適なカード選択の自由が奪われることへの批判は多い。

Q. ANAのSFC改定後、JALは上級会員サービスにおいてどのような対応を取る可能性があるか?
JALも数年前に「JAL Life Status プログラム」でマイル制度を刷新し、非航空分野での利用も評価対象としたが、既存会員の特典は温存した。
しかし「上級会員を抱えたいが抱え込みすぎたくない」というジレンマは、航空業界共通の課題である。利益率が低い経営環境では、サービスの最適化は不可避だ。
JALも今後、ANAと同様に特典適用条件を見直す可能性は否定できない。
航空会社全体が外的要因に左右されない持続可能なビジネスモデルを模索する中で、同様の改定が他社でも起きる可能性は十分にある。
ANAの決定は一企業の変更に留まらず、航空業界全体の構造変化を映し出すものとしてJALにも波及する可能性があるだろう。どの航空会社も、ロイヤルカスタマーと収益のバランスをどう取るか、難しい判断が迫られている。
Q. 新しい空の旅体験:ANAのシートの進化に注目すべき点はあるか?
ANAは今夏以降、B787-9型機に新座席を導入する予定だ。個室タイプのビジネスクラスが注目される中、実は開発陣が最も自信を持つのはエコノミークラスの快適性だ。
**レカロ製エコノミーシート:** 自動車の高級シートで知られるレカロ社製を採用。複雑な形状で体をしっかりとホールドし、長時間のフライトでも疲れにくい座り心地を実現する。従来の座席よりも格段に快適性が向上すると評判が高い。
**ゆとりのシートピッチ:** 日本の航空会社の国際線エコノミークラスは、シートピッチ(座席の前後の間隔)が標準34インチ(約86cm)と、海外の一般的な31~32インチ(約79~81cm)に比べて広めに設計されている。このゆとりある空間設計は、日本人利用者だけでなく、海外の航空会社との差別化にも貢献している。
新しい機材の導入は製造元ボーイング側の事情により遅れる可能性はあるが、ANAは過剰な上級会員サービスを見直す一方で、全方位での基本的な顧客サービス向上への投資は継続。日本の航空会社としての差別化を図っている。