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5年で株価3倍。紙タバコ衰退でも、JTが稼げる理由【筒井岳彦社長】
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2026年5月11日

5年で株価を3倍に伸ばすなど、海外市場での成長が続くJT。なぜ衰退市場でも成長できるのか?海外M&Aの成功要因は何か?電子タバコ市場でどう攻めるのか?2026年1月に社長に就任した筒井岳彦社長に聞いた。 <ゲスト> 筒井岳彦|JT 社長 早稲田大学理工学部卒業後、1997年にJT入社。M&Aや海外...
100年に一度の変革期、JT新社長が語るグローバル戦略とM&Aの真髄
日本を代表するグローバル企業として世界にその名を轟かせるJT(日本たばこ産業)。タバコ産業がRRP(健康リスク低減製品)の登場により、100年ぶりの大変革期を迎える中、新社長に就任した筒井岳彦氏に、JTの強さの源泉と未来への戦略を聞いた。長年の海外経験で培われたグローバル視点、そしてM&Aを成功に導く独自の哲学は、いかにして形成されたのか。
この記事では、筒井社長自身のキャリア形成からJTの組織文化、M&A戦略の核心、さらには加熱式たばこ市場の展望に至るまで、多角的にその経営哲学を深掘りする。

Q. かつて「JTのプリンス」と呼ばれた筒井氏が社長に就任した経緯とは何か?
筒井氏がJTのプリンスとして東洋経済のインタビューを受けた2013年、当時の経営企画部長としては最年少だった。社長になることを意識したことは全くないと語る氏を、現職へと導いたのは「面白い仕事がしたい」という一貫した情熱だ。会社をどう大きくするか、できないことをどう可能にするかといった挑戦的な仕事の追求こそが、社長就任の原動力となっている。日本を6年間離れ、再び生活者として日本に戻った際には、物価高にも関わらず街を歩く人々が前向きに見え、他社の社長からも「変革」「成長」「投資」といった前向きな言葉が多く聞かれることに「日本は明るくなった」とポジティブな印象を受けているという。

Q. タバコ産業が今、およそ100年ぶりの大変革期を迎えているのはなぜか?
タバコ産業全体で最も大きな変化は、RRP(Reduced-Risk Products)と呼ばれる、健康への負担が少ないとされる製品が登場したことである。これまでにもRRPの開発は試みられてきたが、技術が追いつかず、消費者の関心も薄かったため成功には至らなかった。しかし2014年頃から技術革新が進み、顧客の関心も高まったことで、ついにイノベーションが機能する市場環境が整った。これは1900年代初頭の紙巻きタバコ誕生以来、約100年ぶりの大きな地殻変動であり、この苦痛を伴う変革期に多くのビジネスチャンスが生まれている。JTにとってはこのフェーズが非常に「面白い」と感じられるそうだ。
技術の進化と消費者の健康意識の高まりによりRRP市場が活性化
紙巻きタバコ以来の約100年ぶりのプラットフォーム変化
世界的にも各国で顧客がRRPに関心を持つ傾向にある
Q. 縮小傾向にある紙巻きタバコ市場でJTが成長を続ける秘訣は何か?
紙巻きタバコ市場は、全体として顧客数が減少傾向にあり、数量ベースでは縮小市場であることは間違いない。しかし、JTはこの市場でも成長を続けている。その理由として、まず強力なブランドに対する継続的な投資が挙げられる。これにより、JTは価格決定力を維持し、増税などによる値上げの際にも顧客に寄り添うことで、離反を防いでいる。また、市場全体が縮小する中でも、JTはまだマーケットシェアが小さく、競争優位性を生かして競合他社からシェアを奪うことで数量の成長を実現している。実際、世界全体の需要が2.7%減少した年でも、JTは1%を超える数量の成長を達成しており、この市場における成長の余地はまだ十分にあるとの認識を示している。
Q. JTはM&Aを成功させる上で何を最も重視するのか?
JTのM&A戦略において最も重要視されるのは「目的」である。M&Aはあくまで目的を実現するための「手段」に過ぎず、「このM&Aで何を達成するのか」という目的論の徹底的な議論を重ねる。JTのM&Aの原点には「健全な危機感」が存在した。過去に世界の多くの専売公社が民営化の波の中で買収されてきた経緯から、「グローバル化しなければ、いずれ買収される側になる」という強い危機意識がグローバル戦略を推し進める原動力となった。この危機感は、日本的なやり方に固執せず、目的達成に最も合理的な方法を選ぶ姿勢に繋がる。

1999年のレノスの買収では、買った会社の経営陣をほぼそのままに海外事業を立ち上げるという、当時としては画期的な判断を下した。これは、グローバル経営に経験のない日本人を安易に配置するよりも、現地の知見を最大限に活用する方が成功確率が高いという、合理的な結論に基づいていたのだ。M&Aの規模が大きければ大きいほど、目的が明確でなければ社内の不安の声に押し流されてしまうリスクがある。この「何のためにM&Aを行うか」という徹底した問い直しが、JTの高いM&A勝率の秘訣と言える。
Q. JTが「日本人だから」という内向きな発想を捨て、グローバルで成功を収めた背景とは何か?
JTのグローバル成功の背景には、「日本人であるかどうか」ではなく「何ができるのか」を重視する徹底した能力主義の組織文化がある。筒井氏自身も「日本人だから海外に赴任したというより、その役割を担うために行った」と語るように、国籍を超えて能力を発揮できる人材がJTの推進力となっている。この考えは、1997年以降の海外事業の拡大と共に確立され、今では日々の業務に織り込まれている。
グローバルに事業を展開する中で、意思決定プロセスの効率化も不可欠だった。物理的に集まることが難しい状況で、意思決定の速度を維持するために、筒井氏が主導し、電子決裁システムが導入された。この変革の肝はITインフラ自体ではなく、「誰が何に権限を持つのか」を明確にすることにあった。この明確な決裁権限規定は、現地の事業会社がオーナーシップを持ち、リスクを取って前進することを可能にし、同時に「任せる経営」の基盤を形成している。
JTグループでは、社員全員が会社の成長に一丸となって取り組むことを共通の目標としている。国籍や働く場所に関わらず、能力で評価され、会社の「次のチャプター」を創造していくというこの文化こそが、グローバル競争におけるJTの圧倒的な強みだ。
Q. 社長の意思決定のブレを防ぐパーパスの策定がなぜ重要だと考えるか?
かつては、時の社長の意向によって「あれが欲しい」「これはいらない」と事業ポートフォリオが大きく変動することもあった。しかし、真に会社を前進させるためには、世代を超えて普遍的に守るべき価値観が必要であるという考えから、約10年にわたる議論の末、2022年に「心の豊かさをもっと」というパーパスが策定された。このパーパスはJTグループの「憲法」として機能し、あらゆる事業活動やM&Aがこの存在意義に沿っているかを判断する基準となる。これにより、意思決定に一貫性が生まれ、経営のブレが防がれている。

実はJTのM&A戦略は、最初の海外M&A(1992年のマンチェスターのタバコ会社買収)の失敗から大きな教訓を得ている。この初期の失敗で「日本流のやり方は海外では通用しない」という痛感を経験したことが、「現地の経営陣ごと買収する」という後のレイノルズ買収の成功モデルを生み出すきっかけとなった。失敗を率直に認め、それを学びの糧とする組織文化が、その後のM&Aの質の向上に繋がったのである。
JTの「任せる経営」は、任せる側の明確な責任と、任される側のオーナーシップを両立させることで成り立つ。これを担保するのが、詳細に定められた決裁権限規定だ。これは、誰がどの金額まで、どの意思決定権限を持つのかを明文化することで、現場が主体的に動きつつ、かつ責任の所在も明確になるようデザインされている。このような精緻な仕組みが、グローバルかつ多岐にわたる事業を支える強固な基盤となっている。新しい市場である加熱式たばこ市場においては、製品の「美味しさ」だけでは不十分であり、顧客が製品を「知り、試し、購入し、愛用する」という一連の体験全体をデザインする包括的なマーケティング戦略が成功の鍵を握ると筒井氏は指摘する。