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リーダーに必須《7つの教養》
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2026年4月20日

今リーダーにはコンテキスト(文脈)を編集し、語っていく力が求められている。人を惹きつけるための「文脈」の条件は?ベースとなる「7つの教養」とは?独立研究者の山口周氏に聞いた。 <ゲスト> 山口周|著作家•独立研究者 独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。電通、ボストン コンサ...
現代リーダーに必須の「物語る力」:山口周が説くマクロコンテキストの読み解き方
現代社会は価値観の多様化が進み、企業や組織の目的も不明確になりがちである。そのような時代にリーダーがチームを導き、人々の行動を促すには、魅力的な「物語(=文脈)」を創造し、共有する力が不可欠だ。本記事では、この「コンテキスト・リーダーシップ」の重要性と、それを身につけるための具体的な方法を、専門家の解説から深掘りする。

Q. なぜ現代のリーダーにとって「物語を編む力」が重要なのでしょうか?
高度経済成長期のように社会全体で共有される「大きな物語」が失われた現代において、人々の価値観は大きく断片化している。かつて「阿吽の呼吸」で共有された企業やプロジェクトの存在意義、働く意味は、今や自明ではない。この状況でリーダーは、自ら明確なコンテキスト(文脈)を設定し、人々が共感できる物語を「編集」し、部下と共有しなければならない。物語なくして、部下のモチベーションを維持することは極めて困難だ。
Q. 「物語」が人間に不可欠な理由は何でしょうか?また、その危険性とは?
臨床心理学者の河合隼雄は「心を病むとは、自分なりの人生の物語を作れなくなった状況である」と述べた。人は自分の人生に意味付けをする物語を必要とし、それを失うと精神的な健康を損なう可能性がある。物語には人々に目的意識を与え、行動を促す強力な力があるため、時に戦争のようにシンプルな物語が精神的な安定をもたらすケースもある。
しかし、その強力な物語には危険な側面もある。歴史上の悲劇はしばしば「世の中を良くしたい」という純粋な善意を持った人々によって引き起こされてきた。「地獄への道は善意で敷き詰められている」という警句が示すように、善意が暴走すると制御不能な力を持ち、多くの悲劇を生むことがある。ナチスドイツがその典型例だ。したがって、リーダーには物語を紡ぐ力だけでなく、その暴走を止める倫理観や哲学、批判的思考力が必要不可欠となる。
Q. 優れたリーダーはどのように「物語の力」を活用しているのでしょうか?
優れたリーダーは、マクロなコンテキストの中で自社の活動を位置づけ、従業員に高次の目的意識を与える。第二次世界大戦時のイギリス首相チャーチルはその好例である。彼はナチスとの苦しい戦いを前に、「自由主義の伝統を守る」という文明史的な使命を語り、直面する試練に崇高な意味を与えた。
チャーチルは「戦場だけでなく、キッチンで、教室で、工場で戦う」と述べ、兵士だけでなく一般市民一人ひとりにも「国を守る」という役割を与えた。これにより国民全体を一つの運命共同体として巻き込み、苦難そのものを意味づけることで国民の士気を鼓舞したのである。
金銭的報酬だけでは人を動かしにくい現代において、Googleが「情報格差をなくし、民主主義に貢献する」という物語を掲げたように、企業活動をより大きな文脈の中で意味付けすることが、人々をモチベートする上で決定的に重要となっている。
Q. 現代のビジネスリーダーに求められる「物語を編む力」を養うには、何をすべきですか?
物語を創造する「アクセル」と、その暴走を防ぐ「ブレーキ」の両輪を磨く必要がある。アクセルとして重要なのは、リベラルアーツ、すなわち歴史や文学といった学問だ。これらは人間の心がどう動き、社会がどう形成されてきたかを探求するもので、優れた物語を理解する基礎となる。

さらに、アニメ、漫画、ドラマといった身近なエンターテインメント作品から、「人を惹きつけるドラマの構造」を学ぶことも極めて有効だ。これらのヒット作には、明確な敵、失われたもの、指導者役、旅立ちといった、物語の普遍的な「型」が隠されている。この「型」をリテラシーとして理解すれば、自社の状況を魅力的な物語として再構築する応用力が身につくであろう。
一方でブレーキとなるのが倫理と哲学、そして批判的思考力だ。前述の通り、善意の物語は暴走すると危険である。自らが紡ぐ物語の持つ力を自覚し、その倫理的妥当性を常に自問自答することで、コンテキスト・リーダーシップは真に社会に貢献するものとなる。
Q. 日本のビジネスにおいて「欠落の宣言」が重要な理由は何ですか?
神話や革新的な事業の多くは、必ず「今、世の中に何が欠落しているか」という宣言から始まる。例えばGoogleは「情報へのアクセス権の格差」を、テスラは「化石燃料への依存」を欠落として提示し、その解決を目指す物語を創造した。
しかし、物質的に豊かで安全・快適・便利な現代日本では、「欠落」そのものが見出しにくい状況にある。一見満たされた社会において、心の底から人々をモチベートし、巻き込む事業を生み出すには、リーダー自身が社会の奥底にある隠れた「欠落」を発見し、それを明示するコンテキスト・デザイン能力が不可欠だ。
かつて画期的な技術で登場したセグウェイは、普及に失敗した。その理由は、「この技術によって、世の中に存在するどんな欠落が埋められるのか」という神話的な物語の構造、つまり「なぜそれが必要か」というコンテキストのデザインが欠けていたためだと分析できる。「何ができるか」だけでなく「なぜするのか」を明確にする物語を設計できなければ、技術的に優れていても人を動かすことは難しい。
Q. 時代の流れを読むために、「7つのマクロコンテキスト」とはどのような視点でしょうか?
世の中の動きを正確に把握するには、以下の7つのマクロコンテキスト(文脈)から多角的に分析する必要がある。具体的には、①経済(好況・不況)、②政治/外交、③社会/文化、④インフラ(技術基盤)、⑤人口動態、⑥テクノロジー、そして⑦歴史だ。これらの視点から、自社や自分の立ち位置を捉え直し、活動に意味付けを行うことが重要となる。

特に重要なのは、ある時点での静的なデータ(Y軸の値)だけでなく、それが上昇傾向にあるのか、下降傾向にあるのかという変化の勢い、すなわち「微分値」を読み解くことである。これにより、次に何が起こるか、あるいは時代の転換点(変曲点)を予測することが可能になる。優れたリーダーは、この変化の兆候を常に追いかけ、潮目が変わる絶好のタイミング、「カイロス」(ギリシャ語での「質的な時間」)が訪れるのを待ち構えているものだ。
その象徴的な例が、1985年のプラザ合意の際に三井物産の財務部長が見せた行動だ。彼は「先進国の蔵相がプラザホテルに集まる」という小さな新聞記事から、即座に「ドル高是正のカイロスが来た」と判断し、休日返上で部下を招集。市場が開くや否や、ドル資産を大量に売り抜き、莫大な損失を回避した。この判断は決して勘ではなく、日頃からドル高の流れや米大統領の発言などを注視し、「必ずドル高是正の動きが来る」という仮説を持って兆候を待ち構えていたからこそ可能となった。小さなサインを決定的な好機として捉えるには、普段からのマクロコンテキストへの深い理解と、情報を線で繋ぐ洞察力が必要なのである。日本のメディアだけでなく、海外メディアの情報にもアンテナを張る意識が欠かせないだろう。
Q. 「良いリーダー」と周囲から評価されるには何が重要ですか?

「良いリーダー」かどうかの評価は、リーダー自身ではなく、周囲の人々がどう捉えるかで決まる。周囲のメンバーは無意識のうちに、リーダーを「ある物語における特定の役柄(キャラクター)」として設定し、その役割を期待している。これは、漫画の読者が主人公に感情移入する構図と同じだ。良いリーダーを目指すのであれば、自分が周囲からどのような物語の主人公として見られ、どんな役割や期待を抱かれているのかを客観的に意識する必要がある。そして、その期待に応え、あるいはそれを超える物語の主人公を演じきるという視点が求められるのだ。