PIVOT TALK SPECIAL
新入社員に怯える管理職
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2026年4月7日

4月、新入社員を迎えた現場の管理職からは「接し方がわからない」「優しくしても辞めてしまう」と困惑の声が。若手育成の正解とNGとは?若手育成に詳しいリクルートワークス研究所の古屋星斗氏と、「教えない」をテーマに佐々木朗希選手などを育成した元千葉ロッテマリーンズ監督の吉井理人氏に話を聞いた。 <ゲスト...
プロが語る若手マネジメントの真髄:変わりゆく育成現場での対話術とリーダーの役割
近年、企業の若手育成は多くのマネージャーにとって頭の痛い課題となっている。従来の指導法が通用せず、変化する労働環境や価値観の多様化に対応しきれていない現状があるためだ。本記事では、プロ野球監督として多くの若手選手を育て上げた吉井理人氏と、若年者キャリア形成の専門家であるリクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏の対談を基に、現代の若手育成のリアルな課題とその解決策を探求する。
マネジメント層が悪戦苦闘する現場の実態を深掘りし、部下の成長を最大限に引き出すための具体的なヒントを紹介する。これからの時代に求められるリーダーシップのあり方とはどのようなものだろうか。吉井監督が選手との間で築き上げた信頼関係や、古屋氏が指摘する現代ビジネスシーン特有のコミュニケーション課題への解明を通して、新たな育成論を提示する。


Q. なぜ現代の若手育成は「従来のやり方」が通用しないのか?
現在のマネージャーや監督は、若手育成において未曾有の課題に直面している。昔ながらの指導法、すなわち長時間共に過ごし、飲み会などで人間関係を深める手法は、労働基準法の遵守やハラスメント防止の観点から実施が難しい状況である。これにより、管理職は過去の成功体験が通用しない「第一世代」として、手探りで新たな育成法を模索している。古屋氏によると、アンケート調査では「自分の頃と同じように育てられない」という悩みが最も多く、ハラスメント問題に加え、労働時間短縮と若手の成長の両立も大きな課題となっている。
吉井氏も、コンプライアンスの強化やハラスメント意識の高まりから、昔のような指導が不可能になったと認識している。選手たちが多くの情報を自ら収集できる時代であり、コーチや監督も常に学び続けなければ信用を失いかねない状況にある。結果として、旧来型の指導が難しくなる中で、管理職は新たな育成スタイルを確立する必要に迫られているのだ。

Q. 若手との間に「信頼関係」を築くには何が必要だろうか?
指導を成功させるための土台は、若手との間に強固な信頼関係を築くことに他ならない。これは短期的な努力で得られるものではなく、吉井氏も「年単位」の時間がかかると指摘している。組織に偶発的に配属された上司と部下の関係だからこそ、信頼構築への意識的な努力が不可欠なのである。信頼関係を築く最初のステップとして、吉井氏は「まず相手の主張を認めること」を挙げる。若手の話に耳を傾け、「そうなんだ」と一旦受け入れる姿勢が、相手が心を開くきっかけとなる。
さらに、信頼関係は普段からのコミュニケーションによって育まれる。重要なのは、若手が自身の情報源を多く持つ現代において、指導者側も常に学習し、正確で説得力のある情報を提供できるよう努めることだ。そうすることで、指導者は若手から「下手なことを言わない人」と認識され、真摯な信頼を得られる地盤を築けるだろう。信頼の醸成には時間がかかるが、その基盤なくして育成は成立しないことを理解する必要がある。

Q. 効果的なコミュニケーションのために「頻度」はなぜ重要となるのか?
若手との信頼関係を深める上で、コミュニケーションの「頻度」は「時間」の長さよりも圧倒的に重要だとされる。古屋氏の研究では、月に1度1時間の面談を行うよりも、毎日2分程度の短時間でも交流を続ける方が、育成の成功に与える影響が高いという結果が出ている。これは、形式ばった長時間の対話よりも、日常的な短い会話が相手との心理的な距離を縮め、人間関係を円滑にする効果があるためである。
吉井氏もこれを実践しており、意識的に選手がいる食堂に出向き、親父ギャグを交えながら積極的に会話をしていたと明かす。目的は選手をリラックスさせ、普段から話しやすい空気を作ることにある。このように、業務とは直接関係のない「雑談」のような軽いコミュニケーションを繰り返し行うことが、部下が気軽に話せる関係性を築き、いざという時の深い対話に繋がるのである。

Q. 部下の本音を引き出しやすい「環境」はどのように構築すべきだろうか?
部下の本音を引き出すためには、心理的に安心できる「ご機嫌なチーム」環境を構築することが不可欠である。かつての日本企業では、長時間労働や飲み会といった「同じ釜の飯を食う」文化を通じて非公式なコミュニケーションの場が自然と生まれていたが、現代ではこのような機会は減少し、意図的な環境作りが求められる。これは、雑談や本音を話すための「非公式な場」が失われつつある現代社会において特に重要である。
人は心が休まっている時や、非日常的な環境で本音を話しやすい傾向にある。例えば、野球選手が本音を漏らすのはトレーナー室という例のように、業務から少し離れたリラックスできる空間で、何気ない会話から本質的な情報を引き出す工夫が重要となる。マネージャーは、選手にとってのトレーナーや、かつての喫煙所や飲み会の席のような「非公式の場」を意図的に設けるか、代替となるコミュニケーションの機会を創造しなければならないだろう。
Q. 多様化する若手人材には「個別のアプローチ」が必須なのはなぜか?
現代の若手は、かつてないほどに価値観が多様化・多極化しており、画一的な育成では対応できない。例えば、学生時代からベンチャー企業でインターンシップを経験している新入社員もいれば、全く社会経験がない社員もいるなど、入社時点でのスキルや経験に大きな差が見られる。このような個々の背景の違いを理解せず、一律で「挨拶から」のような研修を行うことは、すでに経験を持つ若手にとっては無駄に感じられ、成長を阻害する可能性がある。
吉井氏は、選手の成長段階に応じて指導法を変えることの重要性を説く。新人はやる気に満ちているため直接的な「ティーチング」が効果的だが、自信をつけプライドが芽生えた中堅選手には、問いかけを通じて自ら気付かせる「コーチング」へと切り替える必要があるという。さらに、佐々木朗希投手を例に出し、精神的に未熟なトップアスリートに対しては「思春期の子どもに接するように」温かく見守りながらも時には厳しく接するなど、相手の個性を深く理解し、柔軟にアプローチを変える洞察力が求められるのだ。
Q. 指導者の「スタイル」は個々で異なっても問題ないのだろうか?
指導者のコミュニケーションスタイルは個々で異なって当然であり、すべてを完璧にこなす「スーパーマン」である必要はない。大切なのは、自分自身の強みや性格に合った方法で誠実に部下と向き合うことである。吉井氏は自ら雑談を仕掛ける「行くコミュニケーション」を重視するが、故野村克也監督はメディアの「ぼやき」とは異なる本心を側近を通じて選手に伝える間接的な手法で信頼を得ていた。
さらに、柔道監督の鈴木桂治氏のようにSNSで部下の日常をチェックし、雑談のネタとして活用するスタイルもあれば、サッカー日本代表の森保一監督のように、最終便で帰国する選手をフロントで見送るという、ひたすら行動で誠意を示すスタイルもある。重要なのは「何か一つでも理解できることを見つける」という謙虚な姿勢だ。部下の全てを理解しようと気負うのではなく、一点突破で関係性を深めることができれば、それこそが個々に合った有効なコミュニケーションスタイルとなる。
Q. 現代のリーダーやマネージャーに求められる「学び」とは何か?
「名選手、必ずしも名監督にあらず」という言葉があるように、優れたプレイヤーとしての能力と優れた指導者としての能力は全く異なる。日本においては、現役時代に成績を残した者がそのまま指導者になるケースが多いが、米国では指導者は専門職として確立され、プレイヤーとしての経験がなくても監督になることができる。これは、「指導」が専門的な知識とスキルを要する役割であることを示唆している。現在の日本のマネージャーもまた、自身のプレイング経験だけでは通用しない時代を迎えているのだ。
古屋氏によると、日本の社会人が大学院などで「学び直し」を行う割合は世界最低レベルであり、過去の経験に頼るマネジメントが現状を停滞させる一因ともなっている。吉井氏は、指導者の言動が部下の人生にまで影響を及ぼす責任の重さを自覚し、「中途半端にやってはいけない」との思いから大学院で学び直しを行ったという。自らの経験則に加え、統計学やマネジメント論などの体系的な知識を身につけ、変化し続ける時代に対応するための「学び続ける姿勢」こそが、現代のリーダーに最も求められる資質である。