PIVOT TALK TECH
【徹底解説】中国ヒト型ロボットの最前線
(817)
6,041回視聴
2026年3月13日

世界シェア8割を誇る中国のヒト型ロボット。なぜ150社が乱立する大ブームになっているのか?結局、何に使うのか?日本が稼ぐ道はあるのか?ジャーナリストの高口康太氏と、慶應義塾大学訪問講師の華金玲氏に最新事情を語ってもらった。 <ゲスト> 高口康太|ジャーナリスト 千葉大学客員教授。同大学院人文社会科...
激変する中国ロボット市場の現在地と日本の活路を探る
近年、中国では人型ロボット産業が爆発的な発展を遂げている。特に顕著なのは、旧正月の国民的番組「春晩」で毎年最先端のロボットが登場し、10億人の視聴者を魅了する国家的ショーケースとなっている点だ。
これは単なる技術デモに留まらず、テスラの動向に触発された政府主導の巨額投資と、多岐にわたる企業の競争が原動力となっている。
世界市場を席巻しつつある中国の人型ロボットの現状を深掘りし、日本がこの波にどう向き合うべきか、その活路を考察する。


Q. 中国の人型ロボット市場はなぜこれほど急成長しているのか?
中国の人型ロボット産業の急成長の背景には、政府による戦略的な推進と潤沢な資金供給がある。
特にイーロン・マスク氏のテスラ「Optimus」発表後、「コバンザメ戦略」とも称されるほど急速に人型ロボットへの投資がシフトした。2023年には、ベンチャーキャピタル経由で約1兆4000億円もの資金がこの分野に流れ込んでいる。この資金の半分以上は政府系が占める。
「春晩」へのロボット出演も、国民的番組でのプロモーション効果を狙った国家戦略の一環と言える。過去にはWeChat PayやDouyinが春晩でのタイアップを通じて急成長を遂げた実績があり、人型ロボット企業もその効果を享受しIPOを目指す。企業にとっては莫大な宣伝効果をもたらす舞台となっている。
地方政府も「ロボット学校」を設立し、企業が多様なロボットを試用できる環境を提供。また、展示施設を観光資源化するなど、産業振興と国民への浸透を両輪で進めることで、巨大な市場形成を後押ししている。

Q. 中国を代表する人型ロボット企業にはどのような特徴があるのか?
2025年の世界人型ロボット市場では、出荷台数ベースで中国企業が上位4社を独占し、全体の約8割のシェアを握ると予測されている。
多種多様な企業が群雄割拠している。
Agibot(アギボット): 2023年創業の新興企業だが、著名インフルエンサーが創業者であり、すでに業界トップの出荷台数を誇る。ソフトウェアとハードウェアの両方を手掛ける。
Unitree(ユニツリー): ドローン大手のDJI出身者が創業。ハードウェア、特にモーターなどの基幹部品開発に強みを持つ。カンフーなど派手なデモで世界的に注目され、世界各地の企業が協業を申し出る。
UBTECH(ユービーテック): 2012年創業の老舗で、創業者はかつて日本のASIMOを見て自社での開発を決意したと言われる。サービスロボットや物流ロボットで実績を持つ。
GraspRobotics(グラスプロボティクス): 2023年創業。北京大学のフィジカルAI専門家と産業ロボットのプロが共同創業。「使えるロボット」を目指し、自律的な判断・動作を重視する。
i-Botsteam(アイボッツチーム): 教育向けロボットに特化。無料の教育プログラムと共にロボットを提供し、子供たちがロボットサッカー「RoboCup」を通じてプログラミング学習を行う。
サプライチェーンでは広東省がハードウェアの製造拠点、北京が大学発ベンチャーが集中する研究開発拠点となり、役割分担が進む。
Q. 中国製人型ロボットの実用化はどこまで進んでいるのか?
派手なパフォーマンスの裏で、中国の人型ロボットはすでに多様な分野で実用化段階に入っている。例えばGraspRobotics社のロボットは、EC連携したオンライン薬局で稼働している。
これは人手では識別困難な多数のコンタクトレンズのSKUを正確にピッキングし、梱包からデリバリー準備までを自動化している事例で、実際に収益を生み出している商業利用である。

また教育分野では、i-Botsteamのロボットを通じて子供たちがプログラミング学習を進め、「RoboCup」のような大会が毎週のように開催される。ロボットは中国の子供たちにとって身近な存在となり、将来の技術者育成にも繋がっている。
さらに介護分野では、パーキンソン病患者への食事介助ロボットなどが開発され、利用者の視線で食べたいものを判断し、健康状態に応じて提供量を制御するなど高度な機能を持つ。中国企業は日本の人手不足を解決する有効なソリューションとして、市場進出にも意欲を見せている。
Q. 中国の猛追に対し、日本のロボット産業が取るべき戦略とは何か?
中国の人型ロボット市場が世界を席巻する中、日本は「自国での開発」「海外ハードの活用」「基幹部品サプライヤー」という三つの道を検討する必要がある。
特に有望なのは「活用」と「部品供給」である。
活用:中国やアメリカの高性能で安価なハードウェアを導入し、日本企業の持つソフトウェア技術やユースケース創出のノウハウと組み合わせる。例えば、山善が中国Agibotのロボットを導入し、日本に「フィジカルAIデータセンター」を設立する動きがある。
部品供給:日本は減速機、トルクモーター、サーボドライバーといったロボットの基幹部品で世界的なシェアを持つ。中国企業の追撃が激しい中、この高品質な部品供給における優位性を維持することが、日本の競争力の要となる。
データ安全保障への対応:中国製ロボット導入におけるデータ漏洩の懸念に対し、中国企業側も日本国内でのデータ取得・保存を行うクローズドな協業モデルに前向きな姿勢を見せる。リスク管理を徹底した上で、パートナーシップを進めることは十分可能である。
中国のロボット産業は今後、「多産多死」の厳しい淘汰が予想されるが、生き残った企業は世界的な巨人となりうる。
家庭用ロボットの普及には、単なるエンタメに留まらない家事代行や学習支援といった「飽きさせない価値提供」が鍵だ。
同時に、事故時のPL責任や倫理的な問題解決といった社会実装への課題も山積している。技術開発と並行した法整備やルール作りが求められる。