ビジネス虎の巻
仕事でつらい時の心の整え方/職場で関わってはいけない人/サイコパスと自己愛性パーソナリティ障害
(1416)
1.7万回視聴
2026年3月12日

「ビジネス虎の巻」、今回のテーマは「疲れない考え方」。精神科医・益田裕介が、「仕事でつらい時の心の整え方」を伝授。 <ゲスト> 益田裕介|精神科専門医 「早稲田メンタルクリニック」院長。 防衛医大から自衛隊に進んだ異色の経歴の持ち主。 YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh...
仕事でつらい時の心の整え方/職場で関わってはいけない人
日々の仕事で山積みのタスク、人間関係のプレッシャー、そして常に成果を求められる環境に身を置くビジネスパーソンにとって、心の疲れは避けられない問題であろう。心の健康は仕事のパフォーマンスだけでなく、生活の質全体に大きな影響を与える。心と脳の疲労が積み重なれば、うつ病などの深刻な状態を招く可能性も低くない。
本稿では、精神科専門医の益田裕介氏の知見に基づき、現代のビジネスパーソンが心身ともに疲弊せず、日々の困難を乗り越えるための具体的な思考法と人間関係の対処術をQ&A形式で解説する。
即効性のある呼吸法から、従来の価値観を見直す哲学的なアプローチ、そして職場に潜む厄介な人々との賢い付き合い方まで、実生活で役立つヒントを提示する。自分らしい働き方と心の平穏を手に入れるための第一歩をここから始めよう。

Q. 不安やストレスを感じた際、すぐに実践できる心の鎮静化法はあるか?
不安やストレスがピークに達した時、最も即効性があるのは「呼吸を整える」ことだ。脳が興奮状態にあると心臓の動きは速くなり、呼吸は浅くなる。これは交感神経が優位な状態を示しており、意識的にゆっくりと深呼吸を行うことで心拍数が落ち着き、それに伴い脳も冷静さを取り戻すだろう。

また、ネガティブな思考のループに陥った時は、「注意シフトトレーニング」が有効となる。これは、手を強く握ったり、お尻に力を入れたりするなど、一時的に身体の別の部位に意識を集中させる方法だ。例えば、「部長に怒られるかもしれない」という不安な思考が脳を支配している時、意図的に別の感覚に集中することで、思考の連鎖を強制的に断ち切り、心をリセットできる。スポーツ選手がPKの前にルーティンを行うのと同様に、日頃から練習し習慣化すれば、この切り替えをより素早く行えるようになるだろう。テトリスのように思考の全てを奪うようなものでも効果的であり、自分の脳から嫌なイメージをシャットアウトする習慣は極めて重要である。
Q. 「~すべき」といった既存の価値観に縛られず、思考を柔軟にするにはどうすればよいか?
現代社会において、私たちは資本主義や世間体、成果主義といった「主観1.0」と呼ばれる既存の常識に知らず知らずのうちに支配されていることが多い。「親とは仲良くすべき」「出世しなくてはならない」といった『べき論』は、時に大きな苦しみの源となる。ここから脱却し、より柔軟な「主観2.0」を持つためには、まずこの『べき論』を疑う姿勢が重要となる。
ソクラテス・メソッドのように「それはなぜなのか?」と問い詰めることで、自身の思考の根源にある文化的・社会的な刷り込みに気づける。仏教などの異なる世界観に触れることも、視野を広げる有効な手段だ。これらの教えを現代の生活にアレンジして取り入れることで、「まあ、仕方がない」と現実を受け入れることができるようになる。
「仕方がない」という考え方は、諦めを意味するのではなく、コントロールできない現実を受け入れ、不安に支配されずに日常を淡々と過ごせる成熟した心の状態を指す。この視点を持つことで、困難な状況に直面しても、不必要に苦しむことなく、前に進む力を得られるだろう。
Q. 仕事への「飽き」を感じる時、それはネガティブな兆候と捉えるべきか?
仕事に「飽き」を感じることは、必ずしもネガティブな兆候ではない。むしろ、それはその仕事に熟練し、次のレベルへと進む準備ができている「熟練のサイン」と捉えるべきだ。初めのうちは集中力が必要で視野が狭くなりがちだが、経験を積むことで余裕が生まれ、周囲の状況や全体の流れが見えてくるようになる。

外科医が手術に慣れると、執刀しながら麻酔科医や看護師の動きまで把握できるようになるのと同じ論理である。仕事に飽きた時こそ、新たな視点が生まれ、後輩の指導や組織全体の改善といった、より高度な業務への貢献が可能になる。成長機会がないと感じた場合でも、すぐに転職を考えるのではなく、1~2年は「仕方がない」と受け止め、趣味やプライベートな活動に時間を使うことも賢明だ。人手不足の時代においては、状況がいつか好転する可能性も高く、焦らず待つことも重要な戦略となるだろう。
Q. ビジネスにおける人間関係の悩みに効果的に対処するにはどうすればよいか?
職場の人間関係は「ドライに割り切る」ことが非常に重要である。会社は給料をもらいに行く場所であり、全員に好かれる必要はないと理解すべきだ。好かれるべき人を限定し、それ以外の人間関係は必要最低限にとどめるのが賢い。職場の人間関係を個人間の感情的な結びつきとして捉えるのではなく、「役割」や「機能」として俯瞰的に見ると、感情的な消耗を避けられる。
例えば、直属の上司との馬が合わない場合、その上の上司と良好な関係を築くなど、関係性の構築は戦略的に行うべきだ。心理学の「ホークダブ理論」によれば、社会には攻撃的な「タカ派」と協調的な「ハト派」が常に一定数存在する。相手の言動や行動パターンを「麻雀の捨て牌を読むように」観察し、その人がどのようなタイプであるかを見極める必要がある。これにより、自身の立ち振る舞いを状況に合わせて柔軟に調整し、不要な衝突を避けながら有利に仕事を進めることが可能になるだろう。
Q. 職場で特に注意し、距離を置くべきパーソナリティのタイプはあるか?
会社には、関わることで自身が疲弊したり、不利な状況に陥ったりする可能性のある特定の人々が存在する。精神科医の視点から、特に距離を置くべき3つのタイプを理解することは重要である。
一つ目は「自己愛性」タイプだ。彼らは自身の能力や実績を過度に評価し、他人を利用することに躊躇がない。チームの成果を自分の手柄にしたり、相談に乗ると見せかけて自慢話に終始したりする傾向がある。自己中心的な言動が多く、深い関係を築くのは避けるべきである。
二つ目は「依存性」タイプだ。自信がなく、些細なことでも他人に判断を委ねようとする。例えば、レストランでメニュー一つ決められない、メールの確認を何度も依頼するといった特徴が見られる。親切心から世話を焼きすぎると、彼らの依存の対象となり、最終的に自身の心身が疲弊してしまう。

三つ目は「反社会性」タイプである。彼らはモラルが低く、「バレなければ何をしてもいい」といった考えを持ち、平気でルールを破る。脳の構造上の問題である場合も多いため、個人の努力で改善を促すのは困難である。このようなタイプの人材に対しては、個人的に対処しようとせず、組織全体の問題として捉え、チームで対応する必要がある。いずれのタイプも、その言動の背景には個人の性格だけでなく、脳機能や思考パターンが影響していることを理解し、必要に応じて適度な距離を保つことで、自身の心を守ることが可能だ。
Q. 部下を叱る側として、人間関係を損なわずに効果的な指導を行うには何に注意すべきか?
叱る側の立場として、まず最も重要なのは「人格を攻撃しない」ことである。叱責は具体的な行動や成果に向けられ、個人の尊厳を傷つけるものであってはならない。叱る際は、いきなり本題に入るのではなく、「最近忙しいか?」など、相手の状況を尋ねることから始めると良いだろう。
これにより、相手がミスの背景にある事情を説明する機会が生まれ、指導者も状況をより正確に把握できる。感情的に叱りつけるのではなく、「どうすれば防げたと思うか?」といった問いかけを通じて、相手自身に問題解決のプロセスを考えさせることも有効だ。最後に「次から頑張ろう」と許しと前向きな言葉を添えることで、信頼関係を保ちつつ、相手の成長を促せる。
また、同じミスを繰り返す部下に対しては、「できない」のではなく「やらない」と安易に決めつけるべきではない。多くの場合、それは能力の限界や理解度の問題である可能性が高い。そのような場合は、個人の努力に任せるのではなく、業務の割り振りを見直したり、ミスを織り込んだ上で計画を立て直したりするなど、構造的なアプローチで対応することが現実的である。個々人の能力には差があることを認め、適材適所の視点を持つことで、チーム全体のパフォーマンスを最大化し、誰もが働きやすい環境を構築できる。