PIVOT TALK BUSINESS
成功するビジネスの“錬金術”とは?
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2026年3月20日

世界最大の民泊プラットフォーム・Airbnbは空き部屋に商品価値を見出したことで成功を収めた。 こうした商品として再定義する力を、野本遼平氏は「価値移転」と呼ぶ。 世界に影響を与えるビジネスを生み出すには?事例から深掘り <ゲスト> 野本遼平|グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター 慶...
「ゼロから作らない戦略」:現代ビジネスが富を生む「価値移転」のメカニズムとは?
現代社会において「イノベーション」はしばしば、何もないところから全く新しい価値を生み出すことと誤解されがちである。しかし、本当にビジネスを加速させ、巨大な富を築き上げる企業の根底には、そのような「0から1を生み出す」発想とは異なる、ある共通の仕組みが存在する。

それは、既存の価値を見抜き、ある場所から別の場所へ「価値を移転」させることだ。本記事では、その「価値移転」の具体的なメカニズムを解き明かし、日本企業が世界の舞台で競争優位性を確立するためのヒントをグロービス・キャピタル・パトナーズの野本遼平氏に聞いた。
Q. イノベーションの本来の姿とは何だろうか?
多くの人々は、イノベーションをゼロからの創造物だと考える。しかし、真のイノベーションは既存の資源やアイデアを「新結合」することで生まれると、経済学者のシュンペーターが既に指摘している。つまり、イノベーションの前に、必ず何らかの“仕入れ”が存在するということだ。

例えば、Airbnbの事例を見てみよう。彼らは何も新しい「部屋」を作ったわけではない。もともと存在していた人々の「空き部屋」を、宿泊施設というリソースとして「再定義」し、テクノロジーを介して需要がある市場へ仲介した。
また、Facebookのような巨大SNSの広告収益も、ユーザーの提供するデータという“ほぼ無料”の「仕入れ」に基づいている。これは新しい市場を創造するだけでなく、既存のパイを奪い合う「予算の奪い合い」でもあると考えるのが現実的だ。
つまり、いかに巧みに資源を“仕入れ”、異なる価値観を持つ経済圏の間でそれを“移転”させるかが、ビジネスの成否を分けるのである。
Q. 巨大な富を生み出す「価値移転」のメカニズムとは?
「価値移転」とは、一言で言えば、あるエコシステム(経済圏)で低く評価されているリソースを、別のエコシステムで高く評価される形で提供し、利潤を得る仕組みだ。これは、地球上の二つの場所で、同じ物が異なる価格で取引されるような現象と似ている。このメカニズムを成立させるには、主に三つの柱が不可欠だ。

一つ目は「分断されたエコシステム」が存在すること。もし二つの経済圏が完全に一体化していれば、価値は均一化され、利鞘は生まれない。
二つ目は「リソースの特定と再定義」である。放置されていたり、価値が見過ごされがちだったりする資源(例: 空き部屋、個人の隙間時間)を見出し、市場価値のあるものとして位置づけ直す視点が重要となる。
三つ目は「ゲートキーパー(関所)」の構築だ。誰でも仲介できるようでは競争が激化し、利潤が消滅してしまう。そのため、自社だけがその価値移転のプロセスを独占的に担えるような、参入障壁を作り上げる必要がある。
Q. 莫大な利益を独占し続けるための「関所」はどのように構築するのか?
ビジネスが巨大な利益を生むようになると、必ず競合がその市場を狙ってくる。そこで重要になるのが、利益を守る「関所」(モート)の構築である。これはピーター・ティールも提唱するように、独占状態を生み出すための不可欠な要素だ。

関所の種類は主に三つある。一つは、他社が容易に模倣できない「テクノロジー」によるもの。近年話題の生成AIは、まさにこれに当たる。Anthropicが大量の中古本を買い込んで裁断し、AI学習データにすることで、新たな価値を創造した事例がある。この中古本は、これまで価値が低いと見なされていたが、AI技術によって高価なリソースへと変貌を遂げたのだ。
二つ目は、法律や許認可、契約によって参入障壁を作り出す「レギュレーション」だ。ロビー活動により法規制を有利にしたり、顧客と長期的な契約を結んだりすることで、他社の追随を許さない状況を作る。テレビ局がかつて電波法によって強力な関所を築いていたのもこの典型例だ。
三つ目は、膨大な人材育成や複雑なサプライチェーンなど、他社には真似できない規模と質を持つ「オペレーション」だ。アクセンチュアのオフショア開発は、高い人件費の先進国と、賃金が低い発展途上国の優秀な人材という分断されたエコシステムを、この強固なオペレーションによって結びつけ、莫大な価値を移転させた成功例である。
Q. 「スキマ時間」を事業に変えるタイミーは、どのような価値移転の仕組みを持つのか?
日本企業の事例として、タイミーの「スキマバイト」サービスも価値移転の好例だ。タイミーは、学生や主婦が持て余している「数時間単位のスキマ時間」に新たな価値を見出し、それを飲食業や物流業などの「短時間でも人手が欲しい」エコシステムへ提供する。ここに分断されたエコシステム(余剰時間と人手不足)とリソースの再定義(スキマ時間の労働力化)が明確に存在する。

タイミーが築いた「関所」の一つは、他社に先駆けて労働関連法規のグレーゾーンを弁護士と共にクリアし、合法性を担保しながら市場を切り開いた点にある。大手が慎重になる間にも、迅速な法解釈と市場投入を実行したのだ。もう一つの関所は、その「オペレーション」にある。短時間労働における受け入れ企業のオンボーディングやマッチングの精度向上など、泥臭いまでの最適化を徹底したことで、ユーザーと企業の双方にとって使いやすいプラットフォームを確立したのだ。
Q. Facebookはなぜ先行のMySpaceを打ち破れたのか?
Facebookの成功は、「ネットワークの価値移転」の好例と言える。先行するMySpaceが「ゼロから友達作りを始めるSNS」だったのに対し、Facebookは大学内コミュニティなど「既に存在するリアルな人間関係」を、ごっそりオンラインプラットフォームに「引っ越し」させるアプローチを取った。
この戦略は、ユーザーにとって「初めまして」から人間関係を構築する手間を省き、最初から既にコミュニティが形成された状態で利用開始できるという圧倒的な利便性を提供した。結果として、FacebookはMySpaceよりもはるかに速いペースでユーザーとネットワーク効果を獲得し、市場を席巻したのだ。
この事例は、ビジネスにおける「先行者優位」が、必ずしも事業を開始した時期の早さを意味しないことを示している。真の先行者とは、特定の「価値移転のムーブ」を誰よりも早く仕掛け、それを独占する仕組みを築いた者を指す。ビジネスパーソンは、自社の製品やサービスが、どのような「価値移転のムーブ」を生み出せるのかという視点を持つことが不可欠だ。
Q. 現代のビジネスにおいて、価値移転がもたらす課題やリスクは何だろうか?
価値移転の仕組みは強力だが、永久不滅なものではない。テクノロジーの進化、市場の変化、競合の出現によって、関所が破られる可能性は常に存在する。
例えば、かつて盤石な強さを誇ったテレビ局も、インターネットメディアの台頭によりユーザートラフィックが分散し、広告収入という“お財布”の奪い合いの構図が変化したのだ。また、価値移転はしばしば法的なグレーゾーンに踏み込んだり、社会に対する外部不経済(迷惑)を生み出したりするリスクを伴う。米国の大手IT企業がしばしば巨大な問題を引き起こしながらも成長するのは、法規制を「後から帳尻を合わせるもの」と捉え、まず事業の拡大を優先する側面があるためだ。
一方、日本の企業は「誠実さ」を重んじる文化から、このようなリスクを避けがちである。それが、世界的な競争において時にハンディキャップとなるケースも散見されるのだ。
今後は、官民が協力し、新たな価値移転を促進するためのルールメイキングに関与するなど、日本ならではの「ゲームの進め方」を模索する必要があるだろう。