PIVOT TALK BUSINESS
日本人に足りない “幸せの仕組み化”
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2026年2月28日

人間は1日に3万回の意思決定をしている。 その鍵を握るのが”淡い感情”=アフェクトだと、相良奈美香氏は言う。 日常生活に幸せを”作る”には?行動経済学の視点から聞いた。 <ゲスト> 相良奈美香|行動経済学のスペシャリスト 行動経済学博士。2013年より欧米の金融や製薬など幅広い業界で同理論を導入し...
非合理な思考の罠を避け、幸せな選択をする方法:行動経済学が解き明かす人間の本質
私たちは日々の生活で無数の意思決定をしている。このうち多くの選択は、意識しないうちに感情や周囲の状況によって形作られているのを知っていたか。実は、合理的に判断していると思い込んでいるその裏で、人間の行動を司る「行動経済学」のメカニズムが働いている。

行動経済学の専門家である相良奈美香氏は、私たちがより良く、より幸せに生きるための鍵として、心の奥底に潜む「アフェクト(淡い感情)」の理解とその活用を提唱している。AIとの賢い付き合い方から、三日坊主や先延ばし癖の克服、さらには自らの幸福度を高める方法まで、行動経済学の視点から具体的な実践法を深掘りする。
自分の意思決定を支配する非合理的な罠を見抜き、科学的なアプローチで理想の自分を実現する術を身につけていく。
Q. 行動経済学が「人間は非合理」と説くのはなぜか?
行動経済学は、伝統的な経済学の「人間は常に合理的」という前提に疑問を呈する比較的新しい学問だ。従来の経済学では、人間は理想的な意思決定を行うとされていたが、現実は異なる。例えば、衝動的に不要な買い物をしたり、資格勉強をしなければと分かっていてもつい動画を見て時間を無駄にしたりと、非合理的な行動は枚挙にいとまがない。

行動経済学は、このような非合理な行動の背後にあるメカニズムを、認知の癖、状況、感情という三つの要素から解き明かしていく。特に感情、中でも「アフェクト」と呼ばれる淡い感情が、意思決定に大きな影響を与えていることを重視する。
人が必ずしも理想的な行動ばかりを取るわけではないという現実を受け止め、その心理を分析することで、より良い行動へと導くヒントを提供するのが行動経済学の醍醐味である。
Q. 我々の意思決定の9割を支配するという「アフェクト」とは何か?
アフェクトとは、喜びや悲しみといったはっきりとした感情とは異なり、無自覚に働く「なんとなく心地よい、なんとなく不快」といった淡い感情を指す。人は1日に3万件以上の意思決定をしており、その全てを論理的に処理する時間はないため、システム1と呼ばれる直感的な判断プロセスを使い、このアフェクトを判断基準に高速で処理する。つまり、日々の意思決定の多くが無意識のアフェクトに支配されているというのだ。
例えば、ある遊園地のイラストを見た時に、「楽しそう」と感じる人もいれば、「人が多くて嫌だな」と感じる人もいる。前者はポジティブアフェクトを、後者はネガティブアフェクトを抱いている。この淡い感情が、その後の「遊園地に行くか行かないか」という具体的な行動決定に直結するのである。アフェクトは強度が異なることはあるものの、大きくポジティブとネガティブに分けられる。
私たちは意識しない限り自分のアフェクトに気づきにくいが、これこそが行動や幸福に影響を与える重要な要素なのだ。
Q. 人間が非合理な判断を下す背景にある「認知の癖」と「状況」の罠とは何か?
人間の脳には、素早い直感的判断を担う「システム1」と、論理的に熟考する「システム2」という二つの処理システムがある。日々の膨大な意思決定を効率化するため、多くの場面でシステム1に頼ってしまうため、時に非合理な判断に繋がる。たとえば「ボールペンと替芯の合計120円、ボールペンは替芯より100円高い。替芯はいくら?」という問題に対し、すぐに20円と答えてしまうのがシステム1による認知の癖の一例である。正解は10円だが、熟考せず直感で回答する癖がこのような間違いを生む。

また、人は自分の意思で決めているつもりでも、実際は周囲の「状況」に誘導されていることが多い。その典型が「松竹梅」の選択である。多くの人が真ん中の「竹」を選ぶのは、そのコースが最も価値があるからではなく、「一番高くも安くもない」という比較状況によって、心理的に選択されやすいからに過ぎない。
私たちは結婚のような人生の大きな決断でさえ、最初に感情(システム1)で決め、後からその決断を言語化(システム2)して正当化する傾向がある。人が自分の行動を「合理的」と説明する際も、しばしば感情的な選択を後付けの理屈で覆い隠していることを自覚することが重要である。
Q. ポジティブアフェクトを活用し、良い習慣を身につける具体的な方法とは?
新しい良い習慣を定着させるためには、その行動が「楽しい」と感じられるポジティブアフェクトとセットにすることが不可欠である。楽しくないことは習慣にならないという現実を踏まえ、行動経済学ではスモールステップから始めることを推奨する。例えば「毎日3km走る」といった大きな目標ではなく、「ランニングシューズを履いて外に出るだけ」というごく簡単な行動を最初のステップとする。そして、それを実行できたら声に出して自分を褒めることが重要だ。

褒めることでポジティブアフェクトが喚起され、脳がその行動を「良いもの」と認識しやすくなる。この「達成と自己肯定」のループを繰り返すことで、行動への心理的ハードルが下がり、次第に無理なく継続できるようになる。
さらに、形から入る、例えばお気に入りのウェアを買うことも有効な戦略だ。新しい素敵なアイテムは、それ自体がポジティブアフェクトを生み出し、行動のモチベーションとなる。「どうせするなら楽しく」という視点が、習慣化を成功させる鍵を握る。
Q. やめたい悪い習慣や先延ばし癖を断ち切る効果的な対策はあるか?
禁煙のような「やめたい」習慣を断つのは、「始めたい」習慣よりも難しい場合が多い。このような時は、ネガティブアフェクトを意図的に活用することが有効だ。例えば、禁煙を周囲に宣言し、もし失敗したら高額な罰金を支払うなど、自分にとって明確な損失が発生する状況を作る。宣言を破ることへの罪悪感や金銭的損失といったネガティブアフェクトが、習慣の快楽を上回り、行動を変える強力な動機付けとなる。
また、多くの人が抱える仕事の先延ばし癖も、スモールステップで克服できる。苦手な作業にはネガティブアフェクトが伴い、「もっと重要なことがある」と脳が合理化を図ってしまう。この時も「3時間集中して作業する」といった大きな目標ではなく、「まずパソコンを起動して必要なファイルを開くだけ」という超小規模な行動から始めるのが良い。
そして、それができたらすぐに「自分は偉い」と声に出して褒める。これを繰り返すことで、脳がポジティブなフィードバックを受け、作業への心理的な抵抗が徐々に薄れていく。慣れないうちは特に、口に出して褒めることで効果が高まるという。
Q. AIを活用する際に注意すべき「確証バイアス」とその回避方法は?
AIへの相談は、効率的な意思決定に役立つ一方で注意が必要だ。一つは、AIが誤った情報を提供する「ハルシネーション」のリスクであり、得られた情報の確かさは常に自分で確認しなければならない。
もう一つ重要なのが「確証バイアス」である。これは、自分の考えや信念を裏付ける情報ばかりを収集し、反対意見を無視する人間の心理的傾向を指す。AIは質問の仕方によって回答を調整するため、たとえば「Aが良いと思うけど、どう思う?」と聞くと、AIはAが良い理由を多く提供し、結果として自分の確証バイアスを強化してしまう可能性がある。

このバイアスを避けるには、中立的な質問が肝要だ。「AとBのメリット・デメリットを教えて」のように、比較対象を平等に提示させることが大切である。さらに上級者向けの方法としては、もしAが良いと考えている場合でも、あえてAIに「Bが良い理由」を尋ねたり、「自分の盲点は何?」と問うたりすることで、客観的な視点を取り入れ、より多角的な意思決定へと繋げることができる。