PIVOT TALK BUSINESS
【中国の再エネ覇権】脱炭素技術の圧倒的なシェア
(1015)
8,577回視聴
2026年2月24日

世界的に脱炭素技術の圧倒的なシェアを誇る中国。発電量はアメリカの2倍・発電容量は3倍。中国の再エネ拡大の理由とは。李雪連氏に中国の再エネ覇権について聞いた。 <ゲスト> 李雪連|丸紅経済研究所 上席主任研究員 IT企業を経て2005年に丸紅入社後 丸紅経済研究所にて主に中国・東アジア商品・エネルギ...
世界の電力市場を支配する「電気国家中国」の衝撃
「電気国家中国」。この聞き慣れない言葉は、世界最大の地政学コンサルティング企業ユーラシアグループが発表した「2026年の重大リスク」の一つに挙げられた。これは単なる環境問題やエネルギー問題に留まらず、世界の覇権構造、特にAI開発に象徴される最先端技術競争の行方を左右するテーマとして、今、国際社会の注目を集めている。
本稿では、中国がなぜこれほどまでに再生可能エネルギー分野で圧倒的な存在感を示し、「電気国家」と呼ばれるようになったのか、その実態と背景、そして米中間の新たな競争軸としての「電力」の重要性を深掘りする。

Q. なぜ今、「電気国家中国」が世界の重大リスクと目されているか?
「電気国家中国」は、中国が再生可能エネルギー分野で世界の覇権を握ることを意味する。
太陽光、風力、電気自動車(EV)といった脱炭素技術のほぼ全方位で、中国は世界的に圧倒的なシェアを確保しており、ユーラシアグループの報告は、その現状を象徴的に表している。
象徴的なのは、レポート中の「アメリカが20世紀のエネルギー(化石燃料)を世界に求めている間に、中国は21世紀のインフラ(再生可能エネルギー)を提供している」という指摘だ。
すでに中国の再生可能エネルギー関連技術の輸出額は、アメリカの化石燃料輸出額を上回っている。これは、エネルギー分野における両国の立ち位置が逆転しつつある現実を明確に示していると言えよう。
この問題の重要性は、米中間の覇権争いの本質が、半導体のようなハードウェア技術だけでなく、そのハードウェアを動かす「電力」にもある点に起因する。AI開発のような膨大な電力を消費する技術においては、電力の安定供給能力とコストが、競争力の源泉となるため、電力分野での優位性が、技術競争全体の勝者を決定づける可能性さえ指摘されている。
Q. 中国の再生可能エネルギー導入状況はどのようになっているか?
中国における再生可能エネルギーの導入は、急速に進展している。昨年初めて、総発電量に占める再生可能エネルギーの割合が3割を超え、水力14%、風力11%、太陽光6%という構成になっている。特に太陽光発電は原子力発電のシェアを上回った。

中国の総発電量はG7全体に匹敵する巨大な規模である。この膨大なエネルギー需要を抱える国で再エネ比率が3割を達成したことは、その絶対量が極めて大きいことを意味し、国際社会でも非常に注目されている。この傾向は今後も続くと予測される。
設備容量で見ると、さらに中国の再エネ推進の実態が見えてくる。2023年には風力と太陽光を合わせた再生可能エネルギーの発電容量が、石炭火力の設備容量を初めて上回ったのだ。これは、将来的に再エネが中国の電力供給の主力となる方向性を示す、歴史的な転換点である。発電効率や送電網の制約といった課題は残るものの、再エネへのシフトは明確な流れだと言えよう。
Q. なぜ中国の再生可能エネルギーは世界でこれほど低コストなのか?
中国の再生可能エネルギー、特に太陽光や洋上風力のコストが国際的に見て際立って低い主な理由は、以下の二点にある。
垂直統合モデル:再生可能エネルギー製品の製造プロセスにおいて、重要鉱物などの原材料の調達・精錬から中間材、そして完成品の製造までを国内で一貫して行う垂直統合体制を確立している。これにより、サプライチェーン全体のコストを大幅に削減している。
規模の経済:中国は世界最大の生産国であるため、圧倒的な大量生産により一台当たりの製造コストを極限まで引き下げている。市場競争が激しく、採算度外視で生産せざるを得ない局面さえ見受けられる。加えて技術革新も弛まず進んでいるため、コストは一層低下している。
かつては政府からの手厚い補助金が再エネ産業を支えていたが、その多くは現在終了している。それでもなお低コストを維持しているのは、この垂直統合と規模の経済による構造的な強みと、熾烈な市場競争がコスト削減をさらに加速させているためと言える。
Q. 中国が再生可能エネルギーを強力に推進する理由は何か?
中国が再生可能エネルギーの推進に国家レベルで力を入れている背景には、経済、安全保障、環境といった複数の戦略的な理由が絡み合っている。
一つはエネルギー安全保障の確立である。

現在、中国は原油の約7割、天然ガスの約4割を輸入に依存しており、これは中国のエネルギー安全保障上、最大の脆弱性と考えられている。国産比率がほぼ100%の再生可能エネルギーへの転換は、対外依存度を低減し、エネルギー自給率を高める上で不可欠な戦略である。電気自動車へのシフトにより石油消費を減らし、その電力源を国産の再エネで賄うという大きな流れが存在する。
次に、国内の景気対策としての側面だ。不動産不況で経済が停滞する中、再エネへの大規模投資は新たな成長分野として期待されている。特に、海外での需要軟化や貿易摩擦により輸出が滞りがちな再エネ関連製品を、国内での大規模導入によって消化することで、生産と雇用を維持するという狙いも指摘されている。
さらに、気候変動対策と国際的な圧力も無視できない要素だ。中国は2030年までのカーボン排出量ピークアウト、2060年までのネットゼロ排出という国際公約を掲げている。加えて、大気汚染問題などの国内環境課題も抱えている。これらを解決し、持続可能な発展を遂げる上で、石炭火力に代わる再エネの導入は急務である。
Q. 米中間の電力・エネルギー競争は、今後の技術覇権にどう影響するか?
米中間の電力・エネルギー分野の競争は、今後の技術覇権争いに決定的な影響を与える可能性がある。
特に、AI開発のような膨大な電力消費を伴う分野において、安価で安定した電力供給能力が戦略的優位性をもたらすからだ。
現状、中国の総発電容量は約3.9テラワットと、アメリカの約1.3テラワットと比較して約3倍もの規模を誇る。この圧倒的なインフラ規模が、将来的な産業発展の土台を築いている。

電気料金に関しては、国際エネルギー機関(IEA)の統計では、大口産業用電力料金が中国の方がアメリカより若干高いとされている。これは、料金制度の自由化が進んでいないことや、家庭用料金を低く抑えるための産業用料金への転嫁が影響していると見られる。
しかし、実態は統計の数字とは異なる。
中国政府が奨励するAIデータセンターなどの特定産業に対しては、各地の地方政府が誘致合戦の中で破格の優遇料金を提供している。
これはNVIDIAのファン・ジェンスンCEOが「中国の電気はほぼタダだ」と述べた発言の背景にもある。
このような「戦略的」な電気料金設定は、実質的な産業補助金として機能し、膨大な電力が必要なAI開発競争において、中国に圧倒的なコスト優位性をもたらす可能性が高い。これは中国独自の産業育成モデルであり、再生可能エネルギーに必要なレアアース精錬工程の9割以上を掌握するサプライチェーンの支配力と相まって、「中国式エコシステム」を形成している。