PIVOT TALK FOOTBALL
世界で勝つサッカー経営論:チャンピオンズリーグへの道
(825)
5,828回視聴
2026年2月22日

ベルギー1部リーグ シント=トロイデンVVのCEOを務める立石敬之。8年間の経営から見えてきた、クラブ経営の真髄とは何か?今期、チャンピオンズリーグ出場権を得るためにどう攻めていくのか?世界で勝つためのクラブ経営について、立石CEOに聞いた。 <ゲスト> 立石敬之|シント=トロイデンVV CEO ...
ベルギーリーグを席巻!シント=トロイデンVVが語る「覚醒の経営論」と「ジャパンウェイ」の真価
ベルギーリーグで過去最高成績の2位という快挙を達成したシント=トロイデンVV。欧州のサッカー界で躍進を続ける彼らが、どのようにしてその成功を築き上げたのか、立石敬之CEOが経営哲学と戦略を語った。本稿では、選手育成の秘訣から、海外で「ジャパンウェイ」を貫く方法、そして激動の欧州サッカーにおけるクラブ経営のリアルまで、世界で戦うための示唆に富んだ経営論に迫る。

Q. なぜシント=トロイデンVVは今シーズン過去最高成績を達成できたのか?
サッカークラブの経営は、勝敗という感情的な側面と財務の健全性という相反する要素を両立させることが不可欠だ。まして欧州サッカーの本場ベルギーで、日本人がクラブを経営することは当初「異物」と見なされ、最初の3年間は現地の信頼を得るのに大変苦労したと言う。
しかし、7年にわたる挑戦の結果、理念を貫き緻密な戦略を積み重ね、ベルギーリーグで過去最高成績となる2位を記録した。これは目先の勝利だけでなく、日本人としての理念を貫いてきた成果である。
Q. 今季の躍進を支えた具体的な三つの戦略は何があるか?
今シーズンの躍進には、昨季の反省を踏まえた三つの戦略的改善が大きく機能したと言う。
早めのチーム作り:昨シーズンのスタートダッシュの失敗を教訓に、今季は6月中にチームの骨格を固めた。これによりシーズン序盤からの安定した戦いを実現した。
国際大会期間中の離脱防止:アジアカップやアフリカネーションズカップによる主力選手の長期離脱リスクを回避するため、今季は該当国の代表クラス選手の獲得を見送る戦略を取った。
国籍の集中によるチームワーク向上:ベルギーリーグの他チームが平均17カ国籍の選手を擁する中、今季は9カ国籍に抑制した。これにより言語や文化の壁が低下し、コミュニケーションが円滑化。チームワークが劇的に向上したと言う。多様性を重視しすぎると一体感を失うリスクがあり、「身の丈に合った多様性」を選択することが、予算で劣るチームが上位クラブと渡り合う有効な戦略となる。
Q. 多くの日本人選手が育っているが、選手が飛躍する「覚醒のスイッチ」とは何か?
多くの日本人代表選手を輩出できるのは、「世界で戦える選手」の明確な基準を持ち、選手のメンタルを常時観察しているからだと立石氏は語る。


選手が真に飛躍するのは、才能の開花だけでなく、「自分がこのチームの中心であり、勝敗の責任は自分にある」という強烈な当事者意識を持った瞬間、「覚醒のスイッチ」が入った時だ。この瞬間に成長は爆発的に加速すると言う。
覚醒した選手は、勝敗を他人のせいにせず、すべてを自分事として捉えられる。これはビジネスパーソンにも共通する成長の法則である。採用においては、プレー中の仕草、過去のインタビュー、家族構成など、あらゆる情報から選手の内面を分析し、目標意識や自己分析能力、ハングリー精神を徹底的に調査し見極めるという。
Q. 欧州サッカー特有のクラブ経営の難しさと「ジャパンウェイ」の有効性についてどう考えているか?
欧州の経営現場では、物事が計画通りに進まないことを前提に、7割は力を抜いて対応し、残りの3割の「絶対に譲れない核」だけは死守するというメンタルコントロールとバランス感覚が重要である。
当初「細かすぎる」と現地スタッフに反発された日本流の緻密なマネジメント、いわゆる「ジャパンウェイ」も、粘り強く結果を出すことで今やチームの強みとして認められている。特にチームの一体感を醸成する上で日本流は有効であると言う。また、地元ファンがアイデンティティを共有できる地域出身選手を起用するなど、ローカルへの配慮も欠かせない。この絶妙なバランスが、クラブと地域の強固な信頼関係を築いているのだ。
Q. チャンピオンズリーグ出場を見据える中で、クラブの今後の展望と経営戦略はどのようなものか?
クラブ経営において最も優先すべきは、「我々は何者で、何をしたいのか」というフィロソフィー(理念)の確立である。この理念が採用をはじめとする全ての事業活動の判断基準となる。

チャンピオンズリーグ(CL)に出場すれば、グループステージだけで年間売上の2倍以上にあたる70〜80億円もの賞金が手に入るため、クラブ経営は根底から変わる。これは大きな転換期だが、「急成長の罠」も孕んでいる。一度その予算規模に慣れてしまうと、翌年以降も出場し続けなければ経営が破綻するリスクを抱えるのだ。
そのため、得た資金は高額年俸に使うだけでなく、育成環境や優れた指導者の招聘など、持続可能な未来への投資に賢く使うべきである。監督に依存せず、クラブのフィロソフィーを体現する生え抜きスタッフが組織の根幹を支え、監督は「入れ替え可能なリーダー」として機能する体制を築くことが理想である。
Q. 立石氏が描くシント=トロイデンの究極的なミッションと日本のサッカー界への貢献とは何か?
シント=トロイデンが今後さらに飛躍するために最も重要なのは、クラブの挑戦を支えてくれるスポンサーやファンといった「仲間(ファミリー)」の輪を広げることである。この支援の輪がクラブをCL常連へと押し上げる力となる。
クラブの役割はサッカーだけに留まらず、現地でジャパンフェスを開催するなど、アニメや日本食といった多様な文化を発信する「大使館」のような役割を担っている。これは欧州と日本の架け橋となる取り組みである。
CEOとしての最終的な夢は、シント=トロイデンをCLの舞台に導き、その舞台で日本人指導者を指揮させることだ。そして将来的には、スポーツベッティングの財源活用なども含め、日本のスポーツ文化全体を世界レベルに引き上げたいと考えている。これはまさに日本代表が世界で勝つという目標を具現化する道筋を示しているのだ。