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【世界経済秩序】「トランプ政権終われば元に戻る」は幻想
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2026年2月19日

貿易体制・秩序の危機。アメリカと世界の温度差とは。日本と世界の意識の違いとは。アメリカの今後の動向。 なぜ世界経済の秩序が崩壊しつつあるのか菅原淳一氏に聞いた。 <ゲスト> 菅原淳一|オウルズコンサルティンググループ シニアフェロー OECD日本政府代表部専門調査員、みずほリサーチ&テクノロジーズ...
激動の世界経済下、日本企業はこう生き残る:新常態における戦略的対応
米国第一主義や保護主義が台頭し、国際経済秩序が大きく変貌する中で、日本企業は未曾有の課題に直面している。特に、「トランプ大統領の任期が終われば状況は元に戻る」といった楽観論は現実離れしており、むしろ現在の保護主義的な潮流を新たな常態として認識する必要がある。
本稿では、動画で提示された専門家の見解を基に、短期的な対応から中長期的な事業戦略まで、日本企業が激動の時代を生き抜くための戦略と心構えをQ&A形式で解説する。

Q. 米国の保護主義は一過性のものと捉えてよいでしょうか?
米国の保護主義は一過性の政治現象ではなく、もはや党派を超えた中長期的な潮流である。多くの企業が「トランプ政権の任期さえ終われば元の状況に戻るだろう」と期待しているが、そのような考え方は避けるべきである。
実際に、トランプ前政権下で導入された対中関税のほとんどは、バイデン現政権になっても維持され、一部ではEV関連関税のようにさらに引き上げられたケースもある。これは「米国第一」という理念に基づく製造業の保護・育成政策が、特定の政権に限定されない共通の認識であることを示している。

環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)に関しても、トランプ政権が離脱した後、バイデン政権下でも復帰はなかった。環境変動対策のパリ協定とは異なり、通商政策における保護主義的流れは一貫しており、次の政権が共和党であろうと民主党であろうと、この大きな方向性は変わらないと見るべきだ。変化を座して待つ「様子見」の姿勢こそが、現代における最大のリスクであると言えるだろう。
Q. 日本企業が現在の国際情勢において特に留意すべき短期的な課題は何ですか?
日本企業にとっての短期的な最優先課題は、米国が実施する「トランプ関税」への対応である。特に、今年の秋に予定されている米国の中間選挙に向けて、関税政策に変化が生じる可能性が高いため、その動向を注視する必要がある。
中間選挙のキーワードは「アフォーダビリティ(手頃な価格)」である。インフレによる物価高騰に苦しむ米国民の不満を和らげるため、政権は一般消費財や食料品など、生活必需品に対する関税を免除または延期する傾向にある。企業は、この動きが自社の製品に与える影響を予測し、サプライチェーンや米国での現地調達率の見直しを検討する必要があるだろう。
一方で、日本への相互関税の根拠となっている法律が仮に違憲判決を受けたとしても、米国政権が関税を完全に撤廃するとは限らない。別の法律を根拠とした「プランB」を適用し、関税を維持する可能性は高い。ゆえに、安易な期待は禁物であり、関税が存続する前提で短期的な戦略を練ることが重要である。
Q. USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直しは、日本企業にどのような影響を与えますか?
USMCA(旧NAFTA)の見直しは、日本企業、特に自動車産業やエレクトロニクスメーカーにとって最大の懸念事項の一つである。トランプ政権は、USMCAを通じてカナダやメキシコから米国への輸出が増え、貿易赤字が拡大していると批判する。
特に問題視しているのは、中国企業がメキシコを生産拠点とし、メキシコ経由で米国に輸出する「迂回輸出」だ。米国はこれを阻止するため、USMCAをより厳格なものにするか、場合によっては3カ国協定を解体し、米国とメキシコ、米国とカナダの二国間協定に切り替えることも視野に入れている。これにより、現在の関税ゼロの恩恵が失われるリスクがある。
多くの日本企業は、この協定を前提に米国・メキシコ・カナダ間での複雑なサプライチェーンを構築してきた。例えば自動車部品は、国境を何度も行き来して最終製品となることも珍しくない。もし無関税の前提が崩れれば、サプライチェーンが寸断され、コストが壊滅的に増大する恐れがある。
交渉は今夏にも開始される予定だが、米国、カナダ、メキシコ間の意見対立が予想され、難航し長期化する可能性は高い。日本企業は、この見直しが北米事業の根幹を揺るがしかねない重要事項として、その行方を注視し、代替策の検討を急ぐ必要があるだろう。
Q. 世界経済秩序の変化が日本企業に与えるリスクとチャンスとは何ですか?
米国一極支配の終焉は、その安定下で繁栄を享受してきた日本にとって脅威である一方で、新たなビジネスチャンスを生む好機でもあると捉えるべきである。企業は地産地消型で米国拠点を強化するのか、あるいは関税率の低い第三国から米国へ輸出するのかといった戦略の再検討を迫られている。

各国が自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結に積極的になっている。これを戦略的に活用すれば、新しいサプライチェーンを構築し、競争優位性を確立できる可能性がある。例えば、将来的にEUとインドの間でFTAが発効すれば、日本企業はヨーロッパの拠点を活用してインド市場へ進出したり、逆にインドで生産した製品をEUに輸出したりするなど、従来とは異なる事業展開が可能となるだろう。
米国向け輸出における各国の関税率は常に変動している。かつてインドに対する関税はASEAN諸国よりも高かったが、最近の合意により、その率が下がりASEANよりも有利になった。このように輸出拠点としての国の有利不利は日々変化するため、どの国を生産拠点にして米国市場を狙うのかといった情報戦を制することが、企業にとって極めて重要である。
Q. 日本の政治基盤の安定は、国際的なリーダーシップ発揮にどのように寄与しますか?
最近の選挙での自民党の大勝により、日本国内の政治基盤が安定したことは、日本の外交力強化にとって非常に大きな意味を持つ。国内政治が安定していない国は、国際社会で強力なリーダーシップを発揮しにくいからである。
現在、英国、ドイツ、フランスなど多くの主要な「ミドルパワー」国家は国内の政情不安に直面しており、その指導力が揺らいでいる。このような状況下で、日本は政治的に安定している数少ない国として、世界的な「ミドルパワー連合」の構築において中心的な役割を果たす絶好の機会を得ている。
この安定した政権基盤があれば、日本はCPTPPのアップグレードや拡大を主導したり、米国抜きでの「フレンドショアリング」(同志国間でのサプライチェーン再編)やFTA/EPA推進の枠組みづくりにおいて、世界をリードできる。これは、日本企業にとっても有利な国際環境を創出し、新たな経済圏における活動を後押しする重要な資産となるだろう。
Q. このような不確実な時代を生き抜くために、ビジネスパーソンが持つべき心構えとは何ですか?
不確実性の高い時代において、日々の情報に一喜一憂し、「右往左往」することが最も避けるべき態度である。状況は常に変化するため、そのたびに対応しようとすればコストがかさみ、担当者も疲弊してしまう。大切なのは、自社にとって何が本当に重要なのかを明確にし、「軸」を持つことだ。

そのための第一歩として、まず「サプライチェーンの可視化」に取り組むべきである。自社のサプライチェーンにおいて、どの品目や国が事業の「チョークポイント」(ボトルネックや脆弱な部分)となり得るのかを正確に把握する。この可視化を通じて、企業はリソースを集中すべき核心的なリスクとチャンスを見極めることができる。
チョークポイントに直接影響する政策や措置が打ち出された場合、そこには迅速かつ最優先で対応する必要がある。一方で、それ以外の事象に対しては、慌てず静観したり、後から分析したりと、メリハリをつけた対応を取るべきである。機敏さと、瑣末な変化には動じない姿勢のバランスが、この新しい時代を生き抜くための鍵となる。