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資金調達 融資と出資の賢い活用術
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2026年1月1日

資金調達 融資と出資の賢い活用術 <ゲスト> 森本淳志|日本政策金融公庫 広報部 部長 1993年に国民金融公庫(現日本政策金融公庫)入庫 約3000社の融資審査を担当 2010年から東京創業支援センター所長 2023年に創業支援部長 2025年より現職 池上昌弘|リバネスキャピタル代表 200...
融資と出資、どちらを選ぶべきか?創業期の資金調達を賢く活用する戦略
現代社会において、起業家精神が社会変革の原動力となることは疑いない。しかし、新しい事業を立ち上げる際、多くの挑戦者が直面する最大の課題が「資金調達」である。自己資金の限界から始まり、いかにして事業に必要な資金を確保し、成長の軌道に乗せるかは、企業の成否を左右する。この課題を乗り越えるため、起業家は「融資」と「出資」という二つの主要な資金調達手法の特性を深く理解し、自社の状況に応じた最適な戦略を練る必要があるだろう。
本稿では、日本政策金融公庫の専門家とVC(ベンチャーキャピタル)の識者の対談を基に、これらの資金調達の根本的な違いと賢い使い分け、さらには「資本性ローン」のようなハイブリッド型商品の魅力までを深掘りする。資金の出し手側の論理を理解し、自己の経営権を守りながら最大限の成長を実現するための、実践的な戦略について考察する。

Q. 日本の起業率が低い現状の背景には何があるか?
日本の起業率は諸外国と比較して低く、欧米諸国が約10%であるのに対し、日本は約5%を下回る水準で推移している。この背景には、主に三つの壁が存在すると言われている。

第一に、「起業に対する知識や教育の不足」がある。国際調査(GEM)によれば、起業の知識を持つ日本人はわずか12.5%に留まるという。第二に、「起業家に対する社会的評価の低さ」も挙げられる。起業を望ましい職業選択と考える日本人は16%と国際平均の約半分以下で、起業家の挑戦をメディアが積極的に報じる文化も乏しい。そして第三が「資金調達へのハードル」だ。創業段階での最も大きな課題として常に資金調達が上位に挙がっており、特に自己資金の不足がボトルネックになっている。これらの複合的な要因が、日本の起業環境の活性化を妨げているのが現状である。
Q. 融資(デッド)と出資(エクイティ)はどのように使い分けるべきか?
資金調達において、融資(デッドファイナンス)と出資(エクイティファイナンス)はそれぞれ異なる特性を持つ。融資の最大の利点は、経営権を完全に維持できる点にある。借入金は返済義務が生じ、金利も発生するが、事業が計画通り進めば、創業者は株式比率を希薄化することなく事業を拡大できる。返済期間や資金使途について説明が必要となる場合が多い。
一方、出資は返済不要である点が魅力的だが、株式の一部を手放すことで経営権の一部を譲渡することになる。VCなどの投資家が株主となることで、経営の自由度が制約される可能性も出てくる。しかし、赤字期間が長く巨額の資金を必要とする事業や、将来性のある技術を伴うディープテックなどの分野では、返済原資が確保しにくい初期段階において出資が有力な選択肢となる。最終的には、それぞれの特性を理解し、自社のビジネスモデルや成長フェーズに合わせてデッドとエクイティをバランス良く組み合わせる「ミックス」戦略が、経営権を保ちつつ事業を拡大するための重要なカギとなるだろう。
Q. 日本政策金融公庫はどのような存在で、なぜ起業家に注目されるのか?
日本政策金融公庫(日本公庫)は、政府が100%出資する政府系の金融機関である。その最大の特長は、民間金融機関ではカバーしきれない、政策的な目的を持った金融支援を行う点にある。営利を目的としないため、スタートアップや小規模事業者、担保を持たない創業期の企業、そして国の基盤を支える農業など、民間銀行ではリスクが高すぎて融資が難しいと判断される分野に対しても、積極的に資金を提供している。

驚くべきことに、ソニーや京セラといった今日の日本を代表する大企業も、創業初期に日本公庫の前身組織からの融資を活用し、成長を遂げた実績がある。日本公庫は、民間では実現しにくい長期・固定金利での融資を可能とし、最大20年の返済期間と据置期間を設けることで、資金繰りの柔軟性を高めている。また、約120万社に上る顧客基盤を持つことでリスクを分散し、一つの貸し倒れが銀行全体に与える影響を軽減できるため、挑戦的な事業への支援が可能となっている。さらに、創業支援センターなどを通じた丁寧な伴走型サポートも起業家にとって大きな魅力であり、単なる資金の出し手ではなく、事業の成功を支援する「メンター」のような存在として注目を集める。
Q. 「資本性ローン」や「新株予約権付き融資」とは何か?
融資と出資の長所を併せ持つハイブリッド型商品として、「資本性ローン」と「新株予約権付き融資」が存在する。特に「資本性ローン」はスタートアップにとって非常に有利な制度だ。
その最大の特長は、元本の月々返済が不要で、一括返済が可能な点にある。加えて、会計上は「借入金」ではなく「自己資本」と見なされるため、財務体質が健全に見え、その後の民間金融機関からの追加融資を受けやすくなる効果がある。さらに、利率は企業の業績に連動し、赤字の場合は金利が低く(0.5%程度)、黒字化すると金利が高くなるという特性も持つ。これは、研究開発などに時間がかかり、初期に赤字が続く傾向にあるディープテック企業にとって、事業フェーズに合わせた資金負担を実現する非常に相性の良い仕組みと言えるだろう。一方、「新株予約権付き融資」は、公庫が新株予約権を付与されることで、リスクを取った多額の融資を受けることができる制度であり、成長性の高いスタートアップがより大きな資金を調達したい場合に有効な選択肢である。
Q. 資金調達の審査において、どのような点が重視されるのか?
資金調達の審査では、融資と出資で異なるポイントが重視される。融資において最も重要なのは「返済原資がロジカルに見えているか」である。事業計画に基づき、いつ、どのように売上が立ち、返済が可能となるのかを数字で具体的に説明することが不可欠だ。例えば、将来的な収益が見込めるまで、一時的に別事業で返済原資を確保するといった戦略も、説得力ある説明があれば審査にプラスに働く。担保や実績が乏しい創業期であっても、事業の確実性を論理的に提示することが求められる。
一方、出資では事業の「夢」の大きさに加え、その夢がいつ、どのように「実現可能」であるかという説得力が問われる。高い成長性が期待できる事業であればあるほど、VCは投資するが、それはあくまで明確なゴール設定とそこに至るまでの道筋、そして実行力を持つ起業家に対してである。金融機関やVCが短時間で起業家の全てを理解することは難しく、ここに「情報の非対称性」が生じる。VCが事業を深く理解している場合は、公庫の融資判断においてもその情報が補完材料となり、審査に有利に働くことがあるため、普段からの支援者との関係構築も極めて重要だと言えるだろう。
Q. 成功する起業家にはどのような共通点があるのか?
多くの成功する起業家には共通する資質がある。日本公庫の視点からは「諦めない人」であることが挙げられる。困難に直面しても逃げずに最後までやり遂げる精神力が、事業を軌道に乗せる上で不可欠であるという。VCの視点では、加えて「柔軟性」と「仲間を作る力(可愛がられ力)」が重要であると指摘されている。

事業を進める中で、当初の計画通りにいかないことは多々ある。そうした時に、固執せず、外部からのアドバイスや状況変化に柔軟に対応できる姿勢が求められる。また、どんなに優れたアイデアがあっても、一人では事業を成功させることはできない。共同創業者、従業員、投資家、協力企業など、多くの人々を巻き込み、支援を受けながら成長していく必要があるため、周りを魅了し、協力してもらえる人間性が極めて重要な資質となる。結局のところ、優れた事業アイデアはもちろん重要だが、それ以上に創業者自身の人間性やリーダーシップが、資金提供の判断において大きく影響する要素だと言えるだろう。
Q. 起業を目指す者が知るべき、資金調達の「真の鍵」とは何か?
起業を目指す者が資金調達を成功させるための「真の鍵」は、まさに「資金の出し手側の論理を深く理解すること」にある。VCであればファンドの運用期間内に高いリターンを求める義務があり、公庫であれば政府の政策目的を達成するという使命がある。彼らがどのような背景と制約の中で資金を提供しているのかを理解することで、起業家は彼らに対して最適な提案ができ、交渉を有利に進めることが可能になる。例えば、VCが支援する事業に対し、公庫が融資を通じて協力関係を築くケースもあるように、両者は競合ではなく補完関係にある。資金提供者の目的を理解し、お互いに連携することで、起業家はより厚い支援を受けられるだろう。
また、将来の起業家を育成する取り組みとして、高校生を対象としたビジネスプランコンテストの開催や、研究の面白さを伝える教育を通じてアントレプレナーシップを育む重要性が強調されている。挑戦する人が社会全体から賞賛される環境を整え、新しい挑戦をサポートする文化が広がることが、日本の未来を切り拓く礎となる。起業家は、ただ資金を求めるだけでなく、提供者の論理を理解し、対等なパートナーシップを築き、自らの事業を社会へと還元する大きな視野を持つことが求められているのである。