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自民大勝後の為替分析
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2026年2月10日

超低金利に支えられてきた日本の財政が直面する金利上昇。円安深度を測るための6つのポイントとは? 高市自民大勝後の為替マーケットについて佐々木融氏に聞いた。 <ゲスト> 佐々木融|ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト 1992年上智大卒、日銀入行。国際局為替課で介入実務を担い、NY...
高市政権大勝後の円相場、今後の円安を深める6つのリスク要因を分析する
高市氏の自民党総裁選での勝利は、その強固な財政政策の姿勢から、市場の一部では「高市トレード」と呼ばれる円安方向への動きを織り込ませた。
しかし、総裁選直後の為替市場は一時的な円高で反応した。この一見逆説的な動きの裏には、投機的な円売りポジションの利益確定とドル安の進行がある。
だが、これらはあくまで短期的な表面の動きに過ぎず、今後中長期的な視点で見ると、高市政権の安定は日本の金融市場にさらなる円安圧力をもたらす可能性を秘めている。
福岡フィナンシャルグループのチーフストラテジストである佐々木融氏が、この円安の深度と方向性を決定する上で鍵となる6つのポイントを指摘する。

Q. 高市政権大勝後の円相場はどのように反応したか?
高市氏が自民党総裁選で大勝したことを受け、市場では短期的な円安が進行すると予想されていたものの、実際には一時的な円高で反応した。
この動きは主に二つの要因によるものと分析できる。一つは、選挙結果を先読みして積み上げられていた「高市トレード」と呼ばれる投機的な円売りポジションの利益確定(円買い戻し)である。
もう一つは、米国の景気減速懸念などによるドル自体の弱含み(ドル安)だ。
これら二つの要因が重なり、選挙後の市場はドル円で一時的な下落(円高方向への動き)を示したのである。
しかし、この円高はファンダメンタルズに基づくものではなく、むしろ投機的な巻き戻しによる短期的な現象だと考える。
Q. 円安の深度を測る上で、政権交代はどのような中長期的な影響を及ぼすか?
高市政権が盤石な基盤を築くことで、今後の円安の深さが大きく左右されると考えられている。
重要な点は、政権がどの程度まで積極的な財政政策を推進するか、そしてその結果として上昇する金利に対して日銀がどれほど利上げを抑制する圧力に晒されるかである。
究極的には、日本の実質金利がプラス圏に回復できるかどうかが焦点となる。

実質金利がマイナスである限り、日本は投資先として魅力を失い、円安圧力が持続する構造にある。政権と日銀の関係性、および個別の政策がこの状況を悪化させる可能性が高いと言えよう。
これらの要素が絡み合い、円安の深刻度を測るための六つの主要な視点がある。
Q. 日銀の金融政策を巡る今後の主要な論点は何か?
日銀審議委員の人事と、そこからうかがえる金融政策の方向性。
インフレ率の一時的低下を狙う政府施策と日銀への利上げ先延ばし圧力。
日銀の利上げに対する「銀行優遇」批判の高まり。
まず、3月と6月に任期満了を迎える日銀審議委員の「公認選び」は大きな注目点である。一般的にリフレ派と呼ばれる金融緩和を重視する人物が任命されれば、市場は日銀による金融引き締めが遅れると判断し、円安と長期金利上昇が進みやすくなるだろう。
次に、政府が計画する電気ガス料金の補助金やガソリン減税、高校授業料の無償化拡大などの政策がある。これらは一時的にインフレ率を押し下げる効果を持つ。もしこの一時的な低下を理由に政府が日銀に対し、利上げを延期するよう圧力をかければ、将来のインフレ期待が高まり、結果としてさらなる円安要因となる可能性がある。
そして、日銀が利上げに踏み切ることで高まる「銀行優遇」への批判である。日銀が金融機関から預かる当座預金に利払いを開始すると、銀行の収益は増加する。過去の量的緩和政策により国債を大量購入した経緯から、この利払いは事実上、利上げに必要なコストとして批判される構図となっている。この批判が強まることは、日銀がさらなる利上げをためらう政治的圧力となりかねない。
Q. 米国との関係性や、対米要求が円相場に与える影響は何か?
高市首相とトランプ大統領の会談(3月19日予定)も円安に繋がる重要ポイントである。
総裁選以前からトランプ大統領が高市氏への支持を示していたことから、選挙支援の見返りとして、対米直接投資の具体化や防衛費の増額といった「お土産」が日本に要求される可能性が高い。
特に、すでに約束済みの対米投資5500億ドルの具体的な投資先や時期が明示された場合、または防衛費増額に伴う米国製兵器の追加購入などが具体化された場合、そのための大規模な「円売り」が必要となる。
国際情勢における地政学リスクの高まりの中、日本は米国との関係を維持・強化する必要がある。そのため、米国からのこうした要求を断りにくい状況にあると見られ、結果としてこれらの政策は具体的な円安圧力として作用するだろう。
Q. 「食料品消費税ゼロ」政策は、日本経済にどのような影響を及ぼす見込みか?
高市政権の大勝により、「食料品に対する消費税を2年間ゼロにする」という公約の実現可能性が大幅に高まった。これまでは連立与党内の調整や実現の難しさから、棚上げされるとの見方が強かったが、自民党の単独過半数が可能になったことで、この政策は現実味を帯びてくる。
この政策が実現した場合、消費の喚起によって一時的にインフレ圧力を高める効果が期待される一方、財政状況は確実に悪化する。すでに巨額の債務を抱える日本において、減税による財政悪化はさらなる金利上昇懸念と実質金利のマイナス状態を継続させ、強力な円安要因となる。
さらに問題なのは、首相は2年後に給付付き税額控除へ移行すると説明するが、2年後に参議院選挙が控えているため、一度ゼロにした消費税率を再び引き上げることが政治的に極めて困難である点だ。市場はこの政策を実質的な恒久減税として織り込み、日本の財政規律に対する懸念を一層強めるだろう。
Q. 長期金利の上昇が財政に与える影響と、それに伴う円安リスクとは?
この6つのポイントの中で、最も重要なのは長期金利の上昇が日本の財政に与える影響である。日本はすでに巨額の債務残高を抱えており、金利がわずかに上昇するだけで、国債の利払い費は爆発的に増加する。

過去長きにわたり低金利が維持されてきたため、債務残高が増えても利払い費は抑制されてきた。しかし、現在すでに長期金利(10年国債利回り)は2%を超えている。
控えめな試算でも、今後数年で金利がわずかに上昇(例えば2.8%まで)し、その水準で推移するだけで、今後9年間で国債の利払い費は年間約15兆円も増加する見込みがある。
これは現在の消費税収(約25兆円)に匹敵する規模であり、日本の予算編成に極めて大きな影響を与えることは必至である。
この利払い費の急増に政府が耐えられない場合、日銀に対して利上げの停止や、さらなる国債購入(買い入れ額の増額)、あるいはイールドカーブ・コントロール(YCC)の再導入を強く要請する可能性が高い。これは事実上の「財政ファイナンス」と見なされ、日銀の独立性が損なわれることによって、円に対する国際的な信認が失墜し、深刻かつ制御不能な円安に繋がる最大のリスクとなる。
よく「日銀が国債の半分を保有しているため、利払い費が増えても国庫に戻るのではないか」という意見があるが、短期金利が上昇する局面ではこの論は通用しない。日銀への国庫納付金は、クーポン収入の増加よりも短期金利上昇に伴う当座預金への利払い費増加の方がはるかに速く、規模も大きいため、相殺効果は限定的であり、国庫に戻る額は期待できない状況だ。
Q. 安定した政権基盤は、結果として円安リスクを増大させるのか?
高市政権が強固な基盤を得たことで、積極的な財政政策を推進しやすくなるという点は疑いない。しかし、その政策は金利上昇を招き、それに伴う国の利払い負担の増加を避けられない。

政府がこの膨大な利払い負担を受け入れ、日銀に淡々と利上げを容認できるかが問われる。
市場の信頼を回復し、円安圧力を緩和する唯一の方法は、日銀が経済状況に応じて躊躇なく金融引き締めを進めることである。短期金利を積極的に引き上げれば、過度な長期金利の上昇はある程度抑制される可能性も出てくる。
だが、これまでの歴史や政治的圧力の構造を考慮すると、政府がこのような「厳しい選択」をする可能性は低いと見られる。その代わり、日銀に金融緩和の継続を迫る可能性が高いだろう。
高市政権が市場の信頼を得られるか否か、そして結果的に円安リスクを増大させるかどうかの最初の試金石は、今年3月と6月の日銀審議委員の「公認人事」に示されるだろう。
そこで選ばれる人物が金融緩和に前向きなリフレ派か、それとも金融引き締めにも理解のある現実的な人物かによって、今後の日本の金融政策、ひいては円相場の方向性が決定づけられると言える。