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【AI競争の勝者は米中どちらか】中国テックとの向き合い方
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2026年2月16日

AI競争の勝者は米中どちらか。新興銘柄に見る中国の特徴とは。Al・テック技術の他分野への活用はどう進むのか。中国テックの実力について田中年一氏に聞いた。 <ゲスト> 田中年一|匠新(ジャンシン)CEO 上海、深セン、東京を拠点に日中のスタートアップ・イノベーション連携を推進。前職のデロイトトーマツ...
AI覇権の未来を占う:中国テック企業の現在地と日本の戦略的選択
米中間のAI覇権競争は激化の一途をたどっている。米国が先駆けてきたAI分野だが、近年中国の存在感が急速に高まり、世界のビジネス界に新たな問いを投げかけている。この競争の行方はどうなるのか、そしてその中で中国テック企業がどのように立ち位置を築き、日本企業はどのような戦略で臨むべきか。本稿では、中国テック業界の現状と未来、そして米中AI競争の核心に迫る。

Q. AI競争の勝者は米中どちらになるのか?
米中間のAI競争は、一方が他方を完全に凌駕するような構図ではなく、互いに独自の市場圏で成長するパラレルな進展を見せている。米国にはGoogleやMeta、Amazonといった世界を牽引するテックジャイアントが存在する一方で、中国にはBaidu、Tencent、Alibabaといった国内市場を強固に築き上げた企業がそびえ立つ。14億人の巨大な国内市場を擁する中国は、国外からの参入なしに企業を大規模に育成することが可能だ。
AI技術は軍事とも密接に関連するため、米中両国は自国の技術育成を最優先課題とし、相手国技術への依存を避ける戦略を徹底している。したがって、一方的な勝者が市場を席巻することは起こりにくい。真の競争の舞台は、第三国市場へと移行しているのが現状だ。
また、AIのボトルネックの一つが電力供給と言われるが、この点では中国に大きな優位性があるかもしれない。中国は再生可能エネルギー(太陽光・風力)と原子力の開発に戦略的に注力しており、電力の安定供給と余力において、依然として化石燃料への依存度が高い米国よりも有利な立場にあると分析されている。
Q. 中国政府と民間テック企業の関係に変化はあったか?
2021年頃、中国の民間テック企業は急落した時価総額を経験した。これは、アリババやDidiといったプラットフォーム企業が過度な影響力を持ち、米国上場による中国国内のデータ流出懸念などが政府の脅威と認識されたため、厳しい規制が課せられたことが主な原因である。政府は「好き放題」に動く企業に対し、明確なメッセージを発したのだ。
しかしその後、民間企業は回復基調を見せ、再び全体市場の約40%を占めるまでに至った。この回復を牽引したのは、政府の国家戦略と合致する分野の企業である。具体的には、BYDに代表されるEVメーカー、CATLのようなEV電池サプライヤー、さらにはAI基盤を支えるGPUメーカーや光通信技術を持つ企業といったハードウェア産業や、DeepSeekのようなAIソフトウェア企業が台頭し、市場を活性化させている。米国が主にソフトウェア企業で時価総額を伸ばすのとは異なり、中国はEVやAI関連のハードウェアが主要な推進力となっている点が特徴的だ。

政府とテック企業は、対立から協力関係へと変化した。「新質生産力」を掲げる政府は、AI産業の発展に明確な数値目標を設け、中央政府から地方政府まで一丸となって、この目標達成に向けた施策を進めている。これは、政治的な行動力が強い中国ならではの迅速な推進体制と言える。
Q. なぜ中国テック企業は海外進出を急ぐのか?
中国テック企業が海外市場へと活路を見出す背景には、「内巻(ネイジュエン)」と呼ばれる国内の過当競争がある。国内市場ではバイトダンス、Tencent、Alibabaといった巨大テック企業がAIサービスを低価格あるいはほぼ無料で提供しているため、体力のないスタートアップや中小企業が国内で利益を上げ続けることは極めて困難である。この厳しい競争環境を生き残った企業は、結果として非常に高いプロダクト競争力と価格競争力を身につけている。彼らにとって、海外進出は単なる成長戦略に留まらず、生き残りをかけた必然の選択となっているのだ。
中国政府の理想は、日本企業のように中国国内に本社を置き、海外子会社で得た利益が配当として本国に還流するモデルだ。しかし現実には、中国企業が親会社だと他国でのビジネス展開において抵抗感が強いという課題がある。そのため、多くの企業はシンガポールなどの第三国にホールディングスを設立し、中国拠点をR&Dセンターと位置付けることで、「中国企業」のイメージを薄め、海外市場でのデータ規制や信頼性に関する懸念を払拭しようと模索している。世界中の外貨を稼ぎ、中国経済に還元することこそが政府の究極的な目標である。
Q. 「新質生産力」とは何か?テックは中国経済の救世主となるか?
「新質生産力」とは、中国政府が掲げる新たな経済成長戦略のキーワードである。不動産主導型経済からの脱却を目指し、AI、DX、5Gといった先端技術を駆使して、従来の製造業などの産業を量的な拡大から質的な向上へと転換・高度化させることを目的とする。テック産業単体での成長だけでなく、既存の伝統産業全体の生産性を底上げし、サプライチェーンの強化を図る広範なビジョンだ。
AIによる効率化は一時的に供給過剰を引き起こし、淘汰が進むことで、高い技術力と価格競争力を持つ企業が残る。このプロセスを通じて生き残った企業(例えばBYDやファーウェイなど)は、世界市場で戦い抜く強力な競争力を獲得する。この過剰分は輸出によって補填され、結果的に国全体の経済力強化につながると考えられている。短期的には「痛み」を伴う政策だが、中国は長期的な視点で国家競争力の向上を目指しているのだ。

テックの波は農業のような伝統産業にも及ぶ。例えば、トラクターの自動運転化など、AIやロボティクスを活用した効率化は大きな可能性を秘めている。しかし、これらの分野ではマネタイズが難しく、政府の助成に頼る部分も多いのが現状だ。テックはあらゆる産業の効率と品質を向上させ、中国経済全体の変革を促す可能性があると言えよう。
Q. AIの普及は中国の失業率にどう影響するのか?
現在、中国の若者失業率は高い水準にあり、AIによる効率化がさらに失業を加速させる懸念があることは否めない。しかし、政府の長期的な視点は異なる。AIが国の産業生産性を飛躍的に向上させ、国家全体の競争力を高めることで、経済的な豊かさを実現することを目指す。これは短期的な雇用変動よりも、長期的な国力向上を優先する姿勢と言えるだろう。
AIやロボットが生産の多くを担う社会では、人が働く必要が減り、週休3日や4日といった、より余暇の多い生活が送れる可能性が指摘されている。このような社会においても、国としての競争力はAIによって維持されるというビジョンがある。国内での生産過剰は、伝統的に輸出によって解決されてきた経緯がある。不動産のように輸出できない産業と異なり、AIによって生み出される高効率な製品やサービスは、世界市場へ輸出することで経済を支えることになるだろう。
Q. 中国テック業界における今後の注目点は何か?
今後の中国テック業界で特に注目すべきは、「フィジカルAI(物理世界とつながるAI)」や「エンボディドAI(AIが体を持つ)」と呼ばれる領域だ。これは単なるソフトウェアに留まらず、現実世界の物理的な動作や物体と連携するAIを指す。具体的にはEV(電気自動車)やヒューマノイドロボットなどが挙げられるだろう。
この分野は、中国が長年培ってきた「ものづくり」の強み、強力なサプライチェーン、そして「実装の速さ」といった独自の優位性が最大限に発揮される領域である。ソフトウェア中心の米国と比較して、ハードウェアとAIを融合させる能力において、中国は世界をリードする可能性を秘めている。今後、AIの進化が物理世界と密接に結びつくにつれて、中国の製造業がAI分野の成長を強力に後押しする存在となるだろう。
Q. 日本企業は中国テックとどう向き合うべきか?
「中国経済はもうダメだ」という一面的で短絡的な思考に陥り、思考停止に陥ることは避けるべきだ。複雑な課題を抱えながらも変革を続ける中国経済とテック業界には、冷静な分析に基づいたアプローチが求められる。中国テックの伸びゆく部分を自社の成長にどう活用できるか、多角的に検討する姿勢が重要である。

日本企業が中国テック企業と組む上で鍵となるのは、Win-Winの関係を築くことだ。中国企業から見た日本市場の魅力は、ITやAIに対する投資意欲の高い企業が数多く存在し、購買力があること。さらに、日本企業が持つ長年のグローバル展開で培った海外拠点ネットワークや、ブランドに対する高い信頼性は、海外進出を目指す中国テック企業にとって非常に魅力的だ。
例えば、中国企業が提供する先進的でコスト効率の高い技術やプロダクトを日本企業が活用し、それを自社のグローバルなフットプリントとブランド力を生かして第三国市場へ展開するといった連携モデルが考えられる。日本企業は自社の強みを活かしつつ、中国テックの優位な部分を取り入れることで、両者にとって大きな成長機会を生み出すことが可能だ。単なる輸入や輸出の関係ではなく、戦略的なパートナーシップの構築こそが、これからの時代に求められる賢明な選択と言えるだろう。