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【中国テックの実力】中国がEV大国になった背景
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2026年2月10日

AI開発における中国・米国・欧米の違い。なぜ中国がEV大国になったのか。中国のAIの現状は。中国テックの実力について田中年一氏に聞いた。 <ゲスト> 田中年一|匠新(ジャンシン)CEO 上海、深セン、東京を拠点に日中のスタートアップ・イノベーション連携を推進。前職のデロイトトーマツでは上海オフィス...
「終わっている」論と「すごい」論:中国テック経済の二つの顔とAI・EVの最前線
中国経済に対する認識は常に揺れ動いている。不動産不況やデフレといったネガティブな側面が報じられる一方で、AI、ロボティクス、EVといったハイテク分野では目覚ましい進化を遂げているのが実態だ。本稿では、20年にわたり中国ビジネスの最前線で活動するジャンシンCEOの田中年一氏に、中国経済の多角的な現状と、特に急速に進化するテック業界の実情について深掘りして聞く。はたして、中国経済は「終わっている」のか、それとも「すごい」のか、その実像に迫る。

Q. 中国経済は現在、「終わっている」のでしょうか?それとも「すごい」のでしょうか?
中国経済を語る上で、マクロ経済の動向と特定の産業分野の状況を分けて考える必要を田中氏は指摘する。不動産バブルの崩壊は確かに経済に重くのしかかっている。不動産投資はこれまでGDP成長の大きな柱であったが、その停滞が響いている。また、消費者の資産の大部分を占めていた不動産価格の下落は、個人の消費意欲を冷え込ませ、上海や北京の商業施設にもその影響が見られるほどである。

その一方で、AI、ロボティクス、EVといった先端テクノロジー分野はものすごい勢いで成長を続けている。この部分は、マクロ経済の重い動きとは明確に区別し、成長機会として捉えるべきだ。特に日本企業にとっては、停滞ばかりを見るのではなく、中国の伸びる領域をいかに自社の成長に取り込むかが極めて重要となる。
Q. 中国のAI開発は、アメリカと比較してどのような特徴を持つのでしょうか?
AI開発において、技術的な先端を行くのは依然としてアメリカであると田中氏は説明する。中国の人材がアメリカの研究開発に関わることも多く、中国はアメリカの技術を追随する立場にあるのは変わらない。
しかし、中国には「社会実装型イノベーション」という非常に強い特色がある。これは、最先端の技術を生み出すよりも、既存技術をいかに速く、広く社会に適用していくかに重きを置くアプローチだ。例えば、DeepSeekはアメリカの輸出規制で高性能チップが使いにくい状況でも、低コストでAI訓練が可能なアルゴリズムを開発した。このコストパフォーマンスの高さが「AIの民主化」を促し、政府機関や民間企業で急速に活用が広がり、社会実装を強力に後押ししているのだ。
具体例として、Eコマースのカスタマーセンターが挙げられる。AIエージェントが顧客からの問い合わせやキャンセル処理の8〜9割を自動でこなしているという。これは、産業現場でのAI活用がいかに進んでいるかを示す典型例である。中国の製造業現場や発展したEコマース、そしてそれらを支える物流分野においても、AIによる自動化・効率化が積極的に推進されているのが特徴だ。
Q. 中国でAIの社会実装が驚くほど速いのはなぜなのでしょうか?
中国での社会実装の速さには、その文化と国民性が深く関係していると田中氏は分析する。中国の社会は「失敗に寛容」な気質があり、何か問題があっても「しょうがない」と受け止められる土壌があるのだ。

日本の場合、90点の完成度であっても、炎上やレピュテーションリスクを恐れて100点になるまで市場に出さない傾向がある。もちろん品質管理やブランド維持の観点から良い面もあるものの、これではスピードが著しく落ちてしまう。一方で中国は、60点や80点の段階でまず市場に製品やサービスを投入し、ユーザーからのフィードバックを得ながら改善を重ねていく。このような「走りながら改善する」アジャイルな開発文化と、それを受け入れる市場の寛容性が、AIの実装スピードを圧倒的に加速させる要因となっている。
導入企業側も「まずはやってみよう」というマインドセットがあり、顧客側も完璧を求めすぎないという特性が、中国の迅速なイノベーションを支えていると言えるだろう。
Q. Metaが中国系AI企業「Manus」を約3000億円で買収したことの意義をどう捉えるべきでしょうか?
Metaによる中国系AIスタートアップManusの約3000億円での買収は、中国テック業界にとって極めて大きな出来事であったと田中氏は語る。アメリカのテックジャイアントが、まだ設立数ヶ月から1年の中国発スタートアップをこれほどの高額で買収する事例は前例がなかった。この買収は、中国の技術、特にAIエージェントなどのアプリケーションレイヤーの技術が世界トップレベルであり、巨額の価値で評価されることを明確に示したと言える。
このニュースは、中国国内のAIスタートアップに大きな自信を与え、「我々もグローバルで評価される可能性がある」という希望を抱かせ、テック領域に再び活気をもたらした。米中間の技術規制を回避するため、Manusは拠点をシンガポールに移して売却され、買収後は中国本土でのサービスは切り離されると見られる。これは地政学的リスクが存在する中でも、優れた技術には国境を越えた価値が見出される現実を浮き彫りにする出来事だったのだ。
田中氏は、今後の注目分野として、AIを頭脳としロボットを体とする「Physical AI(フィジカルAI)」や「Embodied AI(エンボディドAI)」を挙げる。これは中国が強みとする製造業のサプライチェーンを活かせる領域であり、今後グローバル市場での中国企業の存在感が高まる可能性を秘めている。
Q. 米中のテクノロジー覇権争いは、現状、どの分野でどちらが優勢ですか?
テクノロジー競争において、米中には明確な強みと弱みがある。田中氏の分析によれば、AIの先端研究や半導体、その製造装置や材料といった「産業の上流」においては、アメリカや日本、韓国が依然として優位に立つ。中国は「中国製造2025」の下、国産化を強力に進めているものの、現状ではまだ距離があるのが実態だ。
一方で、EVやEコマース、フィジカルAIといった最終製品に近い「産業の川下」では、中国が圧倒的な強みを発揮している。これらはAIを社会に実装し、大量生産・応用する能力に長けている分野だ。EVの例は象徴的で、XiaomiやHuaweiのようなスマホメーカーが自動車産業に参入し、Appleが諦めたEV開発を成功させた事実がある。中国の強力な製造業基盤とサプライチェーンが、このような「川下」での強さを支えていると言えるだろう。
Q. Appleでさえ諦めたEV開発を、なぜ中国企業は成功できたのでしょうか?
AppleがEV開発を断念した背景には、市場に出せるコスト水準への到達困難性や、スマートフォンや家電とは異なる自動車の高い安全性要求を満たすハードルの高さがあったと田中氏は推察する。対して中国では、これまでにBYDなどの大手EVメーカーに加え、数百社に及ぶ新興EVメーカーが乱立し、熾烈な競争と淘汰を繰り返してきた。この過程で、EV開発に必要な膨大な経験を持つエンジニアや、豊富なサプライチェーンプレイヤーが蓄積された。

こうした分厚いハードウェアのものづくりエコシステムと、高い技術力を持つ人材が揃っていたことが、XiaomiやHuaweiが低コストかつ安全性の高いEVを市場に投入できた大きな要因である。加えて、中国政府が初期段階でメーカー、消費者、充電インフラの全てに補助金を投入した戦略も成功を後押しした。現在ではこの補助金フェーズを終え、純粋な民間競争が繰り広げられる中で、中国のEV産業は独自の進化を遂げている。
Q. 将来的なAI競争の行方は、どう見られていますか?
今後のAI競争において、ボトルネックの一つとして「電力」が浮上する可能性が高い。電力の供給余力という点では、中国がアメリカよりも優位にある可能性があり、これがAI開発競争の勢力図に影響を与えるかもしれないと田中氏は予測する。
中国政府が目指すのは、国内の激烈な競争を勝ち抜いた企業が、品質が高く、かつ価格競争力のある製品を武器に世界市場に進出し、外貨を稼ぎ国に還流させる経済モデルだ。これはDeepSeekのような技術を国際的に展開することであり、Manusのように海外企業に買収されることが最終的な目標ではない。国内市場での競争は、グローバル市場で勝利するための「筋トレ」として位置づけられており、中国企業の海外展開は今後さらに加速せざるを得ない状況にあると言える。
結論として、中国経済は、マクロの停滞とテックの躍進という二つの顔を持つ。この複雑な実態を正確に理解し、急速に変化するグローバルビジネスの波に乗るためには、多角的な視点から中国を捉えることが不可欠となるだろう。