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韓国経済の深層:株価最高値の裏にある懸念
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2026年2月5日

韓国のKOSPIは2025年に75%の上昇を記録し、先日史上初めて5000を突破した。成長鈍化や少子化、歴史的ウォン安といった不安要素を抱える中での株価急騰。第一生命経済研究所の西濵徹氏が韓国経済の現状に迫り、日韓経済連携の未来とビジネスパーソンが注目すべき指標を提言する。 <ゲスト> 西濵徹|第...
期待と現実の狭間で揺れる韓国経済:KOSPI急騰の裏側にある「K字格差」とは
近年、韓国経済は世界経済の注目を集めている。韓国総合株価指数(KOSPI)が異例の速度で高騰し、5000ポイントを突破したことは大きなニュースであった。しかし、この華々しい株価の裏側で、実体経済は低迷し、ウォン安は進行。国民生活には「K字型格差」と呼ばれる深刻な分断が忍び寄る。
本稿では、この複雑な韓国経済の現状と課題を、日韓関係の新たな局面も交えながら、Q&A形式で深掘りしていく。はたして、韓国経済の未来には何が待っているのだろうか。

Q. なぜ韓国株価は急騰しているのか?
韓国総合株価指数(KOSPI)はわずか1年足らずで75%も上昇し、史上初めて5000ポイントを突破した。この株価急騰の背景にあるのは、政府主導の「コリア・ディスカウント(韓国市場の株価が他国に比べて過小評価されている状態)」解消を目指す「韓国版バリューアッププログラム」の導入がある。
このプログラムは、日本の企業統治改革を手本にしており、企業に対して株主還元の強化や情報開示の促進を促すことで、海外投資家からの評価を高めようとする狙いがある。さらに、李在明大統領は革新派でありながらこの政策を継承し、自らも「任期中にKOSPI 5000達成」を公約。積極的な株式投資の公言で、市場の期待感を煽ってきた点が挙げられる。

だが、この株価上昇は必ずしも実体経済の好調を示すものではない。2024年10-12月期の韓国の実質GDP成長率はマイナス1.1%を記録し、年間成長率も前年の2%から1%へと半減している。個人消費も低調が続いており、現在の株高は経済の実力以上に、政策への「期待先行」で形成されている側面が強いのが実情だ。
Q. 韓国版バリューアッププログラムは、日本の改革と何が違うのか?
韓国のバリューアッププログラムは、日本の企業統治改革をモデルとしているが、その実施方法と背景には大きな違いがある。日本が約10年をかけて段階的に市場に浸透させた改革に対し、韓国はこれをわずか1年で一気に導入しようとした点が異なる。この急速な展開は、効果の持続性や企業文化への定着に関して疑問を呈されている。
また、日本の改革が取引所主体で進められ、市場参加者のボトムアップ的な意識改革を促したのに対し、韓国は政府や大統領府主導の強力なトップダウン方式を採用している。この上からの指示だけでは、企業側が本質的なガバナンス改善ではなく、形式的な対応に終始する可能性が高いと指摘されている。
とりわけ韓国経済に大きな影響力を持つ「財閥」の存在が、改革の成果を不透明にしている。財閥オーナーの支配権は依然として強大であり、少数株主の意見が軽視される傾向が根強い。プログラム自体も企業に「自発的な取り組み」を促すのみで強制力がないため、財閥が積極的に改革に取り組まなければ、IR活動なども形式的なものに留まり、実質的な企業価値向上にはつながりにくいという見方がある。
改革の真の目的が株価対策に偏り、企業統治の改善が伴わなかった場合、海外投資家からの信頼を失い、株価が急落する「化けの皮が剥がれる」リスクも内在していると言えるだろう。
Q. 株価は好調なのに、なぜウォン安が進行しているのか?
韓国経済が現在直面している特異な現象の一つが、株価の高騰と通貨ウォンの下落が同時に進行する「ねじれ現象」だ。通常、株価が好調な場合は、その国の経済が評価され、通貨も買われやすい。しかし、韓国では国内の個人投資家が自国市場の将来に不安を感じ、米国株など海外資産への投資を活発化させている。
この海外資産への「資金逃避」が、結果的にウォン売り・外貨買いの圧力を強め、ウォン安を加速させていると考えられる。この構図は、株高と円安が同時に進む日本の現状と極めて類似している。日韓両国の個人投資家が、自国市場よりも海外市場に成長機会を見出していることが共通の背景にあると言えよう。
深刻なウォン安は、韓国の中央銀行(韓国銀行)の金融政策の自由度を奪っている。経済は低迷しているため、本来であれば利下げによって景気を下支えしたい局面だ。しかし、これ以上のウォン安が進行することを警戒し、利下げに踏み切れないというジレンマに陥っている。
韓国銀行の総裁自身も、個人投資家の海外投資がウォン安の一因であると警戒感を表明しており、この資金流出問題が韓国経済全体の足かせとなっている状況だ。
Q. 日韓経済関係の新たな展開とは何か?
かつては「韓国のトランプ」とまで言われた革新派の李在明大統領が、就任後は現実主義的な「実利外交」に舵を切ったことで、日韓関係の政治的リスクは大幅に低下した。これは経済界にとって、安心して両国間で連携を深められる土壌が整いつつあることを意味する。

かつて競合関係にあった日本円と韓国ウォンが、近年では海外投資家から「東アジアの似た通貨」と見なされ、連動して動く傾向が強まっている。これは日韓の産業構造が変化し、互いに協力し得る分野が増えたことを象徴する現象だと言える。この変化は、両国が互いに経済連携を強化する絶好の機会を提供している。
特に、「対中国」という共通の課題への対応が、日韓連携の大きな柱となるだろう。日本と韓国は共に中国を最大の貿易相手国としており、中国の経済的威圧に対して単独で対処するには限界がある。日韓、さらには米国や欧州を含む多国間の枠組みの中で連携し、サプライチェーンの強化や経済安全保障を築く重要性が高まっている。
半導体分野はその最たる例である。日本の強みである高品質な素材・部材(川上)と、韓国が世界をリードする半導体製造(川中・川下)を連携させることで、中国への過度な依存を減らし、より強靭で国際競争力の高いサプライチェーンを構築することが可能だ。
また、日本以上に深刻な少子化問題を抱える韓国との間では、互いの対策や成功・失敗事例を共有し、協力して問題解決に取り組むことが、社会全体の連携強化にもつながる。歴史問題への意識が薄い若い世代が社会の中心となり、政治家の言動が以前ほど国民感情を揺り動かさなくなったことで、両国はよりフラットで未来志向の関係を築ける時代に入りつつあると言えよう。
Q. 不動産価格の高騰や少子化は韓国経済にどう影響しているのか?
韓国経済が抱える構造的な課題として、不動産価格の高騰と、それに伴う社会の「K字型格差」が挙げられる。株価と同様に、経済全体が低迷する中でもソウルの特に江南区などの affluent な地域の不動産価格は高騰が続いている。その主要因の一つは、熾烈な大学受験競争だ。有名大学への進学に有利な学区に住むための需要が集中し、それが不動産バブルの一因となっている。
さらに、韓国特有の賃貸制度である「チョンセ(伝貰)」も不動産投機を助長している。「チョンセ」では、入居時に家賃数年分に相当する高額な保証金(住宅価格の約7割)を家主に預ける。家主はこの保証金を運用し、その収益を家賃の代わりにする。この制度は家主に高額な初期資金を供給し、それが更なる不動産投資へと向かうことで、投機的な価格上昇を引き起こしているのだ。

この不動産高騰は、資産を持つ富裕層をさらに豊かにする一方で、資産を持たない若者や低所得層との格差を拡大させている。株高もまた、資産家にとっては恩恵となるが、ウォン安による物価高騰は庶民の生活を直撃し、日々の暮らしを圧迫する。この状況は、映画『パラサイト 半地下の家族』で描かれたような社会の分断、つまり「K字型格差」をさらに深刻化させている。
過度な競争と格差の固定化は、特に若い世代に「努力しても報われない」という深刻な閉塞感を生み出し、社会全体の活力を削いでいる。このようなマクロ経済指標だけでは見えにくい、国民生活と経済の間の大きなギャップこそが、韓国経済が持続的な成長を遂げる上での最大のリスクであり、今後の政策対応が注目される分野である。