ビジネス虎の巻
(1252)
9,247回視聴
2026年1月30日

コーヒーブランド「renag coffee」を起業した竹内由恵が数々のトップランナーからスモールビジネスのノウハウを学ぶシリーズ。今回は竹内自身が珈琲に目覚めえるきっかけとなった「丸山珈琲」創業者・丸山健太郎氏が登場。なぜ丸山珈琲は、世界中の農園から唯一無二の「最高の豆」を託されるのか? その裏側に...
日本スペシャルティコーヒー業界の先駆者、丸山珈琲代表の丸山健太郎氏が、焙煎の真髄、世界中の生産者と築く唯一無二の関係、そして時代の変化に対応するビジネス戦略について語った。
丸山氏を敬愛し、自らもコーヒー事業を手がける対談相手の竹内氏がその核心に迫る。激動する市場の荒波を乗り越え、いかに感動を生み出す事業を継続させていくのか。経営者や起業家、そしてコーヒー愛好家必見のインタビューとなっている。

コーヒーの焙煎で味とフレーバーの核が形成されるのは、1ハゼが始まる前、豆が緑色から黄色、さらに茶色へと色づいていく初期段階だ。
この時期に、コーヒー特有の香ばしさや甘みを生み出す「メイラード反応」などの複雑な化学変化が起こるため、ここをいかに丁寧に進めるかが鍵となる。
焙煎において最も重要な仕事は、このフレーバーが生成される5~7分程度の時間帯で、火力を上げ急ぐのではなく、じっくりと熱を加える忍耐力が求められる。

丸山氏はこの段階での火力を「もう少し我慢」することを提言する。豆の持つポテンシャルを最大限に引き出すためには、ここでじっくりと豆の変化を見極めなければならないからだ。
フレーバーは「ハゼが始まる頃には、もう勝負がついている」と言い切るほど、1ハゼ以前の段階が決定的に重要だ。ハゼ以降は、そこまでに起こった化学変化の集大成を仕上げる工程にすぎない。複雑な風味を持つホンジュラスのパカマラ種は、特にこの準備段階を丹念に仕上げる必要があり、この点が味の差となって表れるのである。
丸山氏が最高のコーヒー豆を仕入れる上で最も重視するのは、生産者との長期的な人間関係の構築だ。そのための第一歩は「現地に赴くこと」であり、年間150日近くを海外の産地で過ごしてきたという。
治安の良くない地域では、あえて目立たずに「オーラを消し」、現地に溶け込む工夫をこらしてきた。移動の際には、まるで現地住民のように振る舞い、周囲の警戒を和らげることを意識してきたと話す。
グローバルな交渉の秘訣は、現地の文化に心から敬意を払い「ハートを開く」姿勢だ。
生産者が提供する食事は何でも食べ、現地の風習に従うことは、言葉以上に強い信頼を築く。
肉しかないような中南米の産地でベジタリアンを主張したり、高級レストランを求めたりする欧米のバイヤーとは対照的に、タコベルの食事も現地の豆を使ったトルティーヤも喜んで受け入れることで、生産者の心をつかんできたのだ。

生産者の「人柄」を見抜く力も重要である。どんなに素晴らしいコーヒーを生産していても、金銭にルーズであったり、家族関係に問題を抱えていたりする生産者とは長期的なパートナーシップを築けない。後継者の育成や農園の持続性を考慮すると、安定した家庭環境や真面目な人柄も判断材料になるのだ。特に「おじいちゃん、おばあちゃん」といった決定権を持つ人々の心をつかむことが、後の取引に大きく影響すると丸山氏は語る。
他のバイヤーが来た時に、最高の豆を奥に隠しておいてくれるなど、信頼関係によって生まれる利点は計り知れないという。
現代において、スペシャルティコーヒーの業界は大きな変革期にある。
ネットやSNSの普及により生産者と直接繋がりやすくなった反面、世界中のバイヤーが特定の優良農園に集中するため、新規参入者が差別化を図るのは一層困難になっている。
丸山氏は、この状況での有効な戦略として、「一点突破」を挙げる。多くの生産国に手を出すのではなく、特定の生産者や農園に絞り込み、たとえ年1回でも継続して通い続けることで、深い関係性を構築することだ。
「この農園のコーヒーなら私」という明確なスペシャリテを確立し、そのストーリーをファンに伝えることが、他社にはない価値を生み出す道だという。
円安と需要拡大によりコーヒー豆の価格が3年で4倍にも高騰する中で、丸山珈琲はいくつかの対策を講じてきた。
大量購入による価格交渉は当然のこと、単に「最高品質」を追求するだけでなく、「用途」を軸にした豆の発掘も行っている。
例えば、ドリップには向かないがエスプレッソに特化した豆など、特定の商品カテゴリ向けであれば割安で仕入れられる場合もある。このような戦略によって、生産者も様々な目的の豆を工夫して提供するようになっているという。
事業を持続させるためには、高価格帯の希少な豆(例: ゲイシャ)だけでは限界がある。
ワインに例えると、年に一度の特別な日の高級ワインと、日常的に気軽に楽しめる手頃なワインの両方が必要であるという。
丸山珈琲は、忙しい日常の中でも手軽に高品質なスペシャルティコーヒーを楽しめるよう、30秒で抽出できる「コーヒーバッグ」のような新商品を開発。スペシャルティコーヒーのハードルを下げ、間口を広げることで新たな顧客層の開拓を図っている。
この「普段使い」の市場こそが、これからのコーヒービジネスの安定と成長に不可欠な要素だと考えているようだ。
消費者が美味しいコーヒーを見分ける上で、丸山氏は「後味の良さ」に注目するよう推奨する。
日本人は特に後味に敏感な味覚を持っている。口にした後に不快な苦味や酸味が残らず、味がスッと綺麗に消えるか、心地よい香りの余韻が続くコーヒーこそ、本当に美味しいコーヒーであるという。
行列のできる飲食店で供される料理が「また食べたい」と感じさせるのは、まさにこの後味の綺麗さがあるからだと解説する。
コーヒーの温度が下がってきても味が崩れず、不快な雑味が出てこないかどうかを確かめることも重要だ。冷めても美味しいコーヒーは、原材料である豆自体の品質や焙煎技術が高い証拠であり、そのコーヒー全体のクオリティを判断するリトマス試験紙となる。
抽出方法について悩む必要はなく、コーヒーメーカーを活用するなど、肩肘張らずに気軽に楽しむことから始めてよい。
重要なのは、難しく考えすぎず、直感的に「美味しい」と感じ、次のカップに手が伸びるかどうかである。
丸山氏の焙煎修行は独特であった。師匠から直接的な技術指導を受けるのではなく、焙煎した豆に対する「天ぷらを揚げた経験があるか」といった問いや、ワインに関する比喩を通して、自ら焙煎の本質を考え抜くことを促されたという。
師匠の焙煎風景を見たことは一度もなく、試行錯誤を繰り返しながら、まるで禅問答のように焙煎を学び、独自のスタイルを確立したのだ。
かつての焙煎は情報が秘匿され、職人技として「名人芸」の領域にあった。店の匂いや焙煎機の種類から推測したり、名人と呼ばれる人物の挙動から技術を盗んだりすることで、焙煎士は己を磨いた。丸山氏は、焙煎はレシピを再現する科学だけではなく、職人の「本能」と「集中力」が結果を左右する芸術であると断言する。他人が焙煎している後ろにいるだけで味が変わってしまうほど、焙煎士の精神状態が繊細に影響するとさえ語っている。

ロースターには「向き不向き」があると丸山氏は主張する。
初めて焙煎する者でも、向いている人はまるでビギナーズラックのように初回から上手くできてしまうことがあるという。
これは、調理のように日常的な経験と結びつかない「煎る」という行為が、その人の本能的な感覚や隠れた才能を顕にするからだと分析する。焙煎に挑む者にとって、理屈を超えた直感と、一瞬の集中力が結果を大きく変える真髄なのだ。
事業、特にスタートアップを成功に導く上で、創業者の資質は極めて重要である。丸山氏は「心意気」と「熱量」が何よりも不可欠だと語る。
「日本のコーヒーを変えたい」「海外に買い負けたくない」という、強い情熱と目的意識が周りの人間を巻き込み、どんな困難な状況に直面してもチームを前進させる原動力となる。
多くの従業員や関係者を動かすのは、具体的な指示や計画だけではない。創業者の強烈なビジョンと、それに対する純粋で熱い思いが周囲の共感を呼び、結果として皆が「なんだよ、こんなことやってるのか」と思いながらもついてくる。
この燃えるような熱意こそが、事業の推進力となり、競合との差別化を図り、持続的な成長を可能にする唯一無二の資質なのである。