PIVOT TALK ECONOMY
【30兆円市場】ゲームビジネスの最前線
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2026年2月5日

30兆円規模とも言われる、世界のゲーム市場。エンタメ産業の躍進が続く日本において、ゲーム産業は今後の経済の「本命」になり得るのか?eスポーツジャーナリストの岡安学氏に聞いた。 <MC> 宇内梨沙|元TBSアナウンサー <ゲスト> 岡安学|eスポーツジャーナリスト ゲーム情報誌編集部を経て、フリー...
ゲーム産業は日本経済の「本命」になれるか?30兆円市場の現在地と日本のIP戦略
かつて子どもたちに「悪い」影響を与える存在として批判されたゲーム産業が、今や日本経済の新たな基幹産業へと変貌を遂げている。エンターテインメント産業全体の時価総額は、日本を支える自動車産業に匹敵する規模にまで拡大。単なる娯楽の域を超え、国家経済を牽引するほどの巨大な市場が形成されつつある。本稿では、eスポーツジャーナリストの岡安学氏へのインタビューから、世界で30兆円規模に達したゲーム市場の現状、そこに巨額の投資を行うサウジアラビアの戦略、そして日本が誇る強力なIPの可能性と課題に迫る。

Q. ゲーム産業は日本経済の「本命」となれるのか?
「なれると思う」とeスポーツジャーナリストの岡安学氏は語る。2023年の日経新聞報道によれば、ゲームを含むエンターテインメント産業のトップ9社の時価総額は、自動車産業のトップ9社に匹敵するレベルに達しているという。この驚異的な成長は、ゲームが単なる遊びではなく、経済の中核を担いうる存在となったことを明確に示している。岡安氏は、仮に今日本からゲーム産業が全て失われた場合、計り知れない失業者の発生と景気の悪化を招くと指摘する。これは、ゲーム産業がすでに日本経済に深く根差し、巨大な影響力を持つことを裏付ける。かつては社会的に悪影響と見なされたゲームが、今や日本の経済を支える「基幹産業」となりつつあるのだ。

Q. 世界・国内のゲーム市場の現状はどのようになっているのか?
世界のゲーム市場は、2022年時点で約26兆8,000億円、現在は30兆円規模に達していると推測される。この巨大市場を支えるプレイヤー人口は約30億人であり、これは世界人口の4割近くを占める。特に目を引くのは、オンラインゲームの圧倒的な成長である。国内市場でも右肩上がりの成長が続いており、2兆円を超える規模だ。特にオンラインプラットフォームが市場全体の伸びを牽引している。新型コロナウイルスによる「巣ごもり需要」で一時的に市場は急伸したが、その後も持続的な成長を維持。この背景には、スマートフォンが持つ常時接続性が大きく寄与している。圧倒的な普及台数を誇るスマートフォンがゲームの「母数」となり、オンラインゲームが市場の主軸となった現状がある。これは、今後もモバイルゲームが売上の中核であり続ける可能性を示唆する。

Q. アイテム課金はなぜこれほどの経済効果を生むのか?
オンラインゲーム市場において、経済効果の核となっているのがアイテム課金、特に強さには影響しない「見た目」への課金である。例えば、「フォートナイト」では、武器やキャラクターの性能ではなく、衣装やエモート(ダンスなどの動き)のみに課金が可能だ。驚くべきことに、そのキャラクター衣装の売上は、欧州の高級ブランドの売上を超えるほどに巨大な市場を形成している。これは、ゲームが単なる娯楽を超え、自己表現の場、ひいては承認欲求を満たす手段となっていることを物語る。アバターの見た目を飾りたいという欲求、他者にコーディネートを見せたいという思い、好きなキャラクターとのコラボアイテムを手に入れたいという衝動が、人々の消費行動を加速させているのだ。さらに、子どもの間では「無課金」だと友人から軽視されるといった独自の文化まで存在する。インターネット上でのコミュニケーションが活発化する中で、アバターは現実のファッション以上に「人に見られる」重要な要素となり、課金を促す大きな原動力となっている。
Q. eスポーツ市場の現状とプロモーションにおける役割とは何か?
eスポーツは近年急速に注目を集めている分野だ。2018年には日本eスポーツ連合が設立され、プロライセンス制度が開始されて高額賞金大会が続々と開催された。国内大会でも優勝賞金1億円が珍しくなく、トッププレイヤーは2年で2億円近く稼ぎ出す者もいる。この盛り上がりはプレイヤーにとって大きな夢となり、メディアの注目を集める要素ともなっている。市場規模で見れば、eスポーツはゲーム市場全体の1%にも満たないニッチな分野である。しかし、その圧倒的な話題性と高いエンゲージメントは、ゲーム自体のプロモーションやブランディングにおいて計り知れない効果を発揮する。ゲーミングチェアやゲーミングPCといった関連商品の市場も拡大し、「ゲーミング飯」などの新たなカルチャーも生まれるほどだ。メーカーの公式大会だけでなく、ファンコミュニティから発展した「EVO Japan」のような大規模大会も存在し、ユーザー発の熱狂がeスポーツを、そしてゲーム産業全体を支えるエコシステムを構築している。
Q. サウジアラビアはなぜゲーム産業に巨額投資するのか?
サウジアラビアは国家戦略「ビジョン2030」のもと、石油依存型経済からの脱却を目指し、エンターテインメント分野、特にゲーム産業へ巨額の投資を行っている。その一環として、首都近郊にeスポーツやゲーム開発を核とするエンタメ特区「キディアシティ」の建設を進め、日本の人気IPである「ドラゴンボール」の巨大テーマパーク建設計画もこの戦略の一環だ。自国に強力なIPを持たないサウジは、日本の質の高いコンテンツを積極的に誘致することで、観光立国への転換を図る。さらに、日本の老舗ゲーム会社SNK(「餓狼伝説」シリーズなど)を買収し、「ポケモンGO」の開発部門もサウジアラビア系の企業が取得するなど、水面下で日本の強力なIPがサウジ資本の影響下に入りつつある現状もある。背景には、国民の約7割が35歳未満というゲーム親和性の高い人口構成が挙げられる。加えて、政治的リスクが伴う中国市場に代わる、新たな一大ゲーム市場としての可能性を中東に見出していると考えられる。
Q. 日本のゲーム産業が世界で存在感を示す最大の武器は何か?
日本経済の「本命」となりうるゲーム産業が世界で存在感を示す最大の武器は、その強力なIP(知的財産)の存在だ。世界IPコンテンツの累計売上ランキングを見ると、「ポケットモンスター」が約13兆5,000億円で圧倒的な1位を誇り、ハローキティも2位に続く。世界のトップ10の多くを日米のIPが占めていることから、日本がIP創造において極めて高い能力を持つことが明らかである。ポケモンの成功の核心は、単一のゲームタイトルに留まらないメディアミックス戦略にある。ゲームの売上は、グッズ、アニメ、映画、カードゲームといった多角的な展開によって生み出される収益の一部に過ぎない。常に新しい世代を取り込む新作ゲームの投入、そしてゲームをしない人々でもIPに触れる機会を創出する多様なアプローチが、ポケモンの寿命を延ばし、そのブランド価値を飛躍的に高めているのだ。この多角的なIP戦略こそが、日本のエンターテインメント産業が世界で勝ち抜くための最大の強みなのである。

Q. 日本のゲーム産業が抱える課題と今後の生存戦略とは?
日本のゲーム産業が直面する課題の一つに、新規IPの創出難がある。多くの企業がヒットした過去作の続編開発を優先する中、新たなIPの誕生は体力のある大手メーカーの挑戦か、「スイカゲーム」のようなインディーゲームからの突発的ヒットに限られ、二極化が進む傾向がある。かつて日本が得意とした「萌え」キャラクターの分野も、中国発の「原神」のような作品が台頭し、絶対的な優位性が揺らぎつつある。また、海外展開においても、多言語ローカライズや文化・表現の調整(ポリコレ問題など)にかかる莫大なコストと労力がネックとなる場合が多い。日本は国内市場が十分に大きく、無理にグローバル市場で大規模な「トリプルAタイトル」を投入せずとも事業が成り立つ側面がある。このため、無理に世界を狙うよりも、日本独自の強みを生かした戦略が重要となる。例えば、ストリーマーによるゲーム配信などの「見る文化」の定着は、新たなヒットを生み出し、休眠中のタイトルを再評価するきっかけとなる可能性を秘める。今後の日本の生存戦略は、すでに確立された強力なIPを守り、育て続けることにかかっている。定期的な新作やメディア展開を通じてIPに「燃料を投下」し続けることで、ブランド価値を維持・向上させ、IPそのものが海外から収益を呼び込む仕組みを強化することが、日本ゲーム産業の持続的成長の鍵となるだろう。