PIVOT TALK ECONOMY
インフレ税180兆円。正しい使い方は?
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2026年1月24日

これから日本はインフレの第二ステージに入ると語る、渡辺努・東京大学名誉教授。2035年までの第二ステージに何が起きるのか?政府・企業・個人はインフレ時代にどう動けばいいのか?これからのインフレ時代を徹底予測してもらった。 <ゲスト> 渡辺努|東京大学名誉教授 東京大学経済学部卒業、ハーバード大学P...
物価高騰は家計を圧迫するが、それは本当の問題か?識者が語る「賃上げ」と「未来への投資」が日本の未来を左右する
現在の日本を襲う物価高騰は、多くの人々の家計を直撃し、日々の生活に暗い影を落としている。政府は燃料補助金や消費税減税といった対症療法的な策を打ち出すが、これらは問題の本質に切り込むものではないという声も上がる。
それでは、この物価高騰の真の要因とは何か。そして、日本経済が持続可能な成長を遂げ、国民が真に豊かになるためには、どのような政策が求められるのか。経済学の専門家が、表面的な物価上昇の奥に隠された日本の課題と、そこから脱却するための処方箋を明示する。
本稿では、Q&A形式で、この複雑な問題を深く掘り下げていく。目の前の困難に対する一時的な対応ではなく、未来を見据えた本質的な解決策とは何だろうか。

Q. 物価高騰に対する政府の価格抑制策は正しい方向にあるか?
ガソリン補助金や電力料金、消費税減税など、政府が講じる価格抑制策は、国民の目先の負担を軽減するようには見える。しかし、識者はこれらが「まずい積極財政」であり、問題の本質を見誤っていると指摘する。かつての物価が動かない世の中から、物価が上がる世の中へと日本経済は転換している。この構造変化に適応するためには、国民は物価上昇に慣れる必要がある。
重要なのは、物価の動きを無理に止めることではない。真の問題は「物価が高すぎる」ことではなく、「賃金が安すぎる」点にあると語る。物価が上がる経済下で個人が生活苦を感じるのは、所得が物価上昇に追いついていないためであり、政策は賃金引き上げに集中すべきだ。賃金が十分に上がっていれば、多少の物価上昇は生活を圧迫する要因にはならないだろう。
Q. 賃上げが見込めない年金生活者など、社会的に弱い立場の人々への支援策はどうあるべきか?
賃上げによる恩恵を受けにくい年金生活者や、そのほかの低所得層への対策も同様に、問題の本質に即したものでなければならない。現状の年金制度は「マクロ経済スライド」によって物価スライドが弱められており、インフレが進むと年金支給額が実質的に目減りしてしまう。
これに対し識者は、年金支給額をインフレ率に完全に連動させる制度への回帰こそが本質的な支援策だと主張する。かつての制度の趣旨はそこにあり、財政が苦しいという理由でその機能を抑えることは、物価高に苦しむ高齢者の生活を直撃する。政府が持つ潤沢な資金の一部をそうした制度改革に投じるべきだと提案する。
Q. なぜ国民の多くは実質賃金の将来に対して悲観的な見方をしているのか?その不安を解消するには何が必要か?
現在の日本では、自身の将来の実質賃金が「上がる」と楽観視する人がわずか4%しかいない。一方で約8割の国民が「下がる」と悲観的に捉えているというアンケート結果もある。
この根強い将来不安は、家や自動車、教育といった大きな支出をためらわせ、結果として個人消費を低迷させ、経済の足かせとなっている。物価は持続的に上がると感じている一方で、自身の賃金が今後も継続的に上がるという確信が持てないため、多くの人々が防衛的な消費行動を取らざるを得ない状況なのだ。
この悲観的見方を転換するため、政府は長期的な視点から「実質賃金の上昇」に対する明確なコミットメントを示す必要があると提言される。「10年、20年のスパンで実質賃金が毎年1%ずつ上がる」といった具体的な目標を設定し、国民に約束すべきだ。

過去の例として、最低賃金を数年で1,500円に引き上げるという長期的な目標が成功を収めている。企業側が人件費の上昇を織り込み、経営計画を立てる際の前提となるため、安定的な賃上げが実現しやすい環境が生まれた。このロジックを最低賃金層以外の全労働者の実質賃金にも適用することで、国民全体に未来への希望を持たせることが可能となる。
現在の日本が抱える深刻な人手不足も、労働者側からすれば賃上げ交渉を有利に進める絶好の機会だ。この環境は今後5年から10年程度続く可能性が高く、実質賃金の上昇には追い風となる。抜本的な解雇規制の緩和といった、実現に時間のかかる改革を待つことなく、現在の状況を最大限に活用すれば、持続的な賃上げは十分に実現可能である。
Q. 世界的に進行する技術覇権競争において、日本が取るべき成長戦略とはどのようなものか?
国際社会では、中国やアメリカがAI、ロボット、太陽光パネルなどの先端技術分野で、政府主導による巨額の産業投資競争を展開している。これら技術の多くは「勝者が全てを得る(Winner-takes-all)」構造を持つため、中途半端な投資では成果が得られない。日本がこのグローバル競争で生き残り、競争力を維持するためには、抜本的な成長戦略が求められる。
市場原理に任せるだけでは国際競争に打ち勝てない現実を踏まえ、識者は「市場の失敗」が起きやすい先端技術分野に、国家として積極的に介入し、資金を投入するべきだと説く。個別企業ではリスクが大きすぎるが、産業全体に大きな波及効果が期待できる領域への公的セクターによる戦略的投資が必要である。この覚悟が、日本の将来を左右する。
本格的な産業投資には、既存の財源だけでは不足し、増税など国民の「痛み」を伴う可能性も考慮に入れる必要がある。これは、国民が一時的に消費を抑えてでも、国家の未来のために投資を優先するかという重い選択だ。単純な成長加速ではない、「痛み」を伴う覚悟を持った成長戦略について、国民全体で議論し、合意を形成する必要があると警鐘を鳴らす。
Q. 日本銀行の物価予測はなぜ過去に外れ続けたのか?その背景にある問題とは何か?
日本銀行の物価見通しは長らく、実際の物価上昇率を下回り続けた。その主な原因は、デフレが続いた「過去のデータ」に分析が縛られていたことだ。
デフレ期には、円安や原油高になっても物価は上がらないという経験則が長年続き、この考え方が構造変化を捉えきれない予測に繋がった。このインフレ予測の誤りが、結果として政策判断にも影響を与え、政策金利の引き上げが極めて緩慢になった。現在のインフレ率3%に対し政策金利が0.75%というのは、異常なほどのマイナス実質金利状態を示している。

本来、日銀が目標とするインフレ率2%に対し、政策金利も2%程度が妥当な水準とされる。近年、日銀も予測精度を改善しつつあり、現任の植田総裁の任期中に目標水準へ金利を近づけていくことを目指していると考えられる。
ただし、今後の利上げペースは、政権の財政スタンスに大きく左右される可能性がある。政府が積極財政を続ける場合、日銀は経済理論上、利上げを急ぎすぎることが賢明でないと判断し、緩やかなペースを維持せざるを得ない局面が訪れるだろう。
Q. 現在進行中の円安の原因と、その対策はどこにあるのか?
円安が進行している現状に対し、「日銀が利上げをすれば円安は止まる」という見解が一部にあるが、識者はこれは必ずしも正しくないとする。為替レートと金利の相関性はそれほど強くなく、近年の円安も金利の動きと必ずしも一致していないと指摘する。
現在の円安の主要因は、むしろ政府が掲げる「積極財政」に対する海外投資家の「財政規律への懸念」にある。海外投資家が日本の国債を売却する動きと同時に、円を売っていることが円安を加速させている。

したがって、円安に対する本質的な対策は、性急な利上げではなく、政府が財政規律を維持する明確な姿勢を国内外に示し、市場の信頼を回復させることにある。ただし、もし円安が200円レベルまで制御不能な形で進行するような事態になれば、日銀も物価抑制という観点から、より積極的な利上げに踏み切る可能性も考慮する必要がある。
Q. 選挙において有権者は何を重視して政策を見るべきか?
来たる選挙を前に、有権者が政策を見極める上で最も重視すべきは、補助金などの短期的な「物価対策」ではなく、「持続的な賃上げや年金インフレ連動への本気度」である。
日本の根本的な問題は「物価が高い」ことではなく、「賃金が安すぎる」点にあるという認識が出発点だ。賃金が低すぎる、あるいは年金支給額が少ないという本質的な課題に真摯に向き合い、その解決に向けた具体的なビジョンと道筋を示せる政治家や政党こそが、国民の生活を豊かにし、日本の未来を切り開くと語る。
目先の物価高を理由に、補助金などで価格を一時的に抑えようとする対症療法的な政策は、問題の根本解決を先送りするに過ぎない。そのようなリーダーではなく、長期的な視点に立ち、所得を向上させることで国民全体の豊かさを実現しようとする指導者を選ぶことが、今最も求められる。